小学生の教材に登場
中沢さんの故郷、広島市でも新たな取り組みが始まった。平和教育の教材に、家族と支え合う被爆前の暮らしや原爆で引き裂かれる場面が使われ、ゲンと同世代の小学3年生が学んでいる。
「ゲンの気持ちになってみて」。市中心部の市立基町小学校。担任の平石範之教諭(49)が20人の児童に呼び掛ける。原爆で家の下敷きになった父親が、迫り来る火事にゲンを巻き込ませまいと、「逃げろ。生きるんだ」と叫ぶ場面。「助けたい。死なないで」「もう戦争はなくなってほしい」と手が挙がる。
「ゲンを読むと、子供は当時の世界に引き込まれる」と二宮孝司校長(50)は言う。原爆や戦争が身近に感じられなくなってきた今、ゲンに託す思いは強い。校舎の踊り場にも単行本が並び、「こんなにいい“教材”はない」。
妻ミサヨさん(70)によると、教材への掲載を打診された中沢さんは「子供に読んでもらうことが一番うれしい」と喜んだという。コケがつくまで読み継がれたい-。中沢さんの願いは、世界で、広島で、着実に受け継がれている。(SANKEI EXPRESS)