日米両政府は、米軍の新型輸送機オスプレイが参加する日米共同訓練を、10月に高島市の陸上自衛隊饗庭野(あいばの)演習場で実施する方向で最終調整に入った。もし実施されれば、戦時を想定したオスプレイの訓練は日本で初めてだ。 地元からは早くも不安の声が上がっている。防衛省は本当に訓練を実施するつもりなのか。滋賀県や高島市などに飛行ルートや離発着方法などの情報を示し、訓練内容も詳しく説明する必要があるが、住民の不安が払拭(ふっしょく)されないならば、訓練は見合わせるべきだ。 オスプレイは垂直離着陸が可能な米海兵隊の最新鋭機だが、開発段階から事故が絶えない。安全への懸念から反対する地元の声を押し切って昨年10月、沖縄・普天間飛行場に配備され、今春から日本各地で飛行訓練を行っている。 饗庭野演習場は陸自中部方面隊(大阪府伊丹市)の管内では最大規模で、日米地位協定で在日米軍の使用が認められている。過去12回、実弾を使った日米共同訓練が行われており、昨年は陸自と米陸軍から計1400人が参加した。 今回は、上空で停止したオスプレイから米海兵隊員らがロープで降下し、地上に展開する「ヘリボーン」など、約2週間の訓練が検討されているという。 在日米軍基地の74%が集中する沖縄の負担軽減という意味では、在日米軍の訓練を全国で分散して受け入れることは有意義だろう。滋賀での訓練期間中、オスプレイは拠点を普天間から山口県の米軍岩国基地に移すという。 関西広域連合が7月26日、沖縄の負担軽減策を早急に示すよう政府に申し入れたことも、防衛省を後押ししたといえよう。このとき嘉田由紀子滋賀県知事は申し入れに反対したうえ「特定地域を想定しない」と念押しした。 沖縄の負担軽減は重要でも、周辺地域の安全確保は訓練受け入れの大前提だ。広域連合の申し入れから「オスプレイの訓練を受け入れる」との当初案の記述が削除されたのも、安全への懸念からだ。 饗庭野演習場は民家から遠くなく、通常の砲撃演習でも騒音が計測されている。実戦的な訓練ゆえに部隊行動が優先され、安全が二の次になる恐れはないのか。危険な機体だけに、なおさら懸念する。 沖縄では今月5日、米空軍ヘリが基地内の山林に墜落し、乗員が死傷したばかり。その原因はまだ明らかになっていない。 このとき、日本の警察も消防も日米地位協定の壁に阻まれ、現地に入れなかった。滋賀での訓練中に事故があれば、どうするのか。訓練には疑問がつきまとう。
[京都新聞 2013年08月24日掲載] |