だが、この手法はもはや通じない。
多くの医師らがディオバンを治療に採用してきたのは、既存薬と比較して、血圧を下げる以外に、脳卒中や心筋梗塞などの予防効果に優れている、という日本人のデータがあったからだ。
今、そのデータ自体の信頼性が大きく揺らいでいるのだ。
データを信じた医師らは憤りを感じ、「既存薬よりも価格の高い不必要な薬を勧めてしまったのかもしれない」と自責の念に駆られる医師は少なくない。
「ディオバンを服用しても大丈夫ですか」「他の薬に変えてもらえませんか」などと、主治医に相談する患者も増えている。
しかも、ディオバンと同様の作用メカニズムを持つARBという降圧剤は、武田薬品工業や第一三共、ベーリンガーインゲルハイムなどの他社からも複数、発売されており、代替が可能である。
済生会中央病院のように、病院全体でディオバンの採用を取りやめる病院も出てきた。「初診の患者では、ディオバンを絶対に採用しない」という医師は増えている。
製薬業界内部からの批判も尽きない。
仮説を立てて、新薬の有効性を証明する臨床研究は、専門的なノウハウと莫大な予算が必要であり、大学側は多かれ少なかれ、製薬会社による何らかの人的、予算的な関与がないと不可能なのが実情である。
そこで、臨床研究は、製薬会社の社員の参加や資金提供を認める代わりに、きちんとした手順で透明性を確保しながら行うという、“性善説”を前提に成り立っていたのだ。
このため、本来、この問題は製薬会社の社員という身分を使わずに、大学の臨床研究に参加していたという「利益相反」が問題となっていた。それがデータ改ざんという最悪の事態にまで及んだことで、「製薬会社が絡む臨床研究すべて。つまり、日本の臨床研究全体がグレーになってしまった」(製薬業界幹部)。
事実、製薬会社の研究者や医師の間では、他社の有名な臨床研究にも疑惑の風説が流れている状況である。
二之宮社長は「インパクトが大きく、他の薬剤にも影響が出ている」(二之宮社長)と、経営への悪影響を認める発言をしている。
ノバルティスは、「四面楚歌」の状態である。きちんとした説明責任を果たし、事態が沈静化しない限り、苦境が続くだろう。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 山本猛嗣)