2013年6月19日(水)

なぜ日本人は橋下徹にあれだけ熱狂したのか

PRESIDENT 2013年7月1日号

著者
山本 一郎 やまもと・いちろう
評論家

山本 一郎1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年イレギュラーズアンドパートナーズを設立。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行う。著書に『リーダーの値打ち』『情報革命バブルの崩壊』『「俺様国家」中国の大経済』、共著に『ネット右翼の矛盾』などがある。ブロガーとしても著名。

答える人=山本一郎(評論家)
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橋下さんのメディア戦略とは、あらゆる時事問題について、自身に群がるメディアを通じて、正論を吐いて支持を集めるというものでした。登庁時、退庁時に「ぶら下がり」と呼ばれる記者取材を時間無制限に受けるようにしました。そこでは大阪をめぐるトピックスだけでなく、広く時事問題に至るまで、橋下さんのモノの考え方が率直な言葉で語られ、市民の本音を汲むような形で鋭く論じられます。これを見た市民は、「橋下さんは分かってくれている」と感じる。こうして橋下さんの日々の活動がメディアを通じて見られることは、支持率の確保という点では好循環を持たせていました。

具体的な各種政策において、橋下さんが取り組んだり首を突っ込んだりしたもので、ろくな着地になっていないものが多いのもまた、事実です。最たる例が脱原発運動に軽々しく乗っかり、一大電力消費地であるにもかかわらず原発再稼動反対の方針にシフトして関西産業界から総スカンを受けた件です。電力供給不安に見舞われた一部産業が大阪府内の操業を他地域に振り分けなおすなどして、正規雇用が4万人近く失われて、いまなお回復する兆しはありません。おまけに、大阪府市が設置した脱原発のための有識者会議である「エネルギー戦略会議」にいたっては、大阪市監査委員により、4つの会議については条例に基づかずに設置されていたとして違法と認定され、解体に追い込まれてしまいました。

「庶民感覚からくる本音」を装った感情的な正論であるため、具体策では綻びが出てしまいます。それでもこれまでは、問題の収拾がつかなくなってくると議論を二転三転させた上でフェードアウトさせるアプローチで乗り切ってきました。「時事問題いっちょ噛み」をして、国民からすれば実現したらそれが一番良いことなのだけど利害関係者や法律などのコンテクスト(文脈)があるために、一足飛びには解決できない処方箋をメディア経由でばら蒔き、人気集めをする手法です。

そのたびに、敵が増えていくのですが、党勢が拡大している最中は問題にはなりません。なぜならば、圧倒的なメディア力を持つ橋下さんに敵認定されることは、橋下さんに勢いがある限り一方的に踏みにじられ抗弁すらさせてもらえず批判され続けることになるからです。橋下さんの矛先が国内に向かっているうちは、なかなか彼と互角でやりあえる人材は出ないでしょう。

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