Questions

……ええ、はいはい。すぐにやっつけちゃいますよ。なにせここんところ目立った事件もなくて暇ですからね。明日といわず、すぐにでも。はい。では、お気をつけて。
…………。
やれやれ、なんとか今日は怒鳴られずに済んだ。
それはいいけど、なんだろうこれ。また妙な仕事もらっちゃったな。見たところ、普通の羊皮紙の束みたいだけど……隊長、妙に気合はいってたのが気になるな。ひょっとして退官勧告じゃないだろーか。
ふぅ……ん？　書類か。えらく分厚いな。どれどれ。
１　まず、お名前をどーぞ。正式名、本名などあればそちらも。
……？　なんだこりゃ。
えーと？　説明みたいなのはついてないのか？　うーん、ないか。参ったな。
お名前をどーぞ？　ってことは、僕の名前だよね、たぶん。
じゃ、これに返事すればいいのかな。えーと……見たところ、ここに答えを書けばいいんだな、きっと。
なんだかヘンな気分だな、こういうの。なんでまた隊長は、僕にこんなの押し付けたりしたんだ？
いいや、なにはともあれ、ちゃっちゃっと片付けちゃおう。どっちにしろ大して重要な書類じゃないだろうし。
蛾ペンどこだったかな……確か、ランライドが使ってたのが、このへんに……あった。インクはこれでいいや。残ってるかな。お、あるある。ラッキー。
えーと、ここに、こうやって……『ティガ』、と。できた。
下の名前も書いたほうがいいかな。あんまり使われるものじゃないから、誰も名乗ったりしないけど……
ま、いいや。ダメなら隊長がそう言うだろうし。

　２　あなたの性別・髪や瞳の色・体格・民(種)族など（あれば）身体的特徴を教えてください。
はぁ、また妙なことを訊ねるな。なんの統計とるんだ、コレ？
えー、１９歳男、髪の毛は萌黄です、っと。瞳は……どうだろう、あんまりまじまじと見つめたことないから分かんないけど、黒に近い紫かな。滅紫、でいいのかな？
体格は……そうだな、平均よりちょっと低いくらいだろうなぁ。ランライドほど太ってないし、ライズほどノッポでもないし。ま、普通ぐらいだろうか。人種は、生まれも育ちも滔国だからサリンジャー人。
これでよし。
しかしケッタイな質問だなぁ、これ、どうするつもりなんだろう？

　３　あなたの故郷について語ってください。
故郷、ねぇ……今さら言うほどのモンでもないと思うけどなぁ。
ま、いいや。愚痴ってたって始まらない。さっさとやっつけちゃおう。
ここはイーストランドのヘソ、神都ジェスクウ。人間の文明のある都市の中では最大級の人工と規模で、その名から分かるとおりシウス教の総本山でもある。正確に言えば、僕の生まれはジェスクウにほど近い衛星都市ナルダージュの郊外。いいとこだよ。静かだし、食べ物はおいしいし。一度はおいで。

　４　あなたが今いる国(都市・土地)について教えてください。
今いる都市。となると、ジェスクウのことだよね、きっと。
えー、ジェスクウはなんというか、一言で言えばお上品な都。直角にキッチリ区切られた城下はすべてに番号が割り振られているし、医療施設なんかも区画ごとにキッチリある。こんなに整備された都市はたぶん他にないんじゃないかな。ま、魔法都市ジェスクウとしての側面のおかげだろう。
権力を持ってるのは主に教会、貴族、国王のみっつ。規模もこの順。つまり、教会の力が大きい、ってこと。そんなとこかな。
さぁ、どんどんいこう。

　５　あなたの職業(地位・称号)は？
神殿騎士第二大隊神殿部署第十小隊、通称『鷹の』十隊に所属する、これでも一応、れっきとした神殿騎士だ。分類としては常備兵とか、下級兵とかって呼ばれてる。要するに下っ端ってこと。
次。
　６　あなたの家族について教えてください。
田舎に父がひとり（ふたりなわけないけど）、母がひとり、それに祖母がいる。神殿騎士に受かってから顔見せてないけど、元気でやってるかなぁ。

