<地方在住者の憂鬱(2)>

2009・12・24

 地方在住者の憂鬱(1)に引き続き、さらに地方には不利な点があります。今から紹介するものが、もっとも致命的でしょう。


<中央のイベントへの参加>
 そして、これが最も深刻な格差だと思います。とにかく、地方にいると東京でのイベントに参加することが非常に難しくなります。

 この場合、イベントといっても多種多様であり、その大半が東京で開かれることで、東京から離れれば離れるほど、参加するのに時間と経費がかかり、参加することへの困難度は加速度的に増加していきます。逆に、東京近辺に在住していれば、時間的にも金銭的にも、毎回相当気軽に参加することができるのだから、その差は驚くほど大きい。

 例えば、マンガ家のサイン会、声優のコンサートなどのイベントはどうか。これがほとんど東京で行われるのですね。東京以外であるとすれば関西(大阪)ですが、これも東京と比べれば雲泥の差があります。増してそれ以外の地方となると、ほとんど開催されないと見てよいでしょう。
 そういえば、以前・・・といっても5年以上前でしょうか。わたしの家の近くにある広島のアニメイトやとらのあなでも、年に1、2回くらいはマンガ家や声優のサイン会が会ったような気がします。しかし、ここ数年は、まったく開催の話を聞かなくなりました。どうも、今ではこの手のイベントは東京に集中してやることに方針が定まっているようです。地方ではゲストを呼ぶのが難しかったり、あるいは人が集まらなかったりと、開催が難しいのでしょうか。

 サイン会にしろコンサートにしろ、地方在住者がまったく参加できないというわけではありません。費用と準備をしっかりすれば、いくつかは参加は可能でしょう。しかし、参加できる数は相当限られるでしょうし、毎週どこかで開かれるイベントに、気が向けばそれこそ毎週のように参加できる都市在住者とは、その敷居の高さがまるで違います。わたしも最近一回だけサイン会参加のために日帰りで遠征しましたが、日程的にも費用的にもまとまったものが必要で、そう何度も出来るものではないと痛感しました。そしてもうひとつ、サイン会の場合、そもそもサイン会の予約受付が難しいという点も見逃せません。電話予約ならばまだいいのですが、店頭での予約の場合、地方在住ではまさに絶望的です。

 次に、イベントと言えばコミケを始めとする同人誌即売会(同人イベント)があります。小さな同人イベントならば、地方都市でも定期的に開かれていますが、コミケのような大規模なもの、そしてマイナー作品やマイナーキャラのオンリーイベントなどは、中央の東京で開催されることがほとんどであり、こちらも地方在住者は厳しい。これに関しては、ある意味サイン会やコンサート以上に格差が深刻なところがあり、東京近辺に住んでいれば、毎週どこかで開催される小規模なイベントに、本当に気軽に赴くことができるのに対して、地方からそんな小規模なイベントにわざわざ出向くことは本当に難しい。そして、もちろんコミケのような大規模イベントでもそうです。こちらは、イベントを厳選してきっちりと行く準備すれば可能度は高いかもしれませんが、それにしても中央まで赴くのは、やはり費用や日程の点でひどく厳しいことに変わりありません。実際のところ、「コミケには試しに一度くらいは行ってみたいが、実際には東京まで出向くことは到底無理」という人が、非常に多いのではないでしょうか。

 あるいは、ネット上で頻繁に開催を目にするオフ会についてもそうです。ほとんどのオフ会は、やはり人が集まりやすい東京に集中して開催されます。これも、地方からわざわざオフ会のためだけに出向くのは、相当に厳しいと言わざるを得ないでしょう。なにか同時にイベントに赴くついでにオフ会に参加、というのがせいぜいできる範囲で、それすら出来ない人が非常に多いのではないか。わたしの場合、マンガ関連のオフや会合にほとんど参加できない上に、それ以外、例えば今はまっている麻雀関連、天鳳(オンライン麻雀)や「咲 -saki-」ファンのオフ会などにも参加することが出来ず、ネット上で指をくわえて見ていることしか出来ません。mixiなどで頻繁に開催が告知されているオフ会、そのほとんどに参加することが出来ないのです。これも、東京近辺に在住していれば相当気軽に参加可能なはずです。

 それ以外に、イベントではなく、どこかの有名な「街」や「店」に行くことが難しいのも、同じような悩みを味わいます。秋葉原や池袋、そこにあるあまたのコミック専門店やゲームセンター、そういった箇所に行くことができず、ネット上でその様子を眺めることしかできないのです。


<インターネット>
 そして、極めつけに、それらの格差を決定的なものにしているものがあります。インターネットです。

 「ちょっとまて。インターネットによって地方でも中央の情報が手に入りやすくなり、アニメの配信なども行われるようになり、地方格差は縮まったのではないか。」 そう考える方もいるかもしれません。確かに、そういった点では、ネットによって地方格差は幾分小さくなったと言えるでしょう。しかし、それとは別の理由で、逆に格差が増大したとしか思えないところがあるのです。

