2013/8/6(火) 原爆忌、原子力政策への主張の違いが鮮明に
 原爆忌を、産経を除く各紙が取り上げていますが、各紙の論調から、原子力政策への主張の違いが浮き彫りになっています。
 8月6日(広島原爆投下)、9日(長崎原爆投下)については、原爆忌(げんばくき)、原爆の日、原爆記念日という呼び方があります。このうち、原爆記念日については、「原爆を記念」するようで抵抗があります(広島平和記念式典 広島平和記念資料館は平和への願いを忘れないという意味です)。一方、「忌」はもともと仏教用語で、「死者の命日」という意味があり、原爆忌には被爆者の霊を弔うという意味もこめられているのでしょうか。特定の宗教から中立であるという意味では、原爆の日が妥当ということになるでしょう。ただ、原爆忌が季語として定着していることもあり、また、「核兵器は忌まわしいもの」という意味と解すれば、さほどの抵抗はありません。
 朝日は、「核兵器と原発は長年、切り離して扱われることが多かった。それは正しかったのだろうか」と疑問を提起し、アイゼンハワー米大統領の「平和のための原子力」演説をきっかけに原発利用が拡大したが、核拡散には歯止めがかからず、一方で、途上国の原発が「核兵器用の高濃縮ウランやプルトニウムを入手する隠れみのになりかねない」という事実があることを指摘しています。さらに、日本の原発輸出が、「核拡散だけでなく被曝(ひばく)・環境汚染のリスク、放射性廃棄物問題の輸出になりかねない」、「日本の余剰プルトニウム保有への世界の厳しい目に対しても、自覚が足りない」と安倍政権の原子力政策を批判しています。
 読売は、「北朝鮮が実戦配備中の中距離弾道ミサイル「ノドン」は、日本のほぼ全域を射程に収める。核弾頭が完成すれば日本が先制核攻撃の標的となる確率は小さくない」と北朝鮮の脅威を強調し、「広島、長崎の惨状を訴える一方で、周囲の核脅威には米国の核で安全を担保する。それが、被爆国であり、非核保有国としての日本が取り得る現実的選択である」と結んでいます。
 毎日は、「核兵器がいかなる状況下でも二度と使われないことが人類生存のためになる」とした共同声明に政府が賛同しなかったことを、長崎市の平和宣言が被爆国として矛盾する行為だと指摘することを紹介し、「安倍政権はこうした声を受け止め、被爆国としての明瞭なメッセージを世界に発信してほしい」(当たり障りのない?提言で)と結んでいます。
 日経は、オバマ氏の被爆地訪問を実現するために、「日本が被害者としての立場を強調しすぎないことだ」「加害者と被害者が恩讐(おんしゅう)を超えて手を携えることで、世界に核時代の終わりを印象付けることができる」と(あまり内容のない?)提案をしています。

 東電が汚染水の海洋流出問題を、毎日、日経(いずれも7月24日付け)、読売(7月27日付け)、朝日(7月29日付け)に続いて、産経が取り上げています。
 産経は、「建屋の手前に井戸を掘り、山側からの地下水が建屋に入って汚染水となる前に、バイパスさせて海に流」す計画が、「漁業関係者から風評被害を懸念する声が上がったため」中断していることを指摘し、「そうして足踏みしているうちに今回、海への汚染水流出が確認されるに至った」と、漁業関係者の反対が汚染水流出を招いたように暗示しています。さらに「処理で基準濃度以下となった汚染水の海洋放出は、第1原発の現実に照らして不可避である」と訴えています。
●平和市長会議総会が閉幕=「ヒロシマアピール」採択−広島
●平和市長会議総会が閉幕=「ヒロシマアピール」採択−広島 
 広島市で開かれている「平和市長会議」(157カ国・地域の5712都市が加盟)第8回総会は5日、2020年までの核兵器廃絶に向けた決意を示す「ヒロシマアピール」を採択し、閉幕した。加盟都市の首長らは6日の平和記念式典に参列し、全日程が終了する。次回の総会は4年後、長崎市で開催する。
 3日から始まった総会には、18カ国の157都市などから305人が参加。地域ごとの会議開催など今後4年間の行動計画や、運営方法の充実策を決定した。(2013/08/05-19:04)

【朝日 】
広島・長崎と福島/凶暴な原子の力、直視を
 核兵器と原発は長年、切り離して扱われることが多かった。それは正しかったのだろうか。
 核兵器の非人道性に焦点を当てて禁止につなげよう——。今年4月、ジュネーブで開かれた核不拡散条約(NPT)準備委員会に提出された「核兵器の人道的影響に関する共同声明」は、外交交渉での原点回帰の動きを示すものだ。
 原子力にはそもそも核兵器への悪用、つまり核拡散のリスクがある。
 60年前、アイゼンハワー米大統領が国連総会で「平和のための原子力」演説をしたことが原発利用拡大のきっかけとなった。大統領は核物質と核技術の国際管理を提案し、軍事から民生利用への転換を促した。
 演説のあと、国際原子力機関(IAEA)とNPTが生まれた。しかし、国際管理は実現せず、拡散が進んだ。米ロ英仏中に加え、インドとパキスタン、北朝鮮が核実験。イスラエルも核保有が確実視され、イランの開発疑惑も続いている。
 今後、途上国での原発急増が予想されるが、核兵器用の高濃縮ウランやプルトニウムを入手する隠れみのになりかねない。
 日本政府は米国の「核の傘」への影響を考慮して「共同声明」には賛同しなかった。将来の賛同には含みを残した。
 だが、核の非人道性を確認するだけでなく、核リスク脱却と逆行する原子力政策の転換にもっと力をこめる必要がある。
 安倍政権は原発輸出に前のめりだが、核拡散だけでなく被曝(ひばく)・環境汚染のリスク、放射性廃棄物問題の輸出になりかねない。NPTに背を向けるインドと原子力協定を結べば、NPT空洞化を進めることになる。
 日本の余剰プルトニウム保有への世界の厳しい目に対しても、自覚が足りない。安倍政権は明確な削減計画を示さないまま、使用済み燃料からプルトニウムを取り出す事業の継続を表明している。倒錯した政策は一刻も早く放棄すべきだ。
 むしろ、リスクを増幅するような甘い核拡散防止体制の改革を主導することこそ、世界が日本に期待するところだろう。

