投稿日 2013年8月31日(土)05時35分 投稿者 柴田孔明
2013年8月30日16時より、「イプシロン試験機打ち上げ中止の原因究明状況記者説明会」が内之浦宇宙空間観測所で開催されました。
・[説明者]
宇宙航空研究開発機構 宇宙輸送ミッション本部 イプシロンロケットプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 森田泰弘
・[説明補助者]
宇宙航空研究開発機構 宇宙輸送ミッション本部 鹿児島宇宙センター 射場技術開発室長(打上管制隊企画主任) 長田弘幸
・森田プロジェクトマネージャより
待望のイプシロンロケット打ち上げが発射直前で緊急停止したことで、全国の宇宙ファンのみなさん、内之浦の皆さん、現地に応援に来てくださった皆さん、JAXA放送等で全国から応援してくださった皆さん、報道陣の皆さん、いろいろな方にご迷惑をおかけして申し訳ないと思っています。MVロケットから7年が経過し、いろいろな方の応援でようやくここまでこられた。確実に成功するように今後もしっかり作業していきますので、今後も応援をお願いいたします。
・打ち上げ中止の経緯
1.13時45分00秒の打ち上げに向け、打ち上げ時刻の70秒前に自動カウントダウンシーケンスを開始した。
2.打ち上げ20秒前に地上装置(LCS)からの信号でロケットの搭載計算機(OBC)を起動。1秒後にOBCがロケットの姿勢計算を開始した。
※LCS:イプシロンロケットの点検・打上げを遠隔で操作するための地上設備であり、ロケットの発射点であるM(ミュー)台地から約2km離れた宮原地区のイプシロン管制センター内にある。いわゆるモバイル管制装置。
※OBC:イプシロン搭載のオンボードコンピュータ。
3.LCSでは打ち上げ19秒前から姿勢データの監視を開始したが、ロール姿勢異常を検知して自動停止した。
・現時点で判明している原因は以下のとおりである。今後、さらに詳細な原因究明を行う。また、他の原因がないかを時間をかけて検証する。
1.地上装置(LCS)による監視が、搭載計算機(OBC)の姿勢計算開始より約0.07秒早かったため、(地上装置が正しいデータを受け取る前に)姿勢異常と判定し、自動停止した。
2.異常データが示された場合に即座に自動停止がかけられるように監視時間を厳しく設定していたことに加え、搭載計算機と地上装置の時間のずれに配慮できていなかったことが原因で、深く反省しているところである。
3.8月20日と21日に実施したリハーサルでは、打上げ18秒前までのカウントダウンシーケンスを流してシステム全体の確認を実施したが、本件については以下の理由により検出することが出来なかった。
・8月20日のリハーサルでは、初めてロケットを搭載した状態でランチャ旋回を実施して、姿勢データを取得した。その結果、地上装置の監視設定値が適切ではないことが判明したため、自動停止項目から除外した。
・8月21日のリハーサルでは、監視設定値を適切に変更したが、天候不良によりランチャ旋回を行わず、カウントダウンシーケンスを模擬した。
4.リハーサル終了後に、 取得データの評価により監視設定値の妥当性を確認したが、約0.07秒の微小な時刻ずれまでには思いが至らなかった。
・対応状況
本事象への対策として、これが今回の原因と確定すれば、搭載計算機と地上装置の時間のずれを考慮した監視時間に変更する方向で検討を行う。
併せて今回の事象を踏まえ、他の監視項目で似た事例がないかなど、徹底的に再点検を行い、次回の打上げに向けて万全を期す予定である。
既に2回目の延期のため、単に直接原因の対策では済まされず、JAXAの総力をあげて総点検を行い、より成功確率をあげていく。総点検の結果をふまえて、あらためて対策を行い、打ち上げ作業の再開を行うため、今日の所は打ち上げ時期は決められない。
・質疑応答
KTS・打ち上げ時期は決められないとのことだが、ウインドウ(9月30日まで)のどこになりそうか。文部科学大臣は9月の早い時期に打ち上げたいと言っていたが。
森田・物凄く難しい。総点検の方法や実施、結果の反映のため、どのくらいになるかが読めない。大事な初号機なので、絶対成功が目的であり、時期を足枷にしない。
