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【社説】

はだしのゲン 彼に平和を教わった

 原爆の焦土をたくましく生き抜く少年を描いた漫画「はだしのゲン」。世界中の子どもたちが彼に平和を学んでいる。それを図書館で自由に読めないようにした大人。ちょっと情けなくないか。

 「はだしのゲン」は、英語、ロシア語、クロアチア語など世界約二十カ国語に翻訳されている。

 書物を出すのに政府の許可が必要なイランでも、ことし五月にペルシャ語訳が出版された。

 原爆を投下した米国でも、全米約三千の図書館に所蔵され、韓国では全十巻三万セットを売り上げるベストセラーになっている。

 一九七三年に連載がスタートし、八五年に完結した。誕生から、ことし四十年になる。

 「はだしのゲン」は、漫画やアニメが日本文化の代表として、世界でもてはやされる以前から学級文庫に並んでいた。

 今月五日、広島原爆忌の前夜には、市民グループの手によって、原爆ドームの足元を流れる元安川の川面に、作者の中沢啓治さんとゲンの姿が映し出された。

 なぜゲンが選ばれ、読み継がれているのだろうか。

 単行本一巻目の表紙には、青麦を握り締めてほほ笑むゲンの横顔が描かれている。踏まれても踏まれても、たくましく穂を実らせる、青麦は成長のシンボルだ。

 <私は「はだしのゲン」を読んで、原子爆弾が投下された日の広島のことを知った気になっていました。しかし、(被爆体験者の)お二人の話を聞いて、たくさんのことが分かりました>

 愛媛県の少女が地元紙に寄せた投書の一節だ。

 松江市教委が問題視したような残虐とも思える描写も確かにある。しかし、子どもたちは、それも踏まえて物語を貫く平和への願いや希望を感じ取り、自分の頭で考えながら、ゲンと一緒にたくましく成長を遂げている。

 表現の自由や図書館の自由宣言をわざわざ持ち出すまでもない。

 大人たちがやるべきなのは、目隠しをすることではない。子どもたちに機会を与え、ともに考えたり、話し合ったりしながら、その成長を見守ることではないか。

 昨年末に亡くなった中沢さんは「これからも読みつがれていって、何かを感じてほしい。それだけが、わたしの願いです」と、「わたしの遺書」の末尾に書いた。子どもたちよ、もっとゲンに触れ、そして自分で感じてほしい。

 

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