大学広報は今

聖心女子大で学生のメディア露出解禁、SNSガイドラインも策定

聖心女子大学

0
162_01.jpg

テレビ局の取材を受ける、ラジオサークルの学生。かつては全面禁止だった学生のメディア露出も、ソーシャルメディア時代の社会的意識の変化に合わせ、少しずつ規制を緩める傾向にあるという。

162_02.jpg

学生を「守る」ソーシャルメディアガイドライン
2011年、同大学の英語英文学科教授であるマーシャ・クラッカワー氏が主導し、米・ミシガン大学などの運用事例を参考にしながら策定した。学生をリスクから守るという観点から作成されたガイドラインは、問いかけるような文体で、実際の判断・行動を学生の自主性に委ねる姿勢をとっている。

昭和天皇皇后が幼少期を過ごした、かつての久邇宮邸の敷地内にキャンパスがあり、かつ、平成天皇皇后の出身大学でもある。皇室との所縁の深さで知られる聖心女子大学。それがブランド価値となってきた一方で、ともすると敷居が高く、閉ざされたイメージを持たれがちなのが悩みでもある。「受験生人口が減少の一途を辿り、受験生一人あたりの併願校数も92年頃の7~8校から現在は4校ほどに減るなか、"選ばれ続ける"大学となるために、積極的な取り組みが必要と考えている」と入学広報課課長の坂本明氏は話す。

入学募集定員が450人、在学生の総数が2000人という比較的小規模な大学。「共学の大規模な私立大学と比べたら、20分の1の規模。広報活動の方針も小規模ならではのもので、『多くの受験生にアプローチして振り向かせる』のではなく、『本学と親和性が高い、つまり本学に共感を持ちやすい受験生にアプローチし、確実に獲得していく』ことを重視する、ターゲットマーケティング的な発想」(坂本氏)。この方針のもと、コミュニケーションの対象として特に重視しているのは、一都三県にある中高一貫女子校の出身者と、聖心女子の卒業生の子女。女子専門の教育や、きめ細やかな少人数教育に共感する人、つまりファンになる確率の高い層を確実にファンにしていくという方針だ。「教員1人あたり学生20人という体制で、教職員は学長に至るまで、学生一人ひとりの顔と名前を覚えている。学生はもちろん、受験生に対してもface to faceのコミュニケーションが基本。顧客満足ならぬ"在学生満足"を高めながら、少人数教育の魅力を最大限に伝えたいと考えている」(企画部 原田耕氏)。そのコミュニケーションを担うメンバーは、一般広報を担う企画部が専任4人、入試広報を担う入学広報課が専任6人と、他大学に引けをとらない、厚い布陣を敷いている。

162_04.jpg

全学生の顔と名前がわかる広報
一般広報を主担当とする企画部と、入試広報を担当する入学広報課が、密に連携しながらコミュニケーション活動を担う。「入学広報課6人が100人ずつ入学者を獲得すれば、入学定員を充足することができるほどの規模感。100人と言ったら、一人ひとりの顔と名前が覚えられる。少人数体制を最大限に活かしたface to faceのコミュニケーションで、受験生、ひいては在学生の満足度を高めていきたい」(坂本氏)。

162_03.jpg

来校者400人に対し、学生ボランティア30人
オープンキャンパスは、親子での参加者を意識したものや、高校生にとって疑問になりやすい事項に焦点を当てた内容など、テーマ別に開催している。驚くのは、開催日に集まる学生ボランティアの数。来校者400人に対し、毎回30人ほどの学生が参加する。「在学生は、大学にとって一番の"看板"。キャンパスツアーの案内役としてはもちろん、キャンパス内の至るところで学生の様子が見られるように工夫している」(坂本氏)。毎回、来場者へアンケートを実施しており、結果の集計・分析を徹底的に行って広報戦略策定などのヒントにしている。

学生・OGの姿こそ、大学の実態

同大学ならではの環境下で学ぶことの魅力を伝えるために重視しているのは、在学生・卒業生のリアルな姿を見せること。受験生向けに毎年発行しているガイドブック「7Stories」(写真:頁下部(上))では、7人の卒業生の仕事風景を紹介。大学案内では、学部・学科紹介より先に卒業生の現在の活動を紹介したり、履修科目や留学制度は在学生の言葉を借りて説明する部分も多い。「少人数教育であるがゆえ、講義やゼミでは否が応にも自主的な発言や行動が求められる。一人ひとりが生き生きと学生生活を送る様子を伝えるために最も効果的なのは、とにかく在学生・卒業生の顔を見せることだと思っている。特別な経歴を持つ学生をピックアップしているわけではなく、豊かな国際性やキリスト教教育、リベラル・アーツ教育など、本学の訴求ポイントを体現している、いわゆる"普通の学生"が多く登場している」(坂本氏)。学生の自主性を重んじる姿勢は、近年WEBメディアを中心に話題になった、同校のソーシャルメディアガイドライン(写真:頁上部)にも表れている。「個人や団体でソーシャルメディアを運用する学生を、リスクから守るのが教育機関の役目」との考えから、大学としては早い2011年に策定したもので、このガイドラインが「学生想いの内容」「禁止事項で縛るのではなく、あくまで利用者の自主性に委ねる姿勢が秀逸」との評価を受けた。この流れとほぼ時を同じくして、テレビや雑誌といったメディアへの学生の露出も、徐々に規制を緩めるようになった。「それまでは、テレビの取材はニュース・報道、ドキュメンタリー以外NG、ファッション誌などへの学生の出演もNGだった。時代の流れに合わせ、少しずつ体制・意識の変革を図っている」(坂本氏)。

162_05.jpg

大学とは、在学生・卒業生である
高校生とその保護者向けに毎年発行しているガイドブック「7Stories」。それぞれのフィールドで活躍する7人の卒業生を紹介するもので、今年で発行10年目を迎えた。大学の特徴を効果的に訴求するため、紹介する職種のバランスには注意しているが、就職先の企業規模や、仕事内容にはこだわらない。さまざまな分野で卒業生が活躍していることを視覚的に伝え、同校の訴求ポイントの一つ「リベラル・アーツ教育」を訴求する目的もある。

162_06.jpg

大学案内にも、学部・学科紹介より先に卒業生の写真が。彼女らの姿・言葉をもって、大学の理念や実態を伝えたい考えだ。

大学としては現在、フェイスブックの運用に力を入れている。「手軽に使えるツールは豊富にあるが、充当できる人員を考えても、すべてを網羅するのは無理。炎上しにくい特性を持つフェイスブックを選択し、昨年7月に運用を開始した」(坂本氏)。公式サイトの閲覧者は受験生60%・在学生20%・一般20%である一方、フェイスブックは13~17歳が5%程度、18~24歳と25~34歳がともに30%以上。直近の卒業生とつながるチャネルとして活用可能性が高いと見ており、今後も積極的な運用を進めていきたい考えだ。

162_10.jpg

聖心女子大学

日本で最初の新制女子大学の1校として1948年に開学。都心にありながら緑豊かな環境。初代学長の教え"Be independent. Be intelligent. Be cooperative."を大切に「聖心スピリット」を持つ「社会との関わりを深め貢献できる」女性の輩出を目的としている。
0