銀行を舞台にしたドラマ「半沢直樹」が絶好調だ。決めゼリフ「倍返しだ!」のほか、社内外の権力に痛めつけられるサラリーマンの悲哀を生々しく描いた点がウケているという。銀行とはドラマで描かれたほど理不尽な組織なのか。内部を知る人物の証言から、実像に迫った。
本紙で「経済快説」(水曜掲載)を連載中の経済評論家、山崎元氏はかつて銀行に籍を置いていた。「半沢直樹」が好評な理由を「サラリーマンのバカバカしさ、理不尽さが銀行という舞台で際立っている」と解説する。
「敵(かたき)役と主人公との葛藤は、サラリーマンなら誰しも身に覚えがあること。その様子が、銀行という組織でうまく表現されている。銀行は内部の締め付けが強く、人事が何より大切な、世間と乖離した組織。人事部の権限が絶大で、実際の銀行員は半沢直樹のように上司に逆らえないが」
現実の世界で半沢のように刃向かう態度は禁物のようだ。ある大手銀行OBは「極めてリアルなドラマだと思う。半沢直樹のような人物は実在しない、という1点を除いて」と感想を述べた。その上で「やられたら倍返し、を地でいけば必ず干される。どんな理不尽な場面でも“韓信の股くぐり”でやり過ごすのが行内で勝ち残る唯一の道」と明かす。
原作小説「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」(いずれも文春文庫)など、作家・池井戸潤氏の作品では再三、「銀行は晴れの日に傘を差し出し、雨の日に傘を取り上げるもの」と強調されている。実際のところ、どうなのか。現役のメガバンク行員が「似たような経験はある」と語った。
「2005年前後、中小企業の経営者を中心に為替デリバティブ商品をかなり売った。1ドル=120円の時代に同100円程度でドルが調達できるので、経営者側にうま味もあった。ところがリーマン・ショック後に円高で80円台に高騰しても、100円前後の固定した相場でドルを買い続けなければならない。泣きつかれても契約は契約。これが足かせとなって倒産した中小企業をいくつも見た。気の毒だが、実績を上げるには冷徹になるしかない」