　７　あなたが今身につけている服装について教えてください。あれば武器防具アクセサリなども。
たいていは支給品の神殿騎士共通革鎧。軽くて丈夫で動きやすいんだけど、僕がこれを着てるのはただ単にいいのを新調する余裕がないだけ。トホホ。

　８　あなたの信仰(宗教・伝説など含む)について教えてください。
し、信仰……？
そりゃ、シウス教ですよ、もちろん。だって神殿騎士ですもん。当たり前でしょ。
う、嘘なんかついてないったら！

　９　上司・主君などはいますか。どんなひとですか。
あー、さっきのが僕らの上司、隊長ことライントール。通称『忍耐の』ライントール。いつも怒ってばっかりいる気がするのは、僕だけだろうか？　その上にもいろいろいる。なにせ神殿騎士だから。
主君。あえて挙げれば、教皇サーハルさまか、国王の……う、なんだったっけ。名前わすれた。
やばっ。
いや、これは別に僕が反逆者なんじゃなくて、実質的な権力はほとんど教会が握ってて、国王ってのはほとんど傀儡みたいになってるから普段あんまり話題に出てこないからであって、ね。
ホントだってば！

　10　恋人(夫・妻)はいますか。どんなひとですか。
……いたらいいんだけどねぇ……

　11　特殊技能などあれば教えてください。
ない。これだけはキッパリ言える。
あんまり言い切るのも情けないけど、ホントなんだから仕方ないだろ。特殊技能なんてあったらこんな所にいやしないよ、まったく。
でも、自己弁護のために言っておくと、僕みたいに多少なりとも魔法が扱える人間ってのは、実は滔国以外ではかなり珍しい存在らしい。こっちでは五人に一人が魔法を使えるから、だからってあんまり自慢にならないんだけど。

　12　体を動かすのは得意ですか。動作は速いほうですか。力は強いですか。
うえー、ヤな質問。
ま、一般人を守れる程度には兵士やってますよ、一応ね。
神殿騎士ですから、僕。

　13　書物は読めますか。読むのは好きですか。
読めるよ！　でなきゃ魔法なんて使えっこないだろ！
あ、そうでもないのか。魔法行使と言語には一定の理論は認められない……とかなんとか、講義でやった記憶あるや。
読むのが好きかどうかは、微妙なところかな。勇者王の伝記なんかは、いまだに愛読してるけど。

　14　喋るのは好きですか。母国語以外に話せる言葉はありますか。
え……母国語以外？　なんだろ、それ。
言葉って僕が今使ってるの以外にもあるの？
だめだ、パス。

　15　行ってみたい所はありますか。それはどんなところですか。
一度でいいから、奥さんに叱られて小さくなってる隊長のいる、彼の家に行ってみたい！
あと……G区の歓楽街に堂々と行ってみたい……
いや、別にどうしても、ってワケじゃないよ。ただ、ちょっとだけ、ね。

　16　好きな食べ物は何ですか。それはどんなものですか。
父さんお手製の自家製小麦ベーグル。うちは母さんは料理できないもんだから。

　17　嫌いな食べ物は何ですか。それはどんなものですか。
小さい頃に飲んだ、風邪薬用のアレ。緑色で、どろどろしてるやつ。これでもかってくらいにマズいんだけど、母さんの地方ではアレを決まって飲むんだそうだ。確かに効果はテキメンだけどね。……うっ、思い出しただけで気持ち悪くなってきた……

　18　朝起きてまず最初にする事は？
上半身をひねって背骨をボキボキ言わすアレ。

　19　夜寝る前に必ずする事は？
……最近寝る前のお祈りしなくなったなぁ……

　20　苦手な人はいますか。どんなひとですか。
そうだなぁ、あんまりいないけど……あえて言うなら、下手に出るとつけあがる人。いるでしょ？　ときどき。
あ、やっぱり一番嫌なのは、「神殿騎士なんていて当然、守ってもらって当然」みたいに思ってる人。こっちは命張ってんだよ！

