児童文学といって侮ってはいけません。
『妖怪アパートの幽雅な日常1』(講談社YA!ENTERTAINMENT/950円)
夕士が高校入学と同時に始めた、あこがれの下宿生活。幼い頃に両親を事故で亡くしたため、早く独り立ちをするのが彼の夢。ところがそこには、ちょっと変わった、しかし人情味あふれる“住人たち”が暮らしていた…。 041010
『妖怪アパートの幽雅な日常2』(講談社YA!ENTERTAINMENT/950円)
「なんなりとご命令を、ご主人様」封印の解かれた魔道書から現れる22匹の妖魔たち。自らの秘めた力に気づいた夕士と親友・長谷。運命の幕あけ。
いい。いいですよ、長谷君! ナイスキャラです。ホモ本にはこういう何でもできる男というのはよく出てきますけど(笑)。そこに加わる人情味と度量
の広さがステキ♪ しかも青春!!(爆笑) 萌え要素もかなりばっちりです(笑)。
子どもが子どもとしていられる状態がなんとも気持ちがいいです。大人たちはちゃんと自分の立ち方を心得ていて格好よくて。クリちゃんがメロメロに可愛くて、るり子さんのごはんは美味しそうで。嫌な関係がきちんと書かれているからこそ、アパートから生まれる関係にすごく嬉しくなります。アップダウンの取り方がいいのね。泣かせてもくれます。
041010
「なあ、稲葉……」
「ん?」
長谷はなにかを言いよどんでいた。言葉を選んでいるのか。考えがまとまらないのか。俺はその先が聞きたくて、じっと待った。
「俺らさ……」
「うん」
長谷は、俺のほうを見ていた。俺も長谷を見た。長谷は、クリの頭をなでながら言った。
「なんか、家族みてぇ?」
「……っ」
その言葉に、不覚にも感動してしまった。不覚にも。長谷が次に言ったセリフがこれだ。
「俺がパパで、お前がママな」
「 …………………」
そのデコに、裏拳を入れてやった。
「下んねーこと、言ってんじゃねえ!」
『妖怪アパートの幽雅な日常3』(講談社YA!ENTERTAINMENT/950円)
夕士の学校での出来事。講堂の小部屋にオバケが出るという噂を確かめに行った夕士とフール、それからクラスメイトの田代が見たものは‥‥。
相変わらずのナイス突っ込みの数々。問題提起と締め方がいいです。深い。茶化し具合も好みなのです。 041015
俺は大きくため息して、居間に大の字になった。
どうしていいかわからない。今はただ、様子を見るしかないのかもしれない。
ふと、いつの間にかそばに来たクリとシロが、俺の顔を覗き込んでいた。
クリは俺の顔をしばし見つめた後、手に持った食べかけのコロッケをグイグイと俺の口へ突っこんできた。
「ふぇふのふぁ? はんひゅー……ふおおっ!?」
クリの励まし(?)に感激するよりも、俺はコロッケのうまさに飛び上がった。
ケガをした俺を見て真っ青になった長谷だが、詩人から話を聞いて一発でキレたのだ。
「てめえは! あぶなくないと言っただろうが! それがなんだ、このザマは−−−っ!!」
俺は長谷に往復ビンタを喰らった(ケガ人なのに)。
『妖怪アパートの幽雅な日常4』(講談社YA!ENTERTAINMENT/950円)
古本屋が持ち込んだ魔道書に封じられていた妖魔たち。夕士はこの、かなりズレてはいるが、憎めない妖魔たちを使いこなすべく、魔道士修行に励む一方、バイト先でコミュニケーション不足の大学生や自殺未遂の少女に出会う…。
うんうんうんうん、そうなのよ!と深ーく頷きました。秋音ちゃんの「なんで、ちょっと考えればできるのに、そのちょっとができないのかわかんない」という言葉なんて特に。うちでも職場でその態度、って人はいるのです。どうしてそれがダメなのか。きっと説明してもわかんないだろうなと思うのです。世代の差ってのもあるんでしょうが、その態度、でもつまり会社は容認しているわけで。どうやったら理解するようになるのか。身体にしみればいいんだろうけど、ね。実際、人を使うほうの立場になってみて責任が生じても逃げられないって状況を体験してみたらいいのに。‥‥有り得ないか。
長谷くんのパパっぷりになごみました。ふふ。 050826
『妖怪アパートの幽雅な日常5』(講談社YA!ENTERTAINMENT/950円)
夕士の高校に新しい2人の教師がやってきた。清楚と型破りという両極端な魅力はそれぞれ生徒たちに支持されるが、フールが整った波動だと云う女教師の善意の発言は夕士を苛立たせる。
脳内ホモ領域活性化。妄想の中ではパパに注意を喚起。あれを放っておいていいの〜。イヒヒ。 飽きずに読み返しています。 060528
「お風呂で寝ちゃわないでネ。クリた〜ん、一緒にお風呂入っといでー。ママがうとうとしたら、起こしてあげるんだよー」
「や、ママじゃないっスから」
「そういえば、パパは?」
「長谷は今頃、修学旅行でヨーロッパっス。イヤ、あの、パパじゃないっスから」
「そうかー、残念だねー。一緒にお月見したかったね」
『妖怪アパートの幽雅な日常6』(講談社YA!ENTERTAINMENT/950円)
修学旅行でスキー場に出かけた夕士たち。しかし、宿泊先のホテルには、なにかが起こりそうな怪しい気配が。体調不良の続出、客室の怪奇現象、そして、やつれていく千晶先生。思い出作りの修学旅行はとんでもないことに‥‥。
研修とかじゃなくて修学旅行でスキーなんだね。アパートで年越し正月してから、あとはスキー場。千晶先生もいいけど、管理人はやはり長谷君プッシュです‥‥彼にもっと出番を‥‥。しかしこの思わせっぷり度はどうなのでしょう。作者はホモスキーですか。うどんをすするクリの可愛い姿が目に浮かびます。 070316
『妖怪アパートの幽雅な日常7』(講談社YA!
