ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
地下迷宮
53.元勇者・エルフを脱がせる★
 瓦礫が散乱する中、俺は立ち上がる。

 一応、魔力で防御したのでキズは浅い。
 多少擦り傷ができた程度だ。
 あまり威力は無かったのだろう。

 しかしそうは言っても、迷宮の床が抜け、さらに下の階層まで落ちてしまった。

 見上げると、2階層程落ちてきたようだ。

 穴が空いているから、地下20階まで飛び上がるのは容易だろう。

 それよりも、まずはあのエルフの少年を探さないといけない。

 あの時、俺は目の前までは移動していた。
 自爆の直撃は受けていないと思う。
 が、この崩落に巻き込まれたのは事実だ。

 無事でいてくれるといいんだが。

捜索サーチ

 俺は魔法で周辺を確認する。
 ゴーレムの自爆で瓦礫が多く、迷宮の魔力が乱れているため、ただでさえ不明瞭な捜索サーチが、余計にハッキリとわからない。

 少しでも動いてくれれば……。

 そう思うが、周囲に動く者の気配がない。

 くそっ。
 まさか……。

 いやまて、そう簡単に諦めるな。

 俺は思い直し、捜索サーチに指向性を持たせ、じっくり確認して行く、

 ……。

 …………。

 ……いた!

 少し離れた所に、人影を発見する。

 それでもハッキリと姿形はわからないが、確かに人がいる。

 俺は急いで瓦礫をどかしていく。

 そして、瓦礫の下に、エルフの少年を発見する。

 良かった。
 取り敢えず死んではいない。

 しかし、マズイ。

 右肩に拳大の破片が突き刺さり、かなりの量の出血がある。

 このまま放って置いたら、間違いなく死ぬ。

 俺はエルフの少年を瓦礫から引き出し、座らせる。

 止血しなければ。

 幸い、彼に預けていた俺のリュックもすぐ近くに埋まっていた。

 スマフォやらが壊れたりしていないか心配だが、今はそれどころではない。

 リュックから、応急道具を取り出す。

 えぇっと、こういう時、どうすればいいんだったかな。
 さっき、上で教師の手当をした時は、ここまでの出血はしていなかった。
 手足の出血なら、根元を縛るくらいはできるんだが、肩となるとどうすれば良いんだったかな。

 確か、刺さっている物は抜いたら出血が酷くなるから、そのままにしておいた方がいいんだったか。
 そもそも、身体を起こすのはマズイんだったか?

 ああ、いかん、パニクってる。

 落ち着け。
 落ち着け。

 以前は回復魔法に頼っていたので、あまり詳しい知識がない。
 俺は回復魔法が使えない。

 落ち着いて処置しなければ。

 治療は、なんとか地上まで戻って、誰か回復魔法が使える人に頼むしかない。

 取り敢えず、この破片は抜かないにしても、深く刺さったり、抜けないよう、固定した方が良いだろうか。

 肩の止血は、鎖骨のあたりを抑えるんだったような気がする。

 とにかく、傷口と、出血具合を見なくては。

 俺は頭の中でグルグルと考えながら、少年の上着を脱がせた。
 傷口に触れないよう、破片が刺さった部分は破る。

 すると、可愛らしい、丸い膨らみが二つ。

「ぅぇっ!?」

 驚いた。
 男だと思っていたのに、お胸が膨らんでいたら、そりゃ驚く。

 おかげで、こんな状況なのに、随分と素っ頓狂な声をあげてしまう。

 こ、こいつ、やっぱり女の子だったのか。

 ボクとか言うから、男だとばかり……。

 あー、でも思い返してみれば、男だとは一言も言ってなかったな。

 ボクっ娘か。

 その発想はなかった。
 普段なら、気付けたはずだと思いたい。

 挿絵(By みてみん)