　21　尊敬する人はいますか。どんなひとですか。
ライントール隊長。
いや、万が一後で目ぇ通されたらヤバいから、一応。

　22　死んでもやりたくない事はありますか。それはどんなことですか。
死ぬこと！
……冗談ですよ、冗談。やだなぁ。ちょっとお茶目なティガちゃんを気取ってみただけじゃないですか、ははは。
えーと、死んでもやりたくないこと？
こう……正当な理由もなく誰かを殺したり、傷つけたりしたくないかな。正当防衛ってのなら、分かるけどね。
兵士のくせにキレイ事言いやがってなんて言わないでくださいよ。理想論ですから。兵士でも、信念持ってないと人殺しなんてできませんって。一部の妄執狂を除いてはね。

　23　もし、ひとつだけ願いがかなうとしたら、何を願いますか。
あれ、言いませんでしたっけ。僕、今の生活にすごく満足してますよ。
あえて言うなら……そうだなぁ、世界が平和になりますように、かな？
うー、なんか恥ずかしい。

　24　もし、あなたに子どもが出来たら、どんな子どもにしたいですか。
いや、ちょっと待って、なんでそんな話に……？
こ、子供？　いや、その、そうだなぁ……え、えーと。
ぱ、パス！

　25　どのように死にたいと思いますか。
誰かの命を助けて。
無駄に死なずに、代わりにひとつ命を救う、って意味で。
あと、できれば天寿を全うしたい。

　26　あなたの野望は。
神殿騎士の騎士団長になること！
（野望ってのは、とうてい実現不可能そうなことでもいいんでしょ？）

　27　自慢話をおひとつ。
こう見えて、横笛なんか得意なんですよ、僕。
今度お聞かせしましょう。

　28　今までで一番恥ずかしかった事は。
とある勘違いが理由で、大衆の面前で教皇さまに大恥をかかせてしまったこと。
ほかにもあるけど、恥ずかしすぎて書けません。

　29　今までで一番嬉しかった事は。
神殿騎士になれたことも嬉しかったけど、その前の中央神聖士官学校に合格したのがいちばん嬉しかったかな。

　30　今までで一番ショックだった事は。
１４ぐらいのとき、飼ってた小鳥が逃げたこと……
さらにその可憐な鳥が、近所の野良猫の手にかかって無残な姿に成り果てていたこと。ウッ……

　31　戦争をどう思いますか。
僕が物心ついてからは戦争はないけれど、想像することはできる。上に立つ人間の独善じゃないかな。
でも、８年前の魔界大戦なんかの話を聞くとワクワクしないこともないから矛盾してるよね、僕って。

　32　夢はありますか。それは何ですか。
これは野望とは違うんだよね、きっと。
つつがなく平和に一生を送ることじゃないかな。安っぽいけど。

　33　信念はありますか。それは何ですか。
弱きを助け、悪をくじき、平和と幸福をなによりの誉れとすること。
なんて言ってるとカッコつけてるなんて思われそうだけど、剣ってのはそのためにあるんでしょ？
世界が平和なら、神殿騎士なんていらないからね。

　34　趣味はありますか。
横笛、それに剣と魔法の稽古（これは兵士としての責務でもあるけれど）、あとは読書を少々。趣味ってほどでもないけどね。

　35　あなたの世界に魔法はありますか。魔法についてどう思いますか。
魔法を使えない人たちから見れば、まるでなんでもできる万能の道具みたいに思われがちだけど、意外とそうでもない。空は飛べないし、剣にはかなわないんだ。

