http://ameblo.jp/zuntaka/entry-10769717060.html
以前の記事で書いた、保険証を貸した者の罪責についてのkosyukaido10さんの解釈の誤りについての指摘に対して、コメント欄に「解釈に誤りがあると指摘されています。」との記載がありました。
こちらも税理士法の解釈のときと同じで徒然日記というブログで指摘があるようです。
http://officeitjp.blog.fc2.com/blog-entry-33.html
(改変・削除に備えてウェブ魚拓http://megalodon.jp/2013-0830-2028-57/officeitjp.blog.fc2.com/blog-entry-33.html
)
『「保険証を提示して被保険者本人であると病院側を誤認させるのが(詐欺罪の)欺く行為」であり、貸した方はその行為を行っていないから詐欺罪にならないという「珍説」を披露している。』、『前記のブログは、生半可な法律知識であやまった解釈をしている事例といえる。』などと書いています。
最初に、徒然日記の記載では、私の記事の内容が誤解されそうなので、その点について書いておきます。
私は詐欺罪の共謀共同正犯の成立の可能性までを否定した記事を書いたわけではありません。kosyukaido10さんの解釈について、正犯のみの成立しかないかのような解釈をしていること、貸した側・借りた側が独立に正犯となるかのような解釈をしていることを誤りであると指摘したのです。その指摘の中で、実行行為である欺罔行為を行っていないのであるから、従犯となるのが原則であると書いただけです。保険証を提示する場にすらいない人間が欺罔行為を行っているとは原則的には考えません。
刑法246条2項の文言は、「前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」ですが、kosyukaido10さんは貸した側は「他人にこれを得させた」に該当するとしています。そうすると借りた側は「財産上不法の利益を得」に該当し、それぞれ単独で正犯ということになってしまいます。この考え方は根本的に間違っています。「財産上不法の利益を得」た借りた側の行為について、従犯となったり、共謀共同正犯となったりするのです。
以前の記事で実際のyahoo知恵袋のURLを記載していなかったので、記載しておきます。
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1044527990
徒然日記のまつばらさんは、私を生半可な法律知識と書いていますが、まつばらさんの法律知識は余りにも乏しいと思います。3点ほど、非常に乏しい知識であることがうかがわれる点を指摘しておきましょう。
1点目は、「詐欺罪には、場合によっては、共同不法行為が成立する。(刑法60条)」と記載していることです。刑法60条の「共同正犯」のことを「共同不法行為」と書いてしまっています。共同不法行為は民法719条の話です。この点は分かっていなかったとしても単なる書き間違いと言い逃れすることができますが、非常にお粗末です。
2点目は、「2.保険証の不正使用は詐欺罪か?」の保険証の不正使用が詐欺罪に該当するかについての学説についての記載です。該当するとする説と該当しないとする説の2説あるものとして、該当しないとする説について「詐欺罪は保険証を不正に使った人が個人的に利益を得るので、そもそも詐欺罪にならないとする説」と書いています。個人的に利益を得るのでは詐欺罪が成立しないなどという珍説は聞いたことがありません。法律知識以前に、常識的に、詐欺犯が個人的に利益を得るのでは詐欺罪にならないなどというのはおかしいと気づくべきでしょう。詐欺罪が成立しないとする説の根拠として、「個人的」という言葉が入ったものを考えるとすれば、詐欺罪は個人的法益に対する罪であり、保険証の不正使用という国家的法益や社会的法益の侵害に向けられた行為は詐欺罪に該当しないといった内容になるでしょう。ネット検索で出てきたものを生半可な知識でまとめたので、とんでもない内容になったのでしょう。「個人的法益」と「個人的利益」という似た言葉がありますが、刑法についての基礎的な知識があれば間違うような話ではありません。
3点目も、「2.保険証の不正使用は詐欺罪か?」の内容で、引用している判例の間違いです。保険証の不正使用が詐欺罪に該当するとした判例として、大阪高判昭和59年5月23日(高刑集37巻2号328頁)と東京地判昭和62年11月20日(判時1274号160頁)の2つをあげています。しかし、この2つの判例は、保険証の不正「使用」ではなく、保険証の不正「発行」を受けた場合に詐欺罪が成立するとしたものです。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/62305D729B62D94549256CFA0006EBA1.pdf
徒然日記のまつばらさんの記載は、一貫性に欠けていて、矛盾している点もあります。貸した側は欺罔行為を行っていないので、詐欺罪(正犯)に該当しないのが原則という記載について「珍説」としておきながら、「幇助犯にもなり得るだろう」と幇助(従犯)の成立の可能性を認めています。実行行為を行っていないので正犯には該当しないのが原則との説明を「珍説」とまで言うのであれば、実行行為がないと認識することが全く論外ということになり、貸した側は必ず実行行為を行っていると認識すべきことになります。実行行為を行っているのですから、従犯の成立の余地がなくなると考えるのが論理的です。一方で実行行為を行っていないと考えるのを「珍説」としながら、実行行為を行っていないことを前提とする従犯は成立する可能性があるというのでは論理矛盾です。
さらに言えば、私の欺罔行為は行っていないという考えを珍説としてしまうのであれば、まつばらさんの引用している新聞記事で、「共謀」と書かれているのも「珍説」の披露ということになるでしょう。現場に行っていないなど、実行行為は一部も行っていないが、犯罪の主導的立場にあり、自ら実行行為を行ったと同視し得るのであれば、従犯として処罰するのではなく、共同正犯の成立を認めるべきというのが「共謀」共同正犯の考え方です。実行行為たる欺罔行為を行っていない、共謀共同正犯としての詐欺罪容疑と書いている新聞は、珍説を記事にしていることになってしまいます。
最後に、まつばらさんが詐欺の(共謀)共同正犯の報道ばかり引用しているので、不正使用されることを知りながら保険証を貸して幇助として逮捕された事例の報道も引用しておきます。
(産経新聞 2011年12月15日(木)17時26分配信)
自分の国民健康保険証を不正に使用されることを知りながら知人に貸し与えたとして、埼玉県警サイバー犯罪対策課と川越署などは15日、詐欺幇助(ほうじょ)の疑いで、中国籍の男で川崎市高津区久地の専門学校生、ウェイ・グオリー容疑者(22)を逮捕した。
サイバー犯罪対策課などの調べでは、ウェイ容疑者は11月4日、中国籍の女で専門学校生、チェン・ホアユィン容疑者(23)=詐欺容疑で逮捕=に、自分の国民健康保険証を不正使用されることを知りながら貸与。その結果、チェン容疑者が中国籍の男で建築作業員、ニェン・フェイ容疑者(26)=詐欺容疑などで逮捕=と共謀して同日、東京都豊島区内の病院でこの保険証を提示し、不正に診療と投薬治療を受けるのを幇助した疑いが持たれている。