復興を問う:東日本大震災 第1部・自立への模索/1(その1) 三陸でイオン「実験」
毎日新聞 2013年08月24日 東京朝刊
◇中心部に出店、「一からまち作り」 都市部飽和、流通生存かけ
流通最大手イオンが来年、東日本大震災で壊滅的な被害に遭った岩手県陸前高田、釜石両市の中心部に相次ぎ出店する。大型店舗を都市部の郊外に展開し、中心市街地を空洞化させたと指摘されてきたが、「被災地で一からまちを作る」(村上教行(のりゆき)・イオン専務執行役東北代表)と新たな方向性を打ち出した。都市部で出店余地がなくなる中、巨大流通資本が人口減少社会での生き残りをかけ、被災地で「実験」を始める。
陸前高田市では「イオンスーパーセンター」が来春、水田の一角に開店する。1キロ先の海辺の中心市街地は津波で更地となっている。出店の背景には数年続くとみられる復興需要がある。流入する大量の作業員で当面の人口減少分は埋まり、仙台市−青森県八戸市間の三陸沿岸道路建設も震災後に本格化している。
だが、村上氏は「それだけではない」と強調。「中心商業施設を目指す。郵便局も地元商店も近くに来ればいい」と、まちづくりの青写真を語った。復興後も作業員を地元に定着させるため、グループ傘下の結婚相談所で相手を紹介する。その子供が学校に上がれば学用品を提供する。「まちそのものを作る覚悟だ」。そう語る村上氏も宮城県気仙沼市出身で、兄の営む商店は津波で流された。
この出店を、現地イオン関係者は「実験」と呼ぶ。大型小売りが都市部で飽和し、隣の宮城沿岸部でも他社との競合が強まる中、より人口の少ない空白地帯へどう展開していくかに存続がかかる。新店舗の延べ床面積は従来の半分の約6000平方メートル。「陸前高田で成功すれば他の地方都市でもやっていける」と語る。
地元に復興後の撤退を心配する声もあるが、村上氏は強く否定。周囲の環境変化に合わせ店舗移転を奨励した創業者の家訓「大黒柱に車をつけよ」を引き、「まちを転々と歩けと言われてきたが、転々とするまちもなくなった」と新たな道を迫られた背景を述べた。