読売新聞・0.07秒のずれとは、どういった原因なのか。管制室までの距離が長くなったためなのか。
森田・地上のコンピュータから搭載コンピュータに起動の命令を出すが、そこに伝達するまでに時間がかかったと考えている。距離も原因としてあり得るが、演算処理の遅れもあるため、原因は一つではない。
共同通信・20日のリハーサルでは適切ではなかったというが、その時点で0.07秒の問題が出ていなかったのか。
森田・その時点で識別できていなかったが、その後の解析でずれが起こっていたのは確認している。はっきり言うと、見落としていたことになる。27日の夜、発射の自動シーケンス停止後の解析で気づいた。
共同通信・打ち上げ時期は、ウインドウ(9月30日)を超える可能性はあるか。超えた場合はどうなるか。
森田・再点検の結果による。ウインドウ内に上げる努力をしたい。期限を過ぎた場合、新たなウインドウの設定をすることになる。
産経新聞・0.07秒のずれだが、これに許された時間はどれくらいか。これまでの例はどうだったか。
森田・もともと監視を厳しくして、時間差が無いものとしていた。半分でもいいというものではなく、十分に小さいものでなくてはならなかった。この判定は初めてなので前例は無い。
共同通信・地上の機器は最新だったと聞いているが、搭載機器も最新も最新のものだったのか。
森田・ジャイロやコンピュータなどは、H-IIA用の機器をイプシロン用にマイナーチェンジしたもので新しいものである。また、この転用が問題の原因ではない。
産経新聞・再リハーサルは行うか。
森田・それも含めて検討中です。
南日本放送・20日の段階で、既にずれが生じていたのか。
森田・その通りでずれが起こっていた。必ず起こる、再現性がある。
南日本新聞・総点検のプロジェクトチームのメンバーはどうなるか。
長田・我々打ち上げ隊も関係者なので、打ち上げに関係していないJAXAの各部門から集めて、違う視点でやってもらう。既に有識者のレビューを始めているが、それ以外の方でこれからJAXA内部の他の部署で行うことになる。
南日本新聞・現時点で他の問題・不具合があるか。
森田・現時点では無い。
KYT・0.07秒のずれだが、19秒前に行うのは、地上側(LSC)が早かったのか。
森田・そうである。機体側のデータがまだ来ていない状態である。
KYT・20日の監視項目は緩かったのか。
森田・整備塔からランチャを旋回させたが、角度の初期値が、搭載のものと2度ずれていた。そのため閾値を変更した。
KYT・考慮した時間にするのは、監視を緩めるということか。
森田・緩めるのではなく、監視の開始タイミングを変える。
南日本新聞・20日と21日のリハーサルが想定通りに行われていたなら気づいていたか。
森田・大変悔いが残るが、雨が降らずにやれていれば検出できた。
南日本新聞・21日のあとにもう一回リハーサルをやることは考えなかったのか。
森田・それをやると打ち上げ日が遅れる。このチェック項目は単純なので、あとでデータを人がチェックすれば良しとしていた。
毎日新聞・0.07秒のずれが生じた理由は。
森田・主要なファクターとして、搭載機器の伝送経路にあるコンピュータの処理時間である。LCSからOBCに命令が届くのが0.07秒遅れた。
鹿児島テレビ・この0.07秒の遅延は必ず生じるのか。
森田・その通り。
鹿児島テレビ・この0.07秒だが、伝送時間を考慮していなかったということか。
森田・打ち上げ20秒前にLCSから起動信号を送り、19秒前にOBCからLCSに姿勢データを送るのだが、OBCが打ち上げ19秒前としていた時刻は、LCSより0.07秒遅かったことになる。
これはランチャを旋回しないと判明しなかった。
鹿児島テレビ・資料の「思い至らなかった」という表現について、どういう意味か。
森田・気づける人がいれば気づいたという意味である。
西日本・20日に自動停止の項目から除外していなければ気づけたのか。
森田・適切でない値のため、正しく監視できないとして外していた。この時点で正しい項目であったなら、気づいていた。
読売新聞・これは伝送ロスか、それとも演算処理の問題か。
森田・物理的には両方ゼロではないが、今回の0.07秒は伝送ロスではなく、主要なファクターとして伝送路にあるコンピュータの演算遅れと考える。
