【球界のタブー】オリンピックに出せない
長嶋監督悩ます「在日」プロ野球選手問題
■「選びたくても選べない選手」
■ドリームチームはできない
■パ・リーグ有名選手は帰化

 日本プロ球界最大のタブーは、「在日」選手である。運動能力が高く、優秀な在日選手なしでは、どのチームもチームづくりがなりたたないが、これまでそれを公表する選手はごくわずかだった。五輪野球・長嶋監督は「日本のトップ選手を集める」と言うが、そうなると、在日問題は避けて通れない。


「選びたくても選べない選手」
 10月からはじまる、アテネ五輪・野球競技アジア地区予選(札幌)の、メンバー選びが目前に迫っている。
 日本代表・長嶋茂雄監督は、今年2月、
「6月には、みなさんにメンバーをお話しできると思います。ドリームチームをつくりたいですね」
 と明言した。開幕したプロ野球のペナントレースを見て各選手の状態をチェックし、可能ならばメジャーで活躍する選手も入れて、ホンモノの「オール・ジャパン」をつくりたいのが長嶋監督の意向だ。
「今回の予選は実質的に、中国、韓国、台湾、日本の4ヵ国の争いになると見られている。リーグ戦を行い、2位以内にならないと五輪出場権が得られない。中国は少し力が落ちるが、韓国、台湾と日本はほとんど同レベル。ヘタすると2位以内に入れず、長嶋監督が赤っ恥をかくことになってしまう。だから、長嶋監督は少しでもいい選手を集めようと必死ですよ」(日本野球連盟関係者)
 巨人軍・渡辺恒雄オーナーが「宗旨替え」したことで、プロ野球側も五輪野球に協力する態勢を整えている。オーナー会議で、各チーム二人まで主力選手を出すことが合意された。長嶋監督はそれに飽きたらず、メジャーで活躍する松井秀喜、イチロー、石井一久らまで呼びたい考えだという。ヤクルトの古田敦也も、「コーチ兼任で出場したい」と話している。
 長嶋構想通りのメンバーなら、凄いチームになることは間違いない。
1番 ライト  イチロー
2番 ショート 松井稼頭央
3番 レフト  鈴木尚典
4番 センター 松井秀喜
5番 サード  中村紀洋
6番 ファースト 小笠原道大
7番 セカンド 今岡誠
8番 キャッチャー 古田敦也
9番 ピッチャー 松坂大輔
 古田、松坂の故障など気になる要素はあるが、10月にはじゅうぶん間に合う。長嶋監督ならずとも人選が楽しくて仕方がないだろう。
 ところが、その長嶋監督が最近、周辺に苦渋を漏らしているというのである。長嶋監督に近い、ある関係者がこう話す。
「ミスターが、困ったなあと言うんですよ。選びたくても、選べない選手がいる。本来なら、実力だけを選考基準にホンモノのドリームチームをつくりたいんだけど、そうもいかない問題があるんです」
 問題は、ふたつある。ひとつは、球界のタブーとされてきた国籍問題。もうひとつは後述するが、ドーピングである。

パ・リーグ有名選手は帰化
 日本のプロ野球は日本国籍のない選手でも、5年間以上日本に居住し、3年以上日本の学校に通学していれば、日本のドラフトで入団できる。台湾国籍だった大豊(元中日、阪神)は名古屋商大に4年間留学し、その後中日の練習生を経てドラフトされたため、外国人選手ワクを外れてプレーすることができた(その後、日本に帰化)。
 日本球界には多くの在日韓国・朝鮮籍選手がいる。彼らは帰化して日本国籍を取得しているケースと、韓国・朝鮮籍のままのケースがある。問題になるのは韓国・朝鮮籍のままのケースである。五輪は国籍主義を貫いているため、韓国・朝鮮籍の選手が日本代表として出場することは認められていないのだ。
 かつて早実高時代の王貞治選手(現ダイエー監督)が、台湾国籍だったことから国体に出場できなかったが、五輪でも同様の問題がある。日本生まれ、日本育ちでも国籍が韓国・朝鮮であれば、日本代表として出場できず、韓国・北朝鮮の代表を目指すしかない。'00年のシドニー五輪では、在日選手がサッカー、柔道などで韓国・北朝鮮の五輪代表一歩手前まで迫ったことがあった。
 プロ野球界では、選手の国籍が話題になることはあまりないが、実際には各球団にかなりの数の在日選手がいるという。
「毎年12月に、『朝鮮日報』が『今年活躍した同胞』という記事を書いているが、そこにたくさんのプロ野球選手の名前が出てくる。元甲子園のヒーローや、セ・リーグ人気球団の中心選手、パ・リーグの名物選手などの名前が挙がっていました」(スポーツ紙デスク)
 かつては金田正一、張本勲、新浦壽夫など在日の名選手が数多くいた。元広島の名投手・福士敬章は韓国プロ野球に移り、「張明夫」という名前で活躍した。元近鉄の石山一秀も、宋一秀として韓国で現役をつづけた。
 最近では近鉄、中日、西武に在籍した金村義明(金義明)が『在日魂』という本を書いて自らの体験談を明かしている。これらの選手は出自をオープンにしているが、現役選手のなかにはオープンにしていない選手もいる。この国が在日韓国・朝鮮人に対し、差別し続けてきたという事情が、その背景にある。
 当然、日本のトップ選手を集めた代表チームにも、かなりの数の在日選手が入る可能性が高い。
 実はこれまでにも、五輪野球をめぐっていくつかの「事件」が起こっている。
「以前、パ・リーグのある有名選手が帰化しましたが、この選手は五輪出場を希望しています。帰化した理由のひとつは、日本代表として五輪に出場するためでしょう。
 また、シドニー五輪代表にリストアップされていたある選手は、最終選考直前に野球連盟から国籍について問い合わせを受け、すったもんだの末、ようやく五輪代表入りが実現したと聞いています」(スポーツ紙記者)
 今回の五輪代表にはリストアップされていないが、超大物選手が、ある時期、真剣に在日であることをカミングアウト(公表)しようと悩みに悩んでいたという。
「数年前、もう自ら公表しようと決断した直後に移籍話が持ち上がり、公表を断念したようですが、この選手が在日であることは同胞の間では周知の事実です」(韓国人ジャーナリスト)



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