 って、それは今は置いておけ。
 流石の俺でも、血だらけの女の子を目の前に、変態行動をしている場合ではない事はわかる。

 早く止血しないと。

 丸めた布を鎖骨の窪み、首筋あたりに押し付けて、ギュッと力を入れる。

 女の子は少し呻きを上げるが、緩めるず抑える。

 暫くすると、少し出血が収まる。
 良かった、なんとかなりそうだ。

 俺はそこが圧迫されるように包帯で固定する。
 同時に、右腕も動かないように、首に吊り下げるよう、固定した。

 途中、包帯がなくなってしまったので、借りてきた制服のローブを破いたりして代用する。

 後は身体中にできた擦り傷なんかを、消毒液で綺麗にして置いた。

 取り敢えず、今俺にできる応急処置はこんな所か。

 後は、今だ丸出しな、その可愛らしいお胸を隠すため、残ったローブを羽織わせておこう。

 と思っていた時、女の子が目を覚ます。

 あ。やべ。

「ぅ……。ここは……? ……っ!?」

 虚ろな目で状況を確認しようとして、痛みに顔を歪める。

 って、目が覚めた事は良い。
 しかし、丸出しの胸はマズイ気がする。
 妙な誤解をされたりしないだろうか。
 せめて、ローブを羽織らせてから目覚めて欲しかった。

 ど、どどうしよう。

「え、えっと……」

 なんて声をかけようか、答えが出ない。

 取り敢えず、応急処置のために脱がせた、他意はない。

 こんな感じで大丈夫だろうか。

 そんな事を考えている間に、エルフの女の子は、自分の胸が露出している事に気づいてしまった。

 しまった。

 出遅れた。

「これは……。
 ……お、おにーさんが処置してくださったんですね。
 ありがとう……ございます」

 女の子は冷静に状況を理解したようだ。
 う、うんうん。
 まあ、わかるよな。

 良かった。

「あ、あの……その事は感謝します。
 で、ですから、その、出来ればおにーさんが手に持っているローブを貸してもらえませんか?」

 その子は左手で胸を隠しながら、そう言ってくる。

「えっ? あっ! あぁ、ご、ごめん」

 俺は謝って、女の子にローブを渡した。

「ありがとうございます」

 女の子は出血のためか、顔が高揚するという事はないが、流石に恥ずかしそうに受け取りローブを羽織る。

 そして、俺は再び驚いた。

 出血が酷くなると思って、そのままにしておいた刺さった破片を、彼女は左手で引っこ抜いたから。

 えぇっ!?
 抜いちゃうの!?

 案の定、傷口の出血が酷くなる。

「え?ちょ、ちょっと、なんで抜くの?」

 俺のせっかくの苦労が一瞬で無駄になった思いだ。

 いや、それは別にいいんだけど、下手に出血が酷くなると、上まで持たないぞ。

「つっ……っ!
 す、すみません……せっかく処置して頂いたのに。
 でも、こうしないと治療出来ないので」

 治療?

 ん?
 どういう事?

 俺の理解が追いつく前に、彼女は行動を開始する。

「大気の精霊よ、その力で癒せ治療ヒーリング

 彼女がそう唱え、傷口が淡く光り、傷が塞がっていく。

 おお!
 回復魔法だ!

 しかも作用が早い!

 5cmくらいの傷口。
 それと同じ位は中に刺さっていたであろうが、みるみると塞がった。

 彼女は同じ要領で、他の擦り傷なんかも治療していく。

 そして、あっという間に綺麗な白い肌を取り戻した。

「か、回復魔法か。凄いな」

 俺は素直に感嘆の声をあげた。

 実際、回復をイメージするのは難しい。
 俺なんかも練習したが、全くイメージできなかった。

 回復魔法が使える魔法使いは、皆無ではないが、割とレアなのだ。

「い、いえ、ボクなんか……。
 おにーさんの方が、余程凄かったですよ」

 優しく微笑み返してもらう。
 やっだ可愛い。

 って、またそれか。
 状況を考えろ。

「いや、まあ、お互い様って事で。
 それより、怪我はもう大丈夫か?
 大丈夫そうなら、少し休んでから上へ戻ろう」

 俺はそう提案し、上を指差す。

 彼女も、それに合わせて上を見上げる。

「そうですね。ケガはもう大丈夫です。
 ありがとうございます」

 何がありがとうございますなのかわからない。
 心配してくれて、って事かな。

「そうか。てか、いちいち礼なんて言わなくていいぞ。
 取り敢えず、地上に戻るまではパーティーだ」
「は、はいっ! ありが……あっ! す、すみません……」

 なんだか可愛らしいその様子に、笑みが零れた。
 そういえば、シャロンと初めてあった時も、似たようなやり取りをしたな。
 あの時は敬語かどうかだったっけ。

「あの、じゃあ、地上まで宜しくお願いします。
 ボク、セリス。セリスティア・オルゴーです」
「俺はアマギ・ハルト。なんか色々やってるが、取り敢えず基本は冒険者だ。よろしく」

 お互いに名乗り、握手を交わす。
 セリスティア……セリスの柔らかい手の感触で、ひとつ思い出した。

「あ、そうだ。
 そういやさっき、男とか言って悪かったな。
 ボクって言ってたから、勘違いしちゃったよ」

「え? ……ふぁっ!? あ、あの、そ、それは……はい……」

 何やら今度こそ顔を赤くして、もじもじするセリス。

 何この反応?
 んん?

 あ。

 男だと思ってたのに、女だとわかった。

 つまり、さっき胸を見られたからって事になる。

 し、しまった。
 考えなしに無神経な事を言ってしまったようだ。

 どうフォローしたものか、と、その時。

 俺の後方で、バゴンッ!と音を立て、瓦礫の下から黒い影が姿を現した。



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。