はだしのゲン:松江市教委、閲覧制限撤回 「市教委の責任重い」 小学校長ら検証要求
毎日新聞 2013年08月27日 東京朝刊
松江市教育委員会が漫画「はだしのゲン」の閲覧制限を全小中学校に求めていた問題は26日、市教育委員の臨時会議で撤回が決まった。問題が発覚してから10日。教育委員が出した「学校図書の取り扱いは校長の所管」という結論に対し、学校関係者や被爆地・広島からは「混乱させた市教委の責任は重い」「今回の問題を、ゲンを読むきっかけにしてほしい」などの声が相次いだ。【長宗拓弥、宮川佐知子、高橋咲子、吉村周平】
「『ゲン』だけの問題ではない。学校図書を排除しようとする動きがそもそもおかしい。閲覧制限など民主主義に反しているし、子供の学びの権利を侵害している」。松江市内のある小学校校長は取材に対し、一連の市教委の対応を強い口調で批判した。今回の方針転換にも「現場は大混乱した。市教委の責任は重く、なぜ閉架を求めたのか検証すべきだ」と述べた。
市教委は昨年12月、漫画の一部の暴力的なシーンや性描写を問題視し、子供の自由な閲覧を禁じるよう校長会で求めた。複数の校長によると、市教委側はその場で「最終的には校長の判断」としたことから、各校で対応にばらつきが出た。そのため今年1月、市教委は校長会を改めて開き、閉架措置をより厳しく求めたという。
1月に初めて市教委の方針に従ったという別の小学校校長は「『ゲン』に多少、過激な部分はあるが、優れた図書。作者の中沢(啓治)さんが亡くなるなど、ゲンの話題が出る度に、閉架が正しかったのか自問自答してきた」と苦しい胸の内を明かした。子供の閲覧を制限した学校方針について「市教委と良好な関係を築かなければならなかった」と話す。
次男が松江市内の中学校に通う中村和可子さん(42)は「息子も小学生の頃に読んだが、悪い印象は持っていない。戦争を繰り返さないことが大切なのに、一部の描写だけがクローズアップされ、とても残念」と話した。
広島の被爆者団体からは「閲覧制限撤回は当然」との意見が出た。広島県被団協の坪井直(すなお)理事長(88)は「教育委員会が『こうしなさい』と決めるような問題ではない。読むか読まないかは子供たちに委ねればよい」と語った。ただし「放りっぱなしはいけないと思う。読み終わった子供たちの質問にきちんと答えてあげることこそ、大人の役割だ」と注文を付けた。
◇素直にうれしい−−故中沢さん妻
「はだしのゲン」の作者、故中沢啓治さんの妻ミサヨさん(70)は、閲覧制限撤回の知らせに「素直にうれしい。子供たちがこれまでのように本を自由に手にとって、読めることが大切」と話した。