1.税理士法の規定
税理士法第1章総則 第2条(税理士の業務)
「税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする」とし、
税理士法第52条(税理士業務の制限)
「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」
と規定されている。税務書類の作成は、いわゆる税理士の独占業務となっている。税理士でないものは、「他人の求めに応じ」で税理士業務を行うことが禁止されている。ということは、他人でないもののために、税理士の業務を行うことは問題がないことになる。ここで残る課題は、(1)他人の求めに応じ、における「他人」の範囲はどこまでか、(2)税理士の独占業務の範囲はどこまでか、という点である。ここでは後者は扱わないので、前者について考える。
2.法律における「他人」とは
法令における「他人」の解釈は法令によって異なることを、まず、指摘しておきたい。したがって、法令ごと条文ごとに解釈する必要があるのが原則である。つまり法令における「他人」の統一的な解釈はないが、ひとまず各種の法令における「他人」の事例をみておこう。
(1)民法
民法では「親族」と「他人」とを明確に区別している。「親族」とは、六親等以内の「血族」と三親等以内の「姻族」、配偶者も親族に含めている。相続人の範囲は「死亡した人の配偶者・子、直系尊属(父母や祖父母など)、兄弟姉妹であり、他人は遺言のある場合は別として、原則として相続ができない。
しかし、民法でも不法行為の解釈では、自己以外のすべての権利主体者を他人と扱う。民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」における「他人」とは、自己以外の全ての人を指す。夫が妻に不法行為をしたとき、損害賠償できないのでは、不合理になるからである。
(2)自動車損害賠償保障法
第 3 条 ( 自動車損害賠償責任 )において「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」という規定がある。親族が他人に当たるかどうかは、被害者の立場によって異なる。
他人性を否定した例(最高裁判例 S57.4.2)「友人が窃取し運転していた自動車に同乗中右友人の起こした事故により死亡した被害者の両親は、右自動車の保有者に対して右被害者が本条にいう「他人」にあたることを主張することができない。」(最高裁判例 S50.11.4)「会社の取締役が従業員の運転する会社所有の自動車に乗車中従業員の惹起した事故により受傷した場合において、右取締役が業務時間外にトルコ風呂に行くため自らその自動車を運転して数時間にわたって走行させた後同乗の従業員に一時運転させて運行を継続中に事故が発生したものであるなどの事実関係があるときは、右取締役は、会社に対し本条にいう「他人」であることを主張して損害賠償を求めることは、許されない。」
このように「他人」であることが認められるかどうかは、本人と被疑者の関係、事故が起るまでの経緯などに依存している、ということができる。
(3)著作権法
著作権法30条に「私的使用のための複製」があり、これはたとえば、自分や家族が聴くためにCDをCD‐Rにダビングする場合、著作権の許可は不要とになっている。つまり、自分と家族は同じ家庭内として、私的使用の範囲に含めている。ここでは「自分と家族」は「他人とは異なる」ことになる。
(4)犯人蔵匿罪及び証拠隠滅罪
(刑法105,105の2)他人である犯人をかくまったり、その証拠を隠せば有罪となるが、親族なら許されるという特例がある。他人と親族を明確に区別している事例である。
(5)扶け合い義務
民法730、877、752には、直系の血族と同居の親族は互いに助け合う義務を規定している。他人がこの義務を負うことはない。
3.税理士法の「他人」とは
そこで、税理士法の「他人」を考える。家庭内で夫が妻の、または、妻が夫の税務書類を作成することはよくあることである。そのような場合まで禁止し、規制することは、無理があると考える。税理士法の「他人」を狭く解釈すると、会社の税務書類を税理士でない従業員が作成することまで違法になってしまう。さらに、税理士事務所で、税理士でないスタッフが税務書類を作成する例は多いが、そのことも違法になってしまうのである。税理士自身が、税理士法に違反していることになる。税理士法の「他人」は広く解釈すべきである。
なお、税理士法のこの部分の解釈について、国税局に確認したところ、「生業として申告書類作成、相談を行うと 税理士法違反になる」「違反となるのは、他人の申告を行う場合に限られ、個人であれ会社であれ自分でする場合、家族や従業員が作成することは問題ない」との解釈で問題ないということであつた。しかも、「それは無償、有償関係なく、有償でも構わない」という。これで結論が出た。
4.誤った解釈の事例
本解釈について、下記ブログで「とんでもない誤った解釈」としているが、これは上記の通り、誤りである。
http://ameblo.jp/zuntaka/entry-11229857043.html
下記の通り、「雇われ人が自分の勤める事業所の申告書を作成しても何も問題ありません」という回答があり、これは正しい。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2011/1224/470523.htm?g=02
同様に下記の回答も誤りである。いずれも税理士法違反ではない。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1160086621
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1482567909
税理士ですら、間違えた解釈をしている例がある。
http://bb-tax.net/category/1507407.html
税理士法第1章総則 第2条(税理士の業務)
