金言:民間対話が必要だ=西川恵

毎日新聞 2013年08月30日 東京朝刊

 <kin−gon>

 今月22〜24日、ソウルで開かれた日韓フォーラムに参加した。両国の学者、政治家、ジャーナリストらが年1回、両国関係などについて率直に意見を交わす機会で、今年21回目。これまでで最も双方の意見が食い違う会合となった。

 昨年末の安倍晋三首相の登場以来、韓国の「日本の右傾化」「再軍国主義化」批判は衰えを見せない。議論の中で私は「日本全体が右傾化している」との韓国の認識は、日本世論の質的変化を見落とし、実体からかけ離れた日本像を作り出してはいないかと指摘した。

 韓国排斥の右翼的な言辞を弄(ろう)する一握りの人間はいつの時代にもいる。問題は、これまで韓国といい関係を築かねばならないと考えていた良識ある多くの日本人が、韓国への幻滅感と徒労感に襲われていることである。両国の関係改善に力を注いできた人のみならず、韓流ブームで韓国の歴史と文化を身近に感じていた人など、韓国に親近感を持っていた人がマスとして距離を置き始めている。

 これまでは関係が悪化しても、復元させようという動きが必ずあった。両国関係に尽力してきた日本側参加者の一人が私に「いまの日本では動くに動けない」と語ったように、日本全体が冷めている。この日本世論の質的変化は昨年夏の李明博(イミョンバク)大統領(当時)の竹島(韓国名・独島)上陸が引き金となった。一国の首脳の軽率な言動が外交関係に破壊的に働いた典型例だ。

 両国関係以外で日韓の見解が大きく隔たったのは中国に対してだった。中国の景気減速、シャドーバンキング(影の銀行)問題、格差拡大……。中国の問題点を指摘する日本側に、韓国側の識者は「日本は中国リスクを言いすぎる」と苦言を呈した。

 対中貿易依存度が30%を超える韓国にとり、中国の重要性は増している。特に朴槿恵(パククネ)大統領になって対中傾斜は顕著だ。日本からすると、人権、民主主義の価値を共有する日韓が話し合うべき課題は多い。例えば大国化する中国への対応、北朝鮮問題、新興国の経済的追い上げにどう向き合うかも共通の課題のはずだ。しかし韓国にその認識は低い。中国の重要性は日本の存在の希薄化を招いている。

 フォーラムに参加して感じるのは、こうした民間対話がいま両国に必要とされていることだ。意見は違っても、会って話すことは相手の立場になって考える機会となる。日韓は首脳会談の条件が整うまで民間対話で溝を埋めていくしかない。(専門編集委員)

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