 それは、ずばり、ネットで手に入る情報です。確かにネットによって中央の情報は手に入りやすくなりました。東京に住んでいる人の生の声をブログや掲示板、Twitterなどで目にすることができ、あるいはそんな方と交流を持ったりして、東京のリアルタイムの雰囲気を身近に感じることができるのは、確かにありがたいことではあります。

 しかし、そんな風にいくら情報を手に入れたところで、自分は参加できないことに変わりありません。サイン会やコンサートに行った。同人イベントに参加した。オフ会に行ってみた。秋葉原や池袋に行っていろんな店で買い物した。そんな風な情報はいくらでも入ってくるのですが、自分も同じことができるわけではありません。むしろ、自分が参加できないことで、逆に指をくわえてみていることしかできないという寂しさを味わうことになります。

 これは、もうここまでの記事で散々書いていることでもあります。人がTVアニメの放映を見て掲示板やブログに書き込むのを見ても、自分はその話題にはついていけない。人が雑誌を発売日に買って読んで感想を書いているのを見ても、その話題にもついていけない。人がイベントに参加しているのを見ても、自分は決して参加することが出来ない。秋葉原や池袋に自分が行くこともできない。
 この場合、むしろそんな情報は手に入らない方がいいとすら言えます。最初からそういった情報を目にしなければ、格差を実感することはない。地方では地方で、見られる範囲・手に入る範囲でそれなりにアニメやマンガを楽しんでいけるでしょう。しかし、一旦中央での盛況ぶりをインターネットで目の当たりにすると、自分の置かれているとてつもなく不利な状況を、実感せずにはいられないのです。

 ネットが普及して以来、PCでのインターネットの接続率は、首都圏(南関東)だけが突出しているそうです。逆に地方ではどこも接続率は低く、あるいは第二の都市圏である近畿地方でさえ、首都圏に比べると接続率はかなり低い。なぜそんな現象が起きるのかわたしなりにいろいろ考えたのですが、やはりネットでは東京の情報・話題が多いからではないかと考えました。例えば、アキバ情報を流すサイト(アキバブログなど)は、東京で秋葉原に行ける人こそが、それを本当に楽しむことができます。秋葉原に行くことの出来ない東京よりはるかに遠方の在住者では、その楽しさは大きく半減してしまうでしょう。実際に行って体感することができないわけで、ただ見ていることしかできないわけです。そんな風に東京の情報ばかりに偏重した結果、それがネットの接続率に露骨に影響し、首都圏の接続率(ネット利用者)が突出してしまったのではないかと考えました。

 わたし自身が長くネットを続けた経験から見ても、確かにネットでは首都圏に住んでいる人に本当に良く出会うなと感じます。単に首都圏の人口が突出しているだけかもしれませんが、それにしてもちょっと多すぎる。現実の人口比率以上に、首都圏在住者の比率がネットでは高いと感じる。そして、そういうシーンに出くわすたびに、自分がそこから外れて東京でのリアルな話題についていけない地方の人間であると痛感し、憂鬱な気分に陥ることがあるのです。


<まとめ>
 以上のように、アニメ・マンガにおいて、地方在住者、より具体的には東京近郊在住者以外が、いかに厳しい状況に置かれているか、それがよくわかると思います。特に、都市圏でない本当の意味での地方においては、アニメはほとんど見られず、雑誌は手に入りづらく発売日も遅れ、中央でのイベントへの参加はほとんど無理と、あらゆる意味で不利な状況に立たされていることは、もう疑いようがありません。

 そして、インターネットによって、その不利な状況を実感させられることになり、これで格差が絶対的なものになった感があります。これまでも、マスコミによる東京集中報道によって、地方在住者の心が傷つけられてきたという話を目にしてきたのですが、それがマンガやアニメの世界においては、インターネットでまったく同じことが起こっていると見てよいでしょう。マスコミが東京中心の情報を当たり前のように流すのと同じように、ネットでは秋葉原の情報を当たり前に流しているのです。

 東京偏重報道についてさなメモ
 地方文化を壊したもの

 これも、東京一極集中の巻き起こす現象のひとつだと思います。昔、「地方が生き残るには東京の街をパクれ。そうしないと人が集まらない」「今の地方で人が集まるのは食い物と映画のロケ地だけ」と言われて激怒したことがあるのですが、これがマンガやアニメというジャンルにおいては、それ以上に状況は深刻なのかもしれません。放映されるべきテレビ番組が放映されない、書店が少なく雑誌も中々手に入らないし発売日も遅れる、盛り上がるイベントや場所もないとなると、地方における文化の衰退ぶりは、あまりにも深刻なのではないでしょうか。マンガやアニメという、日本の現代文化を代表するコンテンツにおける地方の大きな衰退。それは想像以上に重いのではないかと思うのです。


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