復興を問う:東日本大震災 第1部・自立への模索/2 宮城・石巻の水産業者、販路開拓へ

毎日新聞 2013年08月25日 東京朝刊

ナイフと軍手、説明書と季節の草花を添えてカキを箱詰めする。「お客さんから手紙やメールが届いてうれしい」と鈴木一樹さん(右)=宮城県石巻市で、小川昌宏撮影
ナイフと軍手、説明書と季節の草花を添えてカキを箱詰めする。「お客さんから手紙やメールが届いてうれしい」と鈴木一樹さん(右)=宮城県石巻市で、小川昌宏撮影

 ◇強いブランド力を

 発泡スチロール箱にたわしで丁寧に洗った殻付きカキを並べる。宮城県石巻市牧浜のカキ養殖業者、鈴木一樹さん(32)が、仲間とインターネット通販に取り組んで半年になる。

 東日本大震災前、宮城県のカキ生産量は年約4000トンで広島県に次ぎ2位を誇った。だが養殖施設が被災し、25%ほどにしか回復していない。鈴木さんは漁協を通じて業者にむきカキを出荷していたが、牧浜の共同処理場の整備も遅れ、活路を求めたのが殻付きの通販だった。

 「カキをはじめ三陸産は業界内の評価は高いがブランド力は弱く、営業も苦手」。全国から水産物が集まる東京・築地市場の卸売会社「東都水産」の吉牟田(よしむた)雄三執行役員は言う。「だから震災後、あっさり他の産地に取って代わられたんです」

 背景には流通構造の変質もある。かつて築地では、未明に卸売場に並ぶ魚を仲卸が吟味して競り落とし、魚屋が仲卸を信じて買うのが普通だった。だが力を強めてきた大手スーパーの「競りを待っていると開店に間に合わない」という要求で20〜30年前から変化が起き、現在競られるのは取引量の2割以下。スーパーは築地に魚が届く前に電話で買い付ける。物を言うのは質より価格だ。吉牟田さんは「産地の魅力を売り込みたいが……」とすまなさそうに言う。

 出荷開始が早く秋口は高値で取引される宮城のカキも、冬場になると生産量や低価格で勝る広島産に押されてきた。生産が回復しても売り先を取り戻せるか分からない。

 石巻魚市場で今春、市場関係者や水産加工業者が「石巻ブランド」を確立するための勉強会をスタートさせた。水産加工会社「ヤマトミ」の営業部長、千葉尚之(なおゆき)さん(37)も参加者の一人だ。

 同社は津波で工場が全壊。休業している間に大口の仕事を失った。大手コンビニが節分前後に売り出す恵方巻きの具材のアナゴは、利幅は薄いが全国規模の大量受注で、年間売り上げの相当割合を占めていた。業務が再開しても注文は戻らなかった。低価格の中国産に乗り換えるうわさが震災前からあった。

 好漁場の金華山沖で揚がる「金華サバ」を使ったシメサバに再起をかけ、催事や展示会に積極的に顔を出して商品をアピールした。質の高さを評価したある居酒屋は、ヤマトミの言い値で契約を結んでくれた。「石巻の魚の価値を売り込むことを諦めていたことに気付いた」と言う。

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