1.健康保険証の貸し借り
他人に健康保険証を貸す、他人の健康保険証を使って受診する、これは一見すると、誰にも迷惑をかけていないようにみえるが、実際には立派な犯罪である。事例としては海外留学生に多いようである。事例を挙げてみる。
(1)「健康保険証を貸し借りした中国人留学生逮捕」
(2013年8月8日07時34分 読売新聞)引用
「健康保険証の不正利用で治療費の支払いを免れたとして、大阪府警国際捜査課は6日、いずれも中国籍で同府内の私立大留学生の林雄(25)、呉国豪(28)両容疑者を詐欺容疑で逮捕した。 発表では、2人は共謀して昨年11月~今年7月、大阪市天王寺区の歯科医院で、林容疑者が呉容疑者の健康保険証を借りて虫歯を7回治療し、保険給付分3万8800円の支払いを免れた疑い。2人は友人で、容疑を認めており、林容疑者は「保険証を作っていなかったので借りた」と供述している。」(引用ここまで)
(2)「ベトナム人仲間に保険証貸与で帰化日本人の女逮捕 兵庫県警」
(産経新聞west 2013.1.8 09:34)引用
「知人のベトナム人に健康保険証を貸し、医療費の支払いを一部免除させたとして、兵庫県警組織犯罪対策課と姫路署などは7日、詐欺容疑で加西市尾崎町の無職、田中蘭容疑者(36)を逮捕した。田中容疑者は昨年9月にベトナムから日本に帰化したばかりで、容疑を認めているという。逮捕容疑は平成23年9~10月、自分名義の保険証をベトナム人の女(21)=窃盗罪で起訴=に貸与。3回にわたって加西市内の歯科医院で受診させ、本人負担分を除く約1万4千円の支払いを免れさせたとしている。 同課によると、女が関わった大量万引き事件の捜査の過程で発覚した。女についても詐欺容疑で書類送検する方針。県警は外国人同士で保険証の貸与が常態化している可能性もあるとみて捜査する」(引用ここまで)
(3)国民健康保険証不正使用詐欺事件の検挙
<外事課、浪速警察署>(大阪府警HPより引用)
「外事課と浪速警察署は、国民健康保険証を悪用した詐欺事件の被疑者として韓国籍の牧師と中国人信者の男2人を逮捕しました。被疑者等は、牧師名義の国民健康保険証を不正に用いて治療等を受けようとして、平成24年11月下旬、大阪市内の病院において、信者が名義人である牧師を装い、国民健康保険証を同病院係員に提出して信用させ、検査等(診療報酬額約3万2千円)を受け、財産上不法な利益を得たものです」検挙日 2月6日(水曜日)
http://gendai.net/articles/view/syakai/140978
(4)不法滞在女に後援者の保険証=柏原市議を逮捕
「不法滞在している韓国人の女に後援者の健康保険証を使わせ、治療を受けさせたとして、大阪府警国際捜査課などは1日、詐欺容疑で同府柏原市大正、同市議鶴田将良容疑者(45)を逮捕した。鶴田容疑者は「歯の治療をしたいと頼まれて健康保険証を借りた。病院にも連絡したり、付き添ったりした」と容疑を認めている。
調べでは、鶴田容疑者は交際相手の韓国籍の無職韓愛貞容疑者(48)=詐欺容疑で逮捕=、後援会幹事の食肉卸業尾中三夫容疑者(53)=同=と共謀。昨年3月から10月にかけて6回、韓容疑者を尾中容疑者の妻と偽って東大阪市内などの歯科医院に受診させ、治療費計1万5000円余の支払いを免れた疑い」
ここで注目すべきは、いずれの場合も詐欺容疑で逮捕されている点である。警察は、借りて使用したものだけでなく、健康保険証を貸した方も詐欺罪になると認識していることが分かる。元議員は不法滞在の外国籍女性に使わせる目的で他人の健康保険証を借りている。
2.保険証の不正使用は詐欺罪か?
