記者の目:奈良の空襲通じ平和問う=宮本翔平(奈良支局)

毎日新聞 2013年08月29日 00時33分

 壁画で知られる高松塚古墳やキトラ古墳などが残る明日香村で、国民学校が機銃掃射されたのは45年7月19日だった。空襲警報が出たため児童は帰宅させて無事だったが、校舎内にいた当時の校長が撃たれて死亡した。当時5歳だった浦谷匡廣(ただひろ)さん(73)=同村=の父太郎さん(2006年に96歳で死去)は学校職員で、校長と同じ部屋にいた。弾は太郎さんの頭上をかすめたという。当時の学校では校庭に芋畑が耕され、修練道場建設のための材木が積まれていただけ。浦谷さんは「校長先生が犠牲になる必要はなかったはずだ」と訴える。

 終戦1週間前の45年8月8日には五條市で、山あいの国民学校が攻撃されていた。5年生の担任だった辻本艶子さん(87)=同市=は機銃弾が脚を貫通する重傷を負った。終戦後、大阪から疎開していた女子児童が犠牲になったのを知った。空襲警報でいったん学校を出たが、忘れ物の裁縫箱を取りに戻った教室で撃たれたという。教え子を守れなかった辻本さんは「悔しくて、申し訳なくて……」。高齢を押して体にむち打ち、体験を地元の子供たちに伝える活動を続けている。

 ◇公的資料残らず難しい事実継承

 取材では約30人から話を聴いた。証言を整理し、史料をどれだけ読み込んでも、「どうして」という疑問に答えは出なかった。「戦争だから」と言ってしまえば身もふたもないが、のどかな田園に立ってみれば、その言葉で自分を納得させることはできない。文化財が多く戦災とは縁遠いとされた奈良でも、大勢の民間人が殺傷された戦争の理不尽さは同じだった。

 攻撃を受けた日付さえも公的資料にはっきり残っていない地域もあり、事実の継承すら難しい現実も知った。26歳の私も、戦争が遠い時代の出来事である若い世代の一人だ。体験者の苦しみを知り、「なぜ」を突き詰めていけば、「どのような戦争も容認できない」という感情に行き着く。だからこそ戦時下の日常を生きた身近な人たちの声に、謙虚に耳を傾けたいと思う。

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