シリア:米武力行使なら合法性に疑問も…安保理決議なしで
2013年08月29日
これまでの欧米主体の主な武力介入
【ワシントン白戸圭一】オバマ米大統領は28日、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したと断定し「国際規範に違反した国に責任を取らせる」と軍事攻撃に踏み切る構えを見せた。だが、国連安保理常任理事国の中露は武力行使を容認する安保理決議に反対している。人道的措置として決議なしで攻撃した1999年のユーゴスラビア空爆が念頭にあるとみられるが、決議なしで攻撃を始めれば、国際法上の合法性が問われる可能性が強まっている。
米国務省のハーフ副報道官は28日の記者会見で「重要なのは化学兵器使用を見過ごさないとの強いメッセージを送ることだ」と述べ、安保理決議が成立しない場合でも、軍事攻撃を辞さない考えを強調した。
シリア政府は化学兵器の生産・貯蔵・開発・使用を禁じた化学兵器禁止条約(1997年発効)には未署名だが、化学・生物兵器の使用を禁じたジュネーブ議定書(28年発効)を批准しており、化学兵器使用が事実ならば議定書違反だ。
しかし、議定書に違反した国が軍事攻撃の対象になるわけではない。国連憲章第7章で認められた武力行使のためには、安保理決議で化学兵器使用を「平和への脅威」と認定する必要があり、化学兵器使用を裏付ける「証拠固め」も必要だ。国連の現地調査は誰が使用したかは判断しないため、調査結果を合法性の根拠とするには疑問が残る。
米国のブッシュ前政権は2003年2月、イラクの大量破壊兵器開発の「証拠」を安保理で示し、攻撃の法的根拠を求め決議の成立を目指した。だが、フランスなどの反対で成立せず、後に「証拠」の大半が間違いと判明する失態を演じた。
ブッシュ前政権の単独行動主義への反省から出発したオバマ大統領は、米公共テレビ(PBS)のインタビューで「同盟国、国際社会と相談している」と国際協調路線を強調し、アサド政権による化学兵器使用の証拠固めに全力を挙げる姿勢を示した。だが、中露の反対に加え、ドイツなども安保理決議を重視しており、攻撃の合法性の問題は尾を引きそうだ。
安保理決議のない攻撃の前例として、米軍主体の北大西洋条約機構(NATO)軍による99年のユーゴスラビア空爆がある。ロシアが決議採択に反対する中、クリントン米大統領(当時)はコソボ自治州のアルバニア系住民をセルビアの虐殺から守る「人道的措置」として、自衛権にも安保理決議にも基づかない超法規的攻撃に踏み切った。シリア内戦への深入りを避けたいオバマ政権は今回、ユーゴ空爆を前例に、化学兵器使用に対する「懲罰」として短期間で限定的攻撃を想定しており、合法性に加えて攻撃の効果を疑問視する見方もある。