保険証の不正使用が刑法上の詐欺罪に該当するかどうかについては、2つの説がある。(1)詐欺罪は保険証を不正に使った人が個人的に利益を得るので、そもそも詐欺罪にならないとする説、(2)詐欺罪で損失を受けるのは国家(公共)の財産であるが、そうであっても欺罔行為によって、財産権の侵害になれば詐欺罪が成立するという説。
後者の判例としては、大阪高判昭和59年5月23日(高刑集37巻2号328頁)と東京地判昭和62年11月20日(判時1274号160頁)とがある。その理由は、保険証が「一個人の所有権の客体となる有体物」であると同時に、「療養の給付を受けうる権利を有する者であることを証明する文書で」あり、「単なる事実証明に関する文書とは異り、それ自体が社会生活上重要な経済的価値効用を有する」という点を理由としている。
3.ブログの誤り
下記のブログ(ズンズンのブログ)に「保険証を提示して被保険者本人であると病院側を誤認させるのが(詐欺罪の)欺く行為」であり、貸した方はその行為を行っていないから詐欺罪にならないという「珍説」を披露している。
http://ameblo.jp/zuntaka/entry-10769717060.html
しかしながら、他人の保険証を使うためには、保険証を貸す人がいなければそもそも不可能である。保険証を貸す人は、貸した相手が何のために使うかを容易に推定することができるものだ。保険証は持っているだけで財産価値があるものではない。詐欺罪には、場合によっては、共同不法行為が成立する。(刑法60条)つまり、複数の人間の関与により、権利侵害の結果を発生させることが健康保険証の貸し借りの本質である。冒頭の事例において、貸す方がアドバイスや、助言を積極的に行うなど能動的に関与していれば、共同正犯に関する共犯関係と認めることができるだろう。そうなれば、借りた人間だけでなく、貸したもの、仲介したものも詐欺罪で逮捕されよう。そもそも他人に保険証を貸す行為自体が一般的ではない。医療機関で使うことを前提として貸していたなら、詐欺罪の共同正犯になり得る。しかし助言の域を出ず、その内容も抽象的であった場合には幇助犯にもなり得るだろう。
なお刑法だけでなく、民法にも共同不法行為の規定があり、民法719条では、 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う、とされている。
前記のブログは、生半可な法律知識であやまった解釈をしている事例といえる。
4、健康保険法による不正利得の徴収金
なお、健康保険証の貸し借りにより不正に保険給付を受けた者があるときは、保険者は、その者からその給付の価額の全部又は一部を徴収することができる、とされている。(健康保険法第58条1項)これにより、保険者が受けた被害は、徴収金により回復される。また保険証を不正に使用したものだけでなく、共同不法行為者に対して連帯責任を負わせることとしている。 つまり、自分の保険証を貸すことは、共同不法行為者となるわけである。
他人に健康保険証を貸す、他人の健康保険証を使って受診する、これは一見すると、誰にも迷惑をかけていないようにみえるが、実際には立派な犯罪である。事例としては海外留学生に多いようである。事例を挙げてみる。
(1)「健康保険証を貸し借りした中国人留学生逮捕」
(2013年8月8日07時34分 読売新聞)引用
「健康保険証の不正利用で治療費の支払いを免れたとして、大阪府警国際捜査課は6日、いずれも中国籍で同府内の私立大留学生の林雄(25)、呉国豪(28)両容疑者を詐欺容疑で逮捕した。 発表では、2人は共謀して昨年11月~今年7月、大阪市天王寺区の歯科医院で、林容疑者が呉容疑者の健康保険証を借りて虫歯を7回治療し、保険給付分3万8800円の支払いを免れた疑い。2人は友人で、容疑を認めており、林容疑者は「保険証を作っていなかったので借りた」と供述している。」(引用ここまで)
(2)「ベトナム人仲間に保険証貸与で帰化日本人の女逮捕 兵庫県警」
(産経新聞west 2013.1.8 09:34)引用
「知人のベトナム人に健康保険証を貸し、医療費の支払いを一部免除させたとして、兵庫県警組織犯罪対策課と姫路署などは7日、詐欺容疑で加西市尾崎町の無職、田中蘭容疑者(36)を逮捕した。田中容疑者は昨年9月にベトナムから日本に帰化したばかりで、容疑を認めているという。逮捕容疑は平成23年9~10月、自分名義の保険証をベトナム人の女(21)=窃盗罪で起訴=に貸与。3回にわたって加西市内の歯科医院で受診させ、本人負担分を除く約1万4千円の支払いを免れさせたとしている。 同課によると、女が関わった大量万引き事件の捜査の過程で発覚した。女についても詐欺容疑で書類送検する方針。県警は外国人同士で保険証の貸与が常態化している可能性もあるとみて捜査する」(引用ここまで)
(3)国民健康保険証不正使用詐欺事件の検挙
