時論公論 「朝鮮戦争から60年」2013年07月27日 (土)

出石 直  解説委員

(VTR:朝鮮戦争)
朝鮮半島を舞台に3年以上にわたって続いた朝鮮戦争にはアメリカ軍や中国軍も参戦し、各地で激しい戦闘が繰り広げられました。

朝鮮戦争は、同じ民族が敵味方に分かれて戦った戦争であり、東西両陣営が真っ向からぶつかった戦いでもありました。この戦争によって朝鮮半島は南北に分断されました。
きょう27日で、朝鮮戦争の休戦協定が結ばれてからちょうど60年になります。
今夜は朝鮮戦争が今に残した課題を考えます。
 
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朝鮮戦争の被害は双方ともに甚大でした。軍人と民間人をあわせた犠牲者は餓死した人も含めておよそ500万人と推定されています。当時の朝鮮半島の人口は3000万人あまりでしたから、実に6人に1人が犠牲になったことになります。混乱の中で南北に分かれ分かれになった離散家族の数は1000万人にのぼるとされています。
60年前のきょう締結された休戦協定で、敵対行為は停止され、軍事境界線と非武装地帯が設定されました。しかし、戦闘を一時停止しているだけで、戦争が完全に終わったわけではありません。ことしの3月には、国連安保理による制裁決議に反発した北朝鮮が「休戦協定は白紙化された」と一方的に宣言、南北間のホットラインは遮断され、緊張が一気に高まりました。休戦から60年が経った今も、銃を構えた南北の兵士が、軍事境界線をはさんでにらみ合いを続けています。

同じように分断国家だったドイツは統一を果たしたのに、なぜ朝鮮半島はいまだに南北に分かれ、戦争状態を終わらせることができないのでしょうか。
 
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かつて、西ドイツにはアメリカ、東ドイツにはソビエトという後ろ盾がいました。しかし東ドイツに民主化の嵐が巻き起こった時、ソビエトには、もはやベルリンの壁の崩壊を阻止する力はなく、ソビエト自身もやがて崩壊していきます。
 
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これに対して、朝鮮半島では、韓国をアメリカが支援し、北朝鮮は当初はソビエトが、その後は中国が後ろ盾になって支え続けてきました。冷戦が終わったヨーロッパとは対照的に、朝鮮半島での冷戦は終わらず、アメリカとソビエトの対立から、アメリカと中国の対立へと変化していったのです。朝鮮半島の悲劇は、こうした国際情勢によって「韓国、アメリカ、日本」対「北朝鮮、中国、ソビエト」という対立の構図が出来上がり、南北の分断が固定化してしまったことです。朝鮮戦争の後、韓国と北朝鮮はまったく別の道を歩むことになります。

朝鮮戦争勃発当時、韓国軍は装備、訓練などあらゆる面で北朝鮮軍に及ばず、開戦からわずか3日でソウルが陥落するなど緒戦では劣勢を余儀なくされました。これを挽回して休戦に漕ぎつけることができたのは、アメリカ軍を中心とする国連軍の加勢があったからでした。この経験から、韓国は、休戦協定の3か月後にアメリカと相互防衛条約を結び、アメリカの同盟国になります。この条約に基づいて今もおよそ2万5000人の在韓米軍が韓国国内に駐留し、毎年、大がかりな合同軍事演習が続けられています。このように、アメリカにとって韓国は、朝鮮半島有事に備えた最前線基地であり、韓国にとってアメリカは、いざという時に助けてくれるもっとも頼りになる存在なのです。

韓国は、経済面でも大きな発展を遂げました。1965年には日本との国交を正常化し、5億ドルという当時の年間の国家予算をはるかに上回る経済協力を得ました。
日本やアメリカからの支援によって「ハンガン(漢江)の奇跡」と呼ばれる経済成長を続けます。朝鮮戦争当時、世界でもっとも貧しい農業国だった韓国は、この60年間で世界8番目の貿易大国となり、援助される側から援助する側へと華麗なる変身を遂げました。

外交面でも朝鮮戦争の負の遺産を解消していきます。ソウルオリンピック後の1990年にはソビエト、1992年には中国との国交を回復、かつての敵国との関係を正常化します。先日、パク・クネ大統領が中国を訪問し盛んな歓迎を受けましたが、60年前には想像できなかったような中韓両国の蜜月ぶりです。
 
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韓国が、ソビエト、中国とかつての敵国と相次いで国交を回復したのとは対照的に、北朝鮮は、アメリカ、日本との国交を正常化することができませんでした。北朝鮮は、中国やソビエト・ロシアと一定の関係を維持しつつも、独自の路線を歩み始め、イランやキューバなど反米色の強い国々との関係を強めていきます。先日、キューバから北朝鮮に向かっていた貨物船の積み荷から戦闘機やミサイルの部品などが見つかったのも、こうした国々との結びつきの強さを裏付けています。

経済面でも対照的です。韓国が世界有数の先進国になったのに対して、北朝鮮は、軍事力の増強に力を注ぐあまり、経済は長く低迷します。農業も衰退し食糧不足が慢性化しています。

そんな中で北朝鮮が選択したのが、核武装による自主防衛の道でした。60年経った今も、
北朝鮮にとって最大の脅威はアメリカです。韓国に部隊を駐留させ核の傘を提供しているからです。このアメリカの脅威をなくさない限り、自分たちを守るための核兵器は手放さないというのが北朝鮮の言い分です。まずは平和協定を結んで戦争状態を完全に終わらせ、
核保有国どうしで核兵器のない世界を目指し削減交渉をしようとアメリカ側に提案しています。
荒唐無稽な提案のようにも聞こえますが、アメリカを後ろ盾にする韓国にあらゆる面で水を開けられてしまった今、北朝鮮が生き残るためには、こうした選択をせざるをえないところにまで追い込まれているという見方もできるかも知れません。

核やミサイル開発を諦めようとしない北朝鮮に対しては、中国やロシアも業を煮やしています。「韓国、アメリカ、日本」対「北朝鮮、中国、ロシア」という対立の構図に変化の兆しが出てきています。まずは、朝鮮半島の平和と安定を脅かしている北朝鮮の核を放棄させるために、各国が力を結集するべきではないでしょうか。
朝鮮戦争は、武力による統一、武力による平和は実現しないことを証明しました。その失敗から60年が経っても平和が実現していないのは、武力によらない統一もまた困難な道のりだということの証でもあります。
朝鮮戦争によって生じた対立の構図を少しずつ解きほぐし、朝鮮半島に核兵器のない真の平和が訪れる日を待ち望みたいと思います。
 
(出石 直 解説委員)