古くから文学などにとり上げられている赤ん坊取り違え事件だが昭和40年代には日本で多発した。自分のおなかを痛めて出産した子供が,手塩にかけて育ててきた自分の子供が,実は他人の子供だったとしたら,母親のショックは言葉では表現できないものであろう.このような信じがたい事件が昭和40年ごろ日本各地で多発したと言う。
例えば滋賀県大津市に住む大学助教授Yさん夫婦には,4月から幼稚園に通う予定の4歳の長男がいた.入園を機会に子供の血液型を調べて名札に書いておこうと血液型を調べてもらった.そして血液検査の結果,驚くべき事実を知ることになる。
小説でも実話に基づいた奥野修司著の「ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年」などは読むのもおぞましい。
今年5月24日に行われた第66回カンヌ国際映画祭でパルムドールとグランプリに継ぐ第3位の賞、審査員賞に是枝裕和監督「そして父になる」が獲得した。
生まれた病院で取り違えられ6年を過ぎた子供たちの交換はそんなに簡単では無いと夫々の社会的地位や都市部と田舎と違う二家族に複雑な人間ドラマは内容が充実していて興味深く見た。
さてこの映画も「赤ん坊取り違え事件」だが何と18年も経っている。すっかり成長しているから「そして父〜」よりも簡単だ、と思えない。確かに家族と住み父母に頼る年齢は過ぎているが、夫々の家庭が激しく敵対するイスラエルとパレスチナ分断の問題になるからややこしい。それに基本的な問題はアイデンティティなのだ。それは生まれつきの遺伝子で決まるものなのか?または育った環境に依るものなのか?
2012年・第25回東京国際映画祭で、最高賞の「東京サクラグランプリ」と「優秀監督賞」の2冠に輝いたドラマ。監督のロレース・レヴィとプロデューサーヴィルジニー・ラコンブが初来日し記者会見をひらき映画について語っている。フランス映画と決めつけないで欲しい。自分はユダヤ系フランス人だが俳優スタッフは多国籍な人々が集い、欧州や中近東を巡る問題を巻き込むからだと。
イスラエル・テルアビブに暮らすシルバーグ家。父親アロン(パスカル・エルベ)はイスラエル国防軍大佐と言う大物。母オリット(エマニュエル・ドゥヴォス)はフランス出身の医師。裕福な家庭だ。18歳になり自立しよと長男ジョセフ(ジュール・シトリュク)は兵役用健康検査の結果、血液型から両親の実子でないことを知る。オリットはハイファの病院で出産したが、湾岸戦争の初めの頃でミサイル攻撃を逃れるため新生児を安全な場所に避難させた。その際の手違いが赤ん坊の撮り違いが明らかになる。
オリットは納得しない夫アロンを説得しハイファの病院へ向かうがそこで出会った取り違え児の両親はパレスチナ人のアル・ベザズ夫妻だと知る。
アロンは我慢出来ずに外へ飛び出し、パレスチナ人の母ライラ(アリーン・ウマリ)は涙を堪え切れない。 パレスチナ人の父サイード(ハリファ・ナトゥール)は黙って部屋を後にする。残った2人の母親は互いの息子の写真を見せ会う。
涙を堪えながら違う場所に生きていた夫々の息子の話しをしながら互いに気遣う姿は美しいし涙が零れる。しかし2人の父親、男ってものは嫌なことが目の前に飛びだすと避けるものですな。
アル・ベザズ家の長男ヤシン(マハディ・ザハビ)は幼い頃から優秀でパリに留学していたが帰国する。村に病院を建てたいと願っていたヤシンはパリで医師の試験に合格したのだ。ヤシンはユダヤ軍の厳しい検閲を通らなければならない。
間違えられてユダヤ人として育ったジョセフは勉強も出来ずのんびりと暮しながらミュージシャンを目指していた。やはりユダヤ人の子供は優秀でアラブ人は落ちるね。
総てが明らかになるとややこしい問題が2人の子供たちの間に起こる。ヨセフの兵役はキャンセルされる。当たり前だ、パレスチナ人をユダヤ軍に入れる訳には行かない。ユダヤ教のラビに会ってもユダヤ人の母から生まれなければユダヤ人では無いと言われガックリ来るヨセフ。アラブ人として育ったヤシンはユダヤ人の母から生まれているからどんな環境でもユダヤ人。一方ヤシンはユダヤ軍の大物将校の息子と言うことでユダヤ軍の検閲も含めて待遇も扱いも変わって来る。
やがて両家の御対面が始まり、イスラエルとパレスチナふたつの家庭のアイデンティティと信念とが大きく揺さぶられ数々の問題点が浮上して来るが、それを克服しようと言う努力がなされる。
アラブ人と日本人だとはっきりと分かり、赤ん坊の取り違えなど起こらないだろうが、天敵同士とは言え同じ中東に生息する民族。姿形は怖ろしく似ている。同じ旧約聖書の大予言者アブラハムの子孫だ。
ユーモアを交えながらロレーヌ・レヴィ監督は両家を通して融和の道、平和の絆を見つけようとしている。
レヴィは映画監督として、ユダヤ人として、ひとつの地政学的な物語をみなさんに紹介したかった。「昔むかし、あるところに、平和が可能な世界がありました、というような」と。
10月シネスィッチ銀座他で公開される。
PS:ユダヤ人と言えばhush-hush informationを一つ。ジョージ・バウムガートナー前FCCJ会長(現トレジャラー)は、還暦を越えたとは言えトランジスターグラマーの女医ケイコさんとシンネコに肩を寄せ合って料理などをつつき合っている微笑ましい光景を度々見る。
ルーシーに肩代わりさせた重荷も今はHistory。
だがジョージにはティナ・ハシブと言うパートナーがいた。
ハシブは別れ話の最中に産まれた子どもの父親はジョージだと慰謝料を要求した。
(ユダヤ人は母系民族。ユダヤ人の母親から生まれた子供はユダヤ人)
しかしジョージは子どものタネは俺じゃないと争い、DNA鑑定で敗けてたんまり慰謝料を払ったと言う。そんな噂話が今FCCJ内に飛び交っている。昔の話で真偽の程は分からない。
|