　36　好きな事は何ですか。
ひとりでボーッとするのなんて結構好きかな。

　37　嫌いなことは何ですか。
遠征の実践訓練……全身が泥と鉛になったような気分になる。今まで二度あったけど、またあるのかな、アレ。……やだなぁ。

　38　大事なものは何ですか。
信念というか、心というか。目に見えないけど自分に属する、すべてのもの。
肉体以外で、僕をティガたらしめているもの、って言い換えてもいいかもしれない。

　39　好みのタイプは。
うわー、やっぱり来たか、この質問。
とりあえず『優しいひと』と、答えることにしてますけど。

　40　異性をオトすコツなどあればご教示ください。
オトすコツ、ですか……誠意じゃない？
うえっ、恥ずかし！
そんなの経験ないくせに、なにクサいこと言ってるんだろう、僕は。
ライズにでも聞けば？

　41　異性遍歴などは。
……ヤだなぁ、この手の質問……

　42　これだけは許せないっということはありますか。
あんまりないです。
許すの得意なんです、僕。

　43　死ぬまでにやっておきたい事はありますか。
世界中から惜しみない賞賛を浴びたい。
なんて、これっぽっちも思ってません。不可能なことは望まないんです、僕。

　44　あなたの世界に竜はいますか。妖精は？　それは、どんなものですか。
竜はいたらしいです、大昔に。
あ、そういえばハルベルトが、滔国にも竜がいるって言ってたような気がするなぁ。それも、ジェスクウのすぐ近くに。なんでも、魔界大戦のときに突如として現われたとか……あいつの言うことだから、マユツバだけどね。

　45　あなたの世界に魔物はいますか。それは、どんなものですか。
います。かなりいます。勇者王が魔王を倒してからはこのあたりは静かだけど、北の国境地域アル＝クレイあたりは今も大変らしい。なにせあそこから北はいまだに未開の土地、魔物たちの領土だから。
っていうか、そんなことも知らないんだろうか……？

　46　雨の日は嫌いですか。その理由は。
嫌いじゃないですよ。滅多に降らないから、あんまり嫌いな人っていないんじゃないかな。

　47　忘れられない風景はありますか。
やっぱり残してきた故郷、懐かしき我が家。
あー、今度顔見せよう。

　48　戻りたい場所はありますか。
ひとは常に進歩し続けるもの。
戻りたい場所がない、っていうのは、今が幸せな証拠かもしれません。

　49　作者にひとこと。
……？？？
サクシャ、って、なんだろう……。
パス。
（追記：後でランライドに聞いたところ、『誰でもいいから知ってる作者に宛てろよ』と言っていたので、シーネ記の作者ハルミケに。
そのラストはあんまりだ、と）

　50　読者にひとこと。
これまたよく分からない質問だなぁ。しかもこれで最後か。えーと、えーと。
応援よろしく、かな。

…………。
ん、僕、今何て言ったんだ？

ま、いいや。

おや。
ライズにランライド。どしたのさ、そんな浮かない顔して？
え、これ？　ああ、なんだかよく分かんないけど、隊長が急いで片付けろ、って言うモンだからさ。今まで書いてたんだけど……あっ、ちょ、ちょっとタンマ！　見るなよ、恥ずかしい！
え、いや、別に困るってほどのモンでもないけどさ。なんとなく、照れくさいじゃないか。
いや、僕にもよく分かんない。なんだろうね、これ？　あ、それよりどうかした？　何かあった？
……うわっ。警護か。退屈なんだよね、あれ。
ま、いいじゃないか。どうせこの後歩哨だったんだ。それに、大司教だろ？　ひょっとしたら、ご尊顔を拝めたりなんかして。なーんて、大して見たいものでもないけどさ。
別に、前向きなワケじゃないよ。でも、そんなに嫌がるほどの仕事でもないだろ？
じゃ、行きますか。コレは、そうだな……後で隊長に渡すよ。どこに置いとこうかな、っと……
あ、と、ちょっと、ちょっと待ってよ！　ほったらかしにするなよっ！　ああ、分かった、今行く、行くからさ、ちょっと待って、待てってばよぉぉ……！


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――そして、《神殿寓話》へ――

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