【読売1】
原爆忌/一段と高まる核兵器の脅威
 米露英仏中の5か国以外の核保有を禁止した核拡散防止条約(NPT)体制に、ほころびが目立つようになって久しい。
 特に懸念されるのは、核保有の既成事実化を図る北朝鮮の動向だ。昨年12月の長距離弾道ミサイル発射に続き、今年2月には3回目の核実験を強行した。米本土に届くミサイルと、搭載可能な小型核弾頭の開発を急いでいる。
 北朝鮮が実戦配備中の中距離弾道ミサイル「ノドン」は、日本のほぼ全域を射程に収める。核弾頭が完成すれば日本が先制核攻撃の標的となる確率は小さくない。
 自民党などで、自衛のために相手国のミサイル基地などを攻撃する「敵基地攻撃能力」を保持すべきだという議論が起きているのはそのためである。
 日本の安全保障政策の根幹にある米国の「核の傘」の重要性も高まっていると言えよう。
 広島、長崎の惨状を訴える一方で、周囲の核脅威には米国の核で安全を担保する。それが、被爆国であり、非核保有国としての日本が取り得る現実的選択である。

【読売2】 警察白書/犯罪抑止は迅速な対応から news
【毎日1】 社会保障3党協議/大人げない民主の離脱 news
【毎日2】
原爆の日/人類の教訓語り継ごう
 日本政府の姿勢は消極的だ。4月にジュネーブで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会で「核兵器がいかなる状況下でも二度と使われないことが人類生存のためになる」とした共同声明に80カ国が賛同したが、日本は「いかなる状況下でも」という文言の削除を求めて賛同しなかった。
 長崎市の平和祈念式典で読み上げられる平和宣言は、政府が共同声明に賛同しなかったことは被爆国として矛盾する行為だと指摘する。広島市の平和宣言は、政府が核兵器廃絶を目指す国々と連携を強化するよう求める。安倍政権はこうした声を受け止め、被爆国としての明瞭なメッセージを世界に発信してほしい。

【日経1】 この報告で医療・年金の立て直しは可能か news
【日経2】
原爆の記憶を風化させるな
 2010年にロシアと新しい戦略兵器削減条約(新 START)を締結したオバマ米大統領は今年、さらなる核軍縮を提唱した。だが、米ロ関係の悪化などで交渉は進んでいない。中国も核兵器の削減には後ろ向きだ。
 どうすれば事態を打開できるのだろうか。核大国・米国の現職首脳が被爆地を訪れたことはない。オバマ氏が来年の訪日時に足を運べば、世界中に核軍縮への期待感を再び呼び起こすことができるのではないだろうか。
 そのためには日本が被害者としての立場を強調しすぎないことだ。これは被爆体験を語り継ぐことと矛盾しない。加害者と被害者が恩讐(おんしゅう)を超えて手を携えることで、世界に核時代の終わりを印象付けることができる。

【産経1】 集団的自衛権/「行使」へ与党内調整急げ
【産経2】
原発汚染水/政府が前面に出て説明を
 政府はいつまで傍観を続けるつもりなのか。
 東京電力福島第1原子力発電所の放射能汚染水の問題だ。量は運転時の放出基準内だが、敷地から海への漏れが確認される事態となっている。
 東電は第1原発の敷地内にタンク群を設置して回収した汚染水を貯蔵することで対応しているが、タンクの増設にも限度がある。汚染水の増加を抑えるための抜本策が必要だ。
 その有力手段の一つとして期待できるのが、地下水のくみ上げだ。建屋の手前に井戸を掘り、山側からの地下水が建屋に入って汚染水となる前に、バイパスさせて海に流せば汚染水の増加にブレーキがかかるはずである。
 東電の見積もりでは、1日当たりの流入量を300トンまで減らせそうだ。くみ上げ井戸は4月中に12本が完成しているが、バイパス用には使われていない。
 汚染前の地下水であるにもかかわらず、漁業関係者から風評被害を懸念する声が上がったためだ。5月中旬のことだった。
 そうして足踏みしているうちに今回、海への汚染水流出が確認されるに至った。後手に回った感がある。漁民が不安を感じた段階で、政府が前面に出てバイパス計画の安全性と必要性について、しっかり説明すべきだった。
 原子力規制委員会の動きも鈍い。処理で基準濃度以下となった汚染水の海洋放出は、第1原発の現実に照らして不可避である。国内外への説明に急いで取り組まなければ間に合わない。