過去の状況をみても、ノバルティスは分が悪い。直属の上司は元社員の仕事内容を把握していた。経営陣も元社員の臨床研究の実績に対し、2010年前後に社長賞を与えている。
「真相究明のためには、努力を惜しまない」――。
7月29日の会見では、ノバルティス ファーマの二之宮義泰社長は、7回以上も発言した。
だが、これまで「証拠がない」と歯切れの悪い発表が繰り返されてきただけに、本気でこの言葉を受け止める人はいない。状況はますます悪化しており、事態は収まる気配がない。
特許切れ後の成長維持戦略が水の泡
当然ながら、ノバルティスの日本国内の業績にも大きく影響するだろう。
ディオバンは、11年は日本国内の医療用医薬品で1201億円と最も売れており、12年も1083億円を売り上げた。これは、ノバルティス ファーマの国内売上高3234億円の約3分の1を占める金額だ。国内で次に売れている製品は、抗がん剤「グリベック」だが、その売上高は383億円。ディオバンには、遠く及ばない。
もっとも、ディオバンは、ピークを過ぎた新薬ではある。米国では、既に特許が切れ、14年に日本国内での特許切れを控える。
新薬の特許が切れれば、民間保険が中心の米国ならば、8〜9割以上は有効成分が同じで安価なジェネリック医薬品に置き換わってしまう。だが、国民皆保険制度である日本の場合、米国ほどジェネリック医薬品の浸透力が高くない。
そこで、ノバルティスは、異なるタイプの降圧剤を混ぜた配合剤や、唾液で溶けて、水がなくても服用できるディオバンOD錠など、新しい剤型によるディオバン新製品を発売して、ジェネリック医薬品から防衛するマーケティング戦略を立てていた。特許切れによる落ち込みの速度を緩やかにし、毎年、数品目の新製品を投入・育成することで、年平均5%を目標として、右肩上がりの成長を維持しようと作戦だった。