・東京会場
時事通信・0.07秒の遅れでは、仕様で盛り込んでいないのか。他の部分では起こらないのか。
森田・仕様として抜けていたのが正直なところ。設計には誤りが無いが、監視のタイミングの設定について遅れがある点が抜けていた。
時事通信・点検項目を20日のリハーサルでは外し、21日には悪天候で旋回しなかったということで、点検項目の漏れをチェックする仕組みはなかったのか。
森田・これは漏れではないと考える。ログの分析によりリハーサルを行った時と同様に確認ができると考えていた。確認の観点として不十分だった。
フリー大塚・0.07秒の遅れは片道か、往復のものか。
森田・片道のみで0.07秒である。OBCの起動以降はデータにタイムスタンプがつく。
フリー大塚・どんな機器が遅れたのか。
森田・主要な要因としてROSEを経由した際に遅れた。伝送経路の細かい要素の影響は小さい。
フリー大塚・20日のリハーサルで、監視設定値が適切でないのは、いつ気づいたのか。
森田・リハーサルの直前であった。もともとはゼロを中心としてプラスマイナス1度だが、正しくは2度を中心としてプラスマイナス1度、つまり2度から3度が正しい。
フリー大塚・27日にロール軸の閾値を超えたとあるが、0.07秒の遅れとの関係はどういったものか。ピッチとロールの値はゼロなので問題が出なかったということか。
森田・発射の瞬間の監視設定値は1度から3度に設定されていた。旋回後は2度になっていて、演算開始後にこれが範囲内だとして合格するのが正しいプロセスである。これが0.07遅れたため、演算前のゼロが来てファールとなった。ピッチとロールはもともとゼロで、遅れがあっても問題とならなかった。
日経BP・18秒前までしかリハーサルができない原因として熱電池の問題があるが、これのコストは。リハーサルでこれを使った場合は。
森田・コストは今データが無い。ただし熱電池の問題はコストではなく、準備期間である。火薬で電力を発生させるもので1回しか使えず、取り替えるのに最低でも2日かかる。これはMVロケットの頃から同じ。
日経BP・2日で交換できるならやった方がいいのではないか。
森田・熱電池は1回で使えなくなるため、実物での試験にはならない。
日経BP・熱電池を起動させれば、その他の部分の稼働は確認できるのではないか。
森田・例えばロール角の試験はランチャの旋回が必要だが、熱電池についてはランチャを出さなくてもできる。熱電池はロケットの組み立て工程でも試験ができる。いつ試験しても同じなので、なるべく早い時期に試験にするべきとの観点から工場で行っている。
NHK・リハーサルでトラブルがあったが、この遅れを見落とした原因は。他の問題の影響か。
森田・他のトラブルがあって見落としていたのではなく、監視項目で遅れを考慮していなかったため。
NHK・この数値を見る人はいなかったのか。
森田・人が見るよりも、自動監視のプロセスが通るか通らないかでやってきた。ロール角が0度でもOKという試験をしてしまったため、時間差が問題にならなかった。
NHK・0.07秒の遅れについて、通信の時間を想定していなかったのか、想像以上に時間がかかったのか。
森田・前者です。
東京新聞・自動停止の原因はROSEの遅延を考慮していなかったのか。
森田・ROSEだけでなく、OBCの中でも遅延があり、ROSEの有無にかかわらず今回の事象が起こったと思われる。
東京新聞・MVではどうだったのか。
森田・MVでは自動判定が無く、人がやっていた。
東京新聞・遅れがあったまま発射したらどうなっていたか。
森田・難しいが、仮に発射しても飛行自体には影響は無かったであろうと考えている。
東京新聞・延期に伴い費用の増加について。
長田・今正確な金額は出ないが、トラブルシュートの人員や、新たな打ち上げ日設定により陸上や海上が要因のお金がかかり、当初の27日の時よりも費用が増えることになる。
読売新聞・これから遅れを考慮した監視時間になる訳だが、ハードでは無理なのでソフトで対策するという意味なのか。
森田・これら監視設定値はもともとソフトで設定するものである。
読売新聞・イプシロンで新たに開発した機能に問題が生じたということか。