<外事課、浪速警察署>(大阪府警HPより引用)
「外事課と浪速警察署は、国民健康保険証を悪用した詐欺事件の被疑者として韓国籍の牧師と中国人信者の男2人を逮捕しました。被疑者等は、牧師名義の国民健康保険証を不正に用いて治療等を受けようとして、平成24年11月下旬、大阪市内の病院において、信者が名義人である牧師を装い、国民健康保険証を同病院係員に提出して信用させ、検査等(診療報酬額約3万2千円)を受け、財産上不法な利益を得たものです」検挙日 2月6日(水曜日)
http://gendai.net/articles/view/syakai/140978
(4)不法滞在女に後援者の保険証=柏原市議を逮捕
「不法滞在している韓国人の女に後援者の健康保険証を使わせ、治療を受けさせたとして、大阪府警国際捜査課などは1日、詐欺容疑で同府柏原市大正、同市議鶴田将良容疑者(45)を逮捕した。鶴田容疑者は「歯の治療をしたいと頼まれて健康保険証を借りた。病院にも連絡したり、付き添ったりした」と容疑を認めている。
調べでは、鶴田容疑者は交際相手の韓国籍の無職韓愛貞容疑者(48)=詐欺容疑で逮捕=、後援会幹事の食肉卸業尾中三夫容疑者(53)=同=と共謀。昨年3月から10月にかけて6回、韓容疑者を尾中容疑者の妻と偽って東大阪市内などの歯科医院に受診させ、治療費計1万5000円余の支払いを免れた疑い」
ここで注目すべきは、いずれの場合も詐欺容疑で逮捕されている点である。警察は、借りて使用したものだけでなく、健康保険証を貸した方も詐欺罪になると認識していることが分かる。元議員は不法滞在の外国籍女性に使わせる目的で他人の健康保険証を借りている。
2.保険証の不正使用は詐欺罪か?
保険証の不正使用が刑法上の詐欺罪に該当するかどうかについては、2つの説がある。(1)詐欺罪は保険証を不正に使った人が個人的に利益を得るので、そもそも詐欺罪にならないとする説、(2)詐欺罪で損失を受けるのは国家(公共)の財産であるが、そうであっても欺罔行為によって、財産権の侵害になれば詐欺罪が成立するという説。
後者の判例としては、大阪高判昭和59年5月23日(高刑集37巻2号328頁)と東京地判昭和62年11月20日(判時1274号160頁)とがある。その理由は、保険証が「一個人の所有権の客体となる有体物」であると同時に、「療養の給付を受けうる権利を有する者であることを証明する文書で」あり、「単なる事実証明に関する文書とは異り、それ自体が社会生活上重要な経済的価値効用を有する」という点を理由としている。
3.ブログの誤り
下記のブログ(ズンズンのブログ)に「保険証を提示して被保険者本人であると病院側を誤認させるのが(詐欺罪の)欺く行為」であり、貸した方はその行為を行っていないから詐欺罪にならないという「珍説」を披露している。
http://ameblo.jp/zuntaka/entry-10769717060.html
しかしながら、他人の保険証を使うためには、保険証を貸す人がいなければそもそも不可能である。保険証を貸す人は、貸した相手が何のために使うかを容易に推定することができるものだ。保険証は持っているだけで財産価値があるものではない。詐欺罪には、場合によっては、共同不法行為が成立する。(刑法60条)つまり、複数の人間の関与により、権利侵害の結果を発生させることが健康保険証の貸し借りの本質である。冒頭の事例において、貸す方がアドバイスや、助言を積極的に行うなど能動的に関与していれば、共同正犯に関する共犯関係と認めることができるだろう。そうなれば、借りた人間だけでなく、貸したもの、仲介したものも詐欺罪で逮捕されよう。そもそも他人に保険証を貸す行為自体が一般的ではない。医療機関で使うことを前提として貸していたなら、詐欺罪の共同正犯になり得る。しかし助言の域を出ず、その内容も抽象的であった場合には幇助犯にもなり得るだろう。
なお刑法だけでなく、民法にも共同不法行為の規定があり、民法719条では、 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う、とされている。
前記のブログは、生半可な法律知識であやまった解釈をしている事例といえる。
4、健康保険法による不正利得の徴収金
なお、健康保険証の貸し借りにより不正に保険給付を受けた者があるときは、保険者は、その者からその給付の価額の全部又は一部を徴収することができる、とされている。(健康保険法第58条1項)これにより、保険者が受けた被害は、徴収金により回復される。また保険証を不正に使用したものだけでなく、共同不法行為者に対して連帯責任を負わせることとしている。 つまり、自分の保険証を貸すことは、共同不法行為者となるわけである。
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