ENTERTAINMENT/950円)
学年末、条東商は3年生追い出し会の準備で盛り上がり、妖怪アパートでも秋音の送別
会が開かれる。そんなある日、千晶先生の教え子の事件や、まり子さんの哀しい過去を知った夕士は、考える力をつける=学ぶことの重要性に気づいていく。
中弛みとは違うのですが、自分がある程度年のいった人間であるせいなのか目新しさを感じることはできない巻でした(苦笑)。夕士はいろいろ開眼しておりますよ。管理人的萌えドコロは少なめで寂しい。
071020
『妖怪アパートの幽雅な日常8』(講談社YA!
ENTERTAINMENT/950円)
運命に翻弄されながらも立ち向かう夕士。 若いうちの遠回りは心を豊かにしてくれると思った夕士は、就職活動をやめて大学進学をめざす。一方、魔道士としても生きる覚悟を試されるような事件が。
何かが起こる、という先触れがあって、それがいいことなのか悪いことなのか、と思いつつ読み進めていくと、‥‥こんなのがくるか。報道ステーションの古舘さんのコメント級にイロイロと考えさせられます。うーん。この頃、千晶ちゃんに焦点が当たり過ぎていて、食傷の感があり。これだけ夕士と千晶ちゃんの距離が近いと、夕士にとって千晶ちゃんは尊敬とか参考にできる先生、もしくは先輩になると思うんだけど、千晶ちゃんにとっての夕士はどうなのかな。ただのイチ生徒よりは近いよねぇ。
080113
『妖怪アパートの幽雅な日常9』(講談社YA!
ENTERTAINMENT/950円)
進路もほぼ決まった2学期、高校最後の文化祭は男子学生服喫茶をやろうと盛り上がる3−C。そんなある日、自分のノートに書かれた悪口を見つけた夕士は、クラスメイトの心の闇を知る。学校裏サイトにも不穏な空気が…。
文化祭。長谷君といる場面が多くて管理人はウヒウヒ。千晶ちゃんの病気の友人の話を読んで、残されたひとが、彼が死にたいと思うのは当然だと、それを知ってホッとしたとあるけれど、彼がそのノートを残したのは何でかな、とふと思いました。死を身近に感じていたならきっとその後に残るもののことも考えたはず。まぁなんというか少々唐突な印象を受けたエピソードでしたが。 ──学校裏サイトとか出てくるのは時代だなぁ…(管理人の学生の頃ははまだロータスとかベーシックとか云ってた時代/笑)。しかし手段が変わってもどれだけ進化しても、人間の思想の方向が変わるわけではなく。いやこれは集団の中のパーセンテージの問題なのか。 そして思いっきり後を引く終わり方です。長谷君の身内にでも何かあったのか。次巻は3月だそーです。ああん…。 081013
『妖怪アパートの幽雅な日常10』(講談社YA!
