復興を問う:東日本大震災 第1部・自立への模索/1(その2止) 「土地譲れぬ」開発の壁
毎日新聞 2013年08月24日 東京朝刊
<1面からつづく>
◇陸前高田、焦る商店主
震災から2年半がたつ中心市街地で、復興のつち音はどこからも聞こえてこない。岩手県陸前高田市は、津波で壊滅した市街地の海側を公園とする一方、山側約90ヘクタールを盛り土で今より5〜6メートルかさ上げし、商店や住宅が並ぶ新しいまちをつくろうとしている。
「やっぱり土地は売れねえな」。祖父母の自宅や自分と両親の自宅兼美容室を津波で流された男性(35)は6月、市から届いた書面を前に、仮設住宅で共に暮らす父(65)とそんな話をした。
市は新しい商業エリアの開発で、住宅や店舗を流された地権者たちの土地を買い上げ、かさ上げ後に販売、賃貸する手法を模索する。市による“地上げ”は国の「津波復興拠点整備事業」に基づき、再建のスピードアップが期待できる。買い上げ費用は国が負担。書面は、市が地権者に土地売却の意向を聞く調査だった。
「このまちに暮らしながら、自分の場所を他人が使うなど想像もできない」と男性は言う。土地は先祖から受け継ぎ、祖父母で16代目。その祖母も母親と津波にのまれた。土地は生きる支えであり、そこで新たな商いを始めたいと願う。
買い上げが無理なら、地権者全員の同意のもと、土地の換地(再配置)を進める従来の「土地区画整理事業」の手法を取るほかない。地権者は2000人を超え、亡くなった人も多い。道路1本引くにも膨大な利害調整が必要で、果てしなく時間がかかる。
一刻も早い商店街再生を願う文具店主の男性(59)は焦る。「イオン開店は来年春。かさ上げが終わるころ、どれだけの商業者に力が残っているのか」
市の意向調査に対象地権者120人のうち90人が回答を寄せた。「売ってもいい」は3割だった。家財一切や家族を奪われ、残った土地に抱く被災者の当然の思いが、まちの再建を遅らせかねない。
◇大船渡、大手に学び対抗へ
イオンの商圏となる北隣の大船渡市は、陸前高田に比べれば中心市街地の被災面積が小さく、地権者も少なかった。このため、市は津波復興拠点整備事業に着手。来年春にかさ上げを終え、店舗が建ち始める計画だ。
のり店を営む伊東修さん(60)は2011年末、仮設商店街に店を構えて驚いた。内陸からの日帰り客などで震災前とは比較にならないほどにぎわう。初めてでも入りやすいよう店を模様替えした。向かいの鮮魚店はウニや筋子の仕入れを増やし、包装を工夫した。