森田・人の思いつかない部分を指摘するという点で十分に機能した。こういった件を乗り越えていかないと、しっかりしたものができない。
読売新聞・今後、2号機以降への影響はあるか。
森田・コンピュータには問題は無い。監視システムのソフトの問題である。2号機のハード変更は必要ない。
朝日新聞・LCSにデータが戻るときの遅延はあるか。
森田・タイムスタンプがデータに付くのでそれは無い。
朝日新聞・打ち上げ中止により交換が必要なものはあるか。
森田・検討を進めているが、ただちに交換するものは無い。時間が経過すると再度点検が必要な物があり得るので洗い出しをしている。
朝日新聞・中止により衛星への影響はあったか。
森田・イプシロンは発射の直前まで清浄度の高い空気を送れるので問題は無い。
共同通信・0.07秒の問題だけに限定すると対策は難しくないのか。
森田・その通りで、多少の手直しで済む。対策と検証は1日か2日で済む。しかし2度目の延期なので、他の事象の確認を行う時間が必要。
共同通信・再点検では機体を分解して点検するのか。
森田・リハーサルで今回の事象以外を既に確認しているので、リハーサルで抜けている項目が無いか、Xマイナス18秒以降で問題が無いかを点検する。ロケットを分解するようなことは無い。
NHK・いくつかのコンピュータの遅れで0.07秒が送れたとのことだが、具体的にどこの部分で遅れたのか。
森田・大きな遅れはROSEの中の通過と、OBCの入り口で命令を受ける部分である。
NHK・ROSEに問題があったということか。
森田・そうではない。ROSEの通過とOBCの受けで遅れが発生するのはもともと避けられない。
NHK・当然ある遅延を事前にわからなかったのか。
森田・自動監視において、遅れを反映できていなかったのは事実である。
日本放送・打ち上げ前の会見で自信の大きさについて不安が小さいとおっしゃっていたが、小さい不安について、これはリハーサルでランチャ旋回ができなかったことか。
森田・今回のリハーサルで見過ごされた部分に対策を行い、さらに視野の広い特別点検をすることで、イプシロンに対する自信は揺るがない。
日本放送・打ち上げ中止後の見通しと、今の思いとの違い。
森田・打ち上げ中止後は、現象の特定もできるので、すぐ打てるだろうと思っていた。ただし、ここに事態が至ると不具合を直せばいいというものではなく、直接原因の対策だけでなく、隠れたものがないか第三者も含めて冷静にしっかりやっていかねばならない。
日本放送・見通しが甘かったことの認識はあるか。
森田・はやる気持ちを抑えきれなかったことはあるが、この事象に対策するだけでなく、しっかり仕切り直しをして、あらゆる事をやり尽くして打ち上げに臨むことがいちばんいい事となる。
フリー秋山・今後の対策として信号が届いてから監視するのか。
森田・その通り。届くタイミングで監視が開始するようにする。
フリー秋山・別の理由で問題が発生して全くデータが届かない場合、また停止するのか。
森田・監視開始の時刻を変えるだけなので、他の障害が発生するものではない。
ライター喜多・チームの皆さんは凹んでいないか。リーダーとしてモチベーションの維持はどうするか。
森田・8月27日に向けて緊張しつつ休み無くやってきたが、総点検で精神的には厳しい。しかしもともとの目標は、イプシロンの打ち上げ成功である。あと何日かかるか判らないが、7年間の苦労に比べれば頑張りきれるのではないかと考え、しっかりリードしていきたい。
・内之浦会場
産経新聞・慎重に行うとの趣旨だが、各方面の準備があるので、最速でどのくらいの期間がかかるかお聞きしたい。
森田・現時点では特別点検が始まる前であり難しい。しかし時間を無制限にかける訳ではない。
共同通信・ロケットでOBCの位置はどこか。
森田・イプシロンの計器部(3段目)だが、初号機はオプション形態で4段目があるので、その一部にある。姿勢センサと同じ位置である。
共同通信・有識者の数はどれくらいになるか。
長田・これからチームリーダーが人選して決めることになる。十数人規模になると考える。
以上です。
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