ENTERTAINMENT/950円)
高校卒業を目前にした正月、財界の怪物とまで言われた長谷の祖父が亡くなった。その後に残された執念が恐ろしい形となって、夕士たちの目の前に現れるが、立ち向かう二人はさらに絆を深め、逞しく成長する。
最終巻です。9巻のヒキがどうなるのかと思っていたら、……おお。夕士のポカリと抜けたようなもどかしい焦りが身につまされました。後半部分はホントに怒濤のようで、ゆるりと生きている人間には、置いてけぼりになるかと思うくらいのペースでしたよ。ワタワタ。あの千晶ちゃんについての書き方はブラフだろうとは思いましたが…。そしてクリとシロがついに。管理人も嬉しくもあり寂しくもあり。……いやもう、展開がパタパタ早過ぎます(泣)。 夕士と長谷君は結局最後まで名字で呼び合っていたのが、なんだか微妙と云えば微妙。気分的には下の名前の呼び捨てで全然違和感がないもので。
続きがあるなら過去に戻るんじゃなくてせめて卒業よりは後の話がいいなぁ。
終わったんですが、本なので読み返せばいつでもそこに戻れるのが、いっそ不思議な感じです(笑)。 090313
「大丈夫だよ」
と、俺が言うと、千晶は困ったような顔をした。
「大丈夫ならいいけど、大丈夫じゃない時はちゃんとそう言えよ。大丈夫じゃなくてもいいから」
『妖怪アパートの幽雅な人々』(講談社YA!ENTERTAINMENT/1000円)
住人たちの日常、各キャラの裏設定・サイドストーリーを公開。立体造形で妖怪アパートを再現。その後の夕士と長谷、千晶を描いたSS。香月日輪スペシャルインタビュー。
妖アパミニガイド。もっと解説っぽいものを想像していたら語りが夕士だったので本編と変わらないテンションで読めました。「いつ」の視点なのかが微妙だけど(何年後くらい?という)。それぞれのその後もいろいろと出てきていますが、一歩引いた感じがあるのでなんとなく寂しい気分にもなります…。千晶と夕士は交流はあるみたいなんだけど、接触がないよ…。長谷と夕士
が好きならなかなか満足出来ます。ウフ。 120524
『僕とおじいちゃんと魔法の塔1』(角川文庫/438円)
岬にたたずむ黒い塔。まるでお化け屋敷のようなその塔は、鎖と南京錠で封印されているはずだった。だけど、ある日、塔に行ってみると、そこには、僕が生まれる前に亡くなったおじいちゃんが住んでいた。しかもその塔には、もっと驚く秘密もあって…。幽霊のくせに(だからこそ?)ヘンテコなおじいちゃんとの出会いが、僕の決まりきった生活を変えていく。運命を変えられた僕のびっくりするような毎日がはじまった。 111028
秀士郎は、人指し指をビシッと立てた。
「それが問題なのだ、龍神。この世で最も性質の悪い人種とは『善人』なのよ」
秀士郎は、そう言ってまた笑った。ギルバルスは肩をすくめて煙草を吸い始めた。
秀士郎のこの言葉は、龍神には身にしみてわかった。
「寂しいのが悪いのか?」
「え?」
秀士郎が、ニヤリと笑う。
「寂しいと思うことも必要だ。悲しいと思うことも必要だ。それらを養分にして、孤独の中で自分を育ててみろ」
龍神が、初めて聞く言葉だった。
「和人……」
龍神は和人にそっと近づいて、その頭を撫でた。
「ごめんな。こんなお兄さんで」
龍神は、優しく笑った。
「お前と違って、僕はこの家じゃやっていけない。だから出ていくんだよ。お前は、ここでりっぱにやっていける。お前がいれば、この家はずっとずっと大丈夫だ」
龍神はもう振り返らないと、和人はわかった。もう龍神の心はここにはないのだとわかった。こんなにも清々しく、こんなにも簡単に、龍神は遠くへ行ってしまうのだ。
「ズルイよ……」
和人の膝に、涙がポツリと落ちた。
『僕とおじいちゃんと魔法の塔2』(角川文庫/438円)
岬にたたずむ黒い塔で、幽霊のおじいちゃんと4度目の春を迎えた僕。高校に無事合格し、親友の信久とのんびり春休みを過ごそうとしていたところ、塔に予想もつかないはた迷惑なお客があらわれた。魔女に魔道士、仮面
の旅人、そして幽霊と、千客万来の不思議な塔。そこではじまる、わくわくするような出会いを通
して、僕は僕らしく生きていく。「魔法の塔」シリーズ第2弾、高校生編スタート。 111028
『僕とおじいちゃんと魔法の塔3』(角川文庫/438円)
僕と幽霊のおじいちゃんが暮らす魔法の塔に、はた迷惑な住人が増えた。秘密の部屋の魔法円からやってきた魔女エスペロス。見た目はかわいい女の子なのに、実はものすごいお婆ちゃん。そのうえその気になれば世界を壊せるくらいの力を持っているらしい。しかも彼女は、僕や親友の信久といっしょの高校に通
いたいと言い出した。おかげで僕の穏やかな(予定)高校生活が大変なことに。大人気「魔法の塔」シリーズ第3弾。