「税理士は、他人の求めに応じ、租税に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする」とし、
税理士法第52条(税理士業務の制限)
「税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない」
と規定されている。税務書類の作成は、いわゆる税理士の独占業務となっている。税理士でないものは、「他人の求めに応じ」で税理士業務を行うことが禁止されている。ということは、他人でないもののために、税理士の業務を行うことは問題がないことになる。ここで残る課題は、(1)他人の求めに応じ、における「他人」の範囲はどこまでか、(2)税理士の独占業務の範囲はどこまでか、という点である。ここでは後者は扱わないので、前者について考える。
2.法律における「他人」とは
法令における「他人」の解釈は法令によって異なることを、まず、指摘しておきたい。したがって、法令ごと条文ごとに解釈する必要があるのが原則である。つまり法令における「他人」の統一的な解釈はないが、ひとまず各種の法令における「他人」の事例をみておこう。
(1)民法
民法では「親族」と「他人」とを明確に区別している。「親族」とは、六親等以内の「血族」と三親等以内の「姻族」、配偶者も親族に含めている。相続人の範囲は「死亡した人の配偶者・子、直系尊属(父母や祖父母など)、兄弟姉妹であり、他人は遺言のある場合は別として、原則として相続ができない。
しかし、民法でも不法行為の解釈では、自己以外のすべての権利主体者を他人と扱う。民法第709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」における「他人」とは、自己以外の全ての人を指す。夫が妻に不法行為をしたとき、損害賠償できないのでは、不合理になるからである。
(2)自動車損害賠償保障法
第 3 条 ( 自動車損害賠償責任 )において「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる」という規定がある。親族が他人に当たるかどうかは、被害者の立場によって異なる。
他人性を否定した例(最高裁判例 S57.4.2)「友人が窃取し運転していた自動車に同乗中右友人の起こした事故により死亡した被害者の両親は、右自動車の保有者に対して右被害者が本条にいう「他人」にあたることを主張することができない。」(最高裁判例 S50.11.4)「会社の取締役が従業員の運転する会社所有の自動車に乗車中従業員の惹起した事故により受傷した場合において、右取締役が業務時間外にトルコ風呂に行くため自らその自動車を運転して数時間にわたって走行させた後同乗の従業員に一時運転させて運行を継続中に事故が発生したものであるなどの事実関係があるときは、右取締役は、会社に対し本条にいう「他人」であることを主張して損害賠償を求めることは、許されない。」
このように「他人」であることが認められるかどうかは、本人と被疑者の関係、事故が起るまでの経緯などに依存している、ということができる。
(3)著作権法
著作権法30条に「私的使用のための複製」があり、これはたとえば、自分や家族が聴くためにCDをCD‐Rにダビングする場合、著作権の許可は不要とになっている。つまり、自分と家族は同じ家庭内として、私的使用の範囲に含めている。ここでは「自分と家族」は「他人とは異なる」ことになる。
(4)犯人蔵匿罪及び証拠隠滅罪
(刑法105,105の2)他人である犯人をかくまったり、その証拠を隠せば有罪となるが、親族なら許されるという特例がある。他人と親族を明確に区別している事例である。
(5)扶け合い義務
民法730、877、752には、直系の血族と同居の親族は互いに助け合う義務を規定している。他人がこの義務を負うことはない。
3.税理士法の「他人」とは
そこで、税理士法の「他人」を考える。家庭内で夫が妻の、または、妻が夫の税務書類を作成することはよくあることである。そのような場合まで禁止し、規制することは、無理があると考える。税理士法の「他人」を狭く解釈すると、会社の税務書類を税理士でない従業員が作成することまで違法になってしまう。さらに、税理士事務所で、税理士でないスタッフが税務書類を作成する例は多いが、そのことも違法になってしまうのである。税理士自身が、税理士法に違反していることになる。税理士法の「他人」は広く解釈すべきである。
なお、税理士法のこの部分の解釈について、国税局に確認したところ、「生業として申告書類作成、相談を行うと 税理士法違反になる」「違反となるのは、他人の申告を行う場合に限られ、個人であれ会社であれ自分でする場合、家族や従業員が作成することは問題ない」との解釈で問題ないということであつた。しかも、「それは無償、有償関係なく、有償でも構わない」という。これで結論が出た。
4.誤った解釈の事例
本解釈について、下記ブログで「とんでもない誤った解釈」としているが、これは上記の通り、誤りである。
http://ameblo.jp/zuntaka/entry-11229857043.html
下記の通り、「雇われ人が自分の勤める事業所の申告書を作成しても何も問題ありません」という回答があり、これは正しい。
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2011/1224/470523.htm?g=02
同様に下記の回答も誤りである。いずれも税理士法違反ではない。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1160086621
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1482567909
税理士ですら、間違えた解釈をしている例がある。
http://bb-tax.net/category/1507407.html
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