福岡市職員が「免職疑似体験」 飲酒運転撲滅へ模索続く [福岡県]
「本当にすまない」
「あなたのせいで近所を歩けない。家のローンも残っているのに」
「ネットで名前が出て、学校にも行けない。お母さんの旧姓になりたいから離婚して」
もし飲酒運転で摘発、免職されたら-。福岡市の東区役所で22、23の両日、計113人の職員が、飲酒運転した場合の社会的影響を「疑似体験」する研修に臨んだ。
3児死亡事故現場を抱える東区は、昨年度から4年間で全職員420人が受講する独自研修を実施中。今回の疑似体験は〈妻と子ども2人がいる48歳が、校区の運動会でビールを飲み、車を運転した〉-と仮定。運転した理由や処分後の状況をグループ別に話し合い、一部の職員が本人や家族を演じた。保険年金課の係長(57)は「同僚や家族にこんなに大きな影響を及ぼすとは。怖くなった」と神妙だった。
昨年度前半、飲酒絡みの不祥事が相次ぎ、4人を処分した福岡市。各区別の研修や啓発運動など、再発防止の取り組みは延べ約200件に上る。それでも今年3月、50代職員の飲酒運転事故が発覚。コンプライアンス推進課の角健太郎課長は「組織としてやれることはやる。それでも起きる不祥事には、厳罰で臨むしかない」と言い切る。
一方、福岡県は昨年9月、全国初の罰則付き飲酒運転撲滅条例を全面施行。撲滅を宣言する企業や飲食店を募り、1万件を超えた。事故被害者の遺族を講師として企業や自治体に派遣、約6千人が受講した。だが施行後半年間に摘発された477人中、条例で「努力義務」とされるアルコール依存症検査を受診したのは3人だけ。浸透しているとは言い難い。
04年に飲酒運転の車にはねられた長男=当時(31)=を失った福岡市西区の松原道明さん(66)は「取り組みや条例を飾りにしてはいけない。一人一人がもっと真剣に向き合わなければ」と話す。
=2013/08/26付 西日本新聞朝刊=