妖アパを貸していた友人がおもしろかったと逆に貸してくれました。Kちゃん愛してるー。 文字数は多くなく、軽く読める量
なのですが、読みごたえはなかなか。現状にしっくりいかないものを感じていて、けれどその感情は否定するものではないと教えてくれる存在に出会い、導いてくれる大人と過ごし成長していく、という大枠は妖アパに似ています。「家」と「学校」が主軸にあるので、場所的にはクローズしているような、でも、ここじゃない世界は広くあるというような。「わかっていない」「わからない」人を切り捨ててしまうドライさにやや殺伐したものを見出しながらも、楽しめました。 111028
「……気付かなかったら?」
秀士郎は、手をヒラヒラさせた。
「どうにでもなればいい。死にたい奴は死ねばいいサ。若さがどんなに力のあるものかわからんような奴ぁ、生きていたってただの穀潰しだ。ただ、周りに迷惑をかけるなと祈るばかりだ」
「アア。それは大問題」
「うう〜む……」
人間二人は唸るしかなかった。
「なんか、イジメが可愛らしく思えてきたな」
「ダメダメ」
龍神は頭を振った。
「たとえ高いところから見たら可愛らしい行為にしか見えなくても、イジメなんてロクなもんじゃない。やめさせなきゃ、本人のためにならないよ」
「イジメっ子がどこまで壊れるか見てみたくない〜、龍神?」
エスペロスがヒヒヒと笑った。秀士郎のように。
「業というのは、深いから業というのでな」
秀士郎の口調は、しみじみとしていた。
「そんな業のものに生まれなかったことを嬉しく思いマス」
龍神は、そろそろ閑静しつつある百合の花の絵を、何度も何度も見つめ返す。何度見つめ返しても、もっと深いところへ行けるのではないかと思う。
「これも欲深なんだろうけどね」
苦笑いしながら、置こうとした筆をまた握り直す龍神だった。
『僕とおじいちゃんと魔法の塔4』(角川文庫/438円)
幽霊のおじいちゃんと暮らす僕の、高校生になってはじめての夏休み直前。弟の和人や妹の晶子が塔に泊まりに来るということで、なぜか魔女のエスペロスが大はしゃぎ。一方、僕たちは学食で暴れている先輩たちを見つける。エスペロスによると、彼らは猫に祟られているらしい。自業自得でそんなことになったようだけれど、知ってしまったからには助けたい。信久と僕は、彼らのもとに向かうことにしたけれど…。
続きが読みたくて自分で購入(笑)。ごはん、というか野菜が美味しそうです。土の匂いがしてきそうな。エスペロスがいるから余計にか上から目線に見えることもあったりなのですが、そんな中で和人に仕掛けられた悪戯、不安感に、お、と
思わされました。 111102
さらに、エスペロスは無邪気に言った。
「パパから、学校に寄付してもらお〜っと♪ そしたら、学校も文句言わないよね♪」
「うっわ!」
信久と真美と敬子が、顔を顰めた。
「なんてあからさまな……。引くわ!」
『僕とおじいちゃんと魔法の塔5』(角川文庫/438円)
幽霊のおじいちゃんと魔法の塔で暮らす高校生の僕・陣内龍神。塔には、親友の信久、魔女のエスペロス、完全無欠な美貌の先輩・一色雅弥と、ちょっと騒がしいけれど、楽しい仲間も増えました。そんなとき、妹の晶子の友だちがいじめにあっているという話を聞き、びっくり。しかもそれには、恋愛問題まで絡んでいるらしい。妹の恋話を聞いて、とまどってしまう僕だったけれど…。
おもしろくないわけではないのですが。主人公が聞き手側にまわっているというのはつまりません。成長は経験を通
してするものであると思うので、もっと巻き込まれて乗り越えていくのがいいなと。 120804
『大江戸妖怪かわら版1〜異界より落ち来る者あり〜』(講談社文庫/448円)
三ツ目や化け狐たちが平和に暮らす、おだやかな魔都「大江戸」。かわら版屋の少年・雀は、この町に住むたったひとりの人間だ。面
白話を求めて奔り回る雀のところに「人間を拾った」との一報が。おかっぱ頭の童女が、人間の住む異界から落ちてきたというのだ。朗らかな妖怪たちの姿を鮮やかに描いた、優しい人情噺。
前日読んだ魔法の塔5巻とはがらりと変わった巻き込まれ渦中のFT。話に入り込むまでにやや時間がかかりますが、描写
もきらきらしていて華やかで好きです。楽しく暮らしながらも「一人だ」とどこか孤独を抱えたままの雀。彼の過去に何があったのか、いつの時代の人なのか(……たまごっち、はただ呼びやすいから?)気になるところです。 120805
この世界に、雀は一人きり──。
でも、淋しくない。雨が優しく町に降りそそぐように、雀もいろんな優しいものに包まれている。この不思議で美しい世界の空気を吸い、水を飲み、生きて、暮らしている。あの川辺の花が、優しい雨をあまさず吸い上げ、鮮やかに赤々と咲き誇っているように。
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