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もうひとつの作品『ファンタジー世界に飛ばされました』もよろしくお願いします。
第四話 魔族のお姫様
「何をしていたのかと聞いている」
現れた女の子は響と同じくらいの年齢だろう。
しかも良いところのお嬢さんのようだ。
見るからに上等な仕立ての服を着ている。
「こっこれはセレーネ様。ご機嫌麗しゅう」
「バデラか。挨拶はいい、わたしの質問に答えろ」
セレーネと呼ばれた彼女は腕を組んでバデラに問い掛ける。
「はっ。実はこの人族が恐れ多くも騎士養成学園の試験に参加すると言うのです」
「ほう、それで?」
「私たち四人は親切心から、ケガをする前に帰るように言っていたのです」
どこが親切心だよ。
心の中で響はツッコミを入れた。
「バデラ、お前は親切で武器を突きつけるのか? わたしには脅しているようにしか見えないが」
「そ、それは」
「それに参加は個人の自由だ。お前がとやかく言うことでもあるまい」
「ウグッ」
セレーネさんはバデラを完全に言い負かした。
勝ち気そうな性格のようだな。
(というか・・・あれ? セレーネってどこかで聞いたことがあるような)
「おい、そこの人族」
「は、はいっ!?」
考え事をしていたら突然セレーネさんが話しかけてきた。
「お前は参加するつもりなのだな」
「はい! そのつもりです!」
「こいつらの言うとおり、ケガをするかもしれないぞ。いや、お前は人族だから間違いなくケガをするだろう。それでもか?」
「学園に通えるならば多少のケガは覚悟は出来てます! それに今回で四回目なので慣れています!」
セレーネさんの若干上から目線の言葉に、響は直立不動になりつつキビキビと答える。
まるで軍隊の教官と訓練生のようだ。
「は、笑わせるな人族。今回で四回目だと? それでは貴様は一~三回目で合格出来なかった落ちこぼ『黙れバデラ』・・・」
鼻で笑ったバデラとそれに続こうとした子分三人は、セレーネから発せられるあまりの威圧感に額に汗を浮かべ押し黙る。
(なんて威圧だ)
自分に向けられたわけでもないのに肌で感じることが出来る。
『逆らってはいけない』と本能が警鐘を鳴らす。
「おい人族・・・名前は何という?」
「は?」
唐突に聞かれたため気の抜けた返事が出た。
「お前の名前だ。まさか名無しの権兵衛ではあるまい」
「俺、うぅん! 私は天ヶ原響と言います」
バデラ達の様子を見るに、セレーネさんはかなり身分が高いようなので、一人称を変えて自己紹介する。
・・・・・・名無しの権兵衛って魔族にもあるんだ。
どうでも良いけどな。
「アマガハラ・ヒビキか。その名前覚えておくぞ。試験は受けるがいい。わたしが許可する。」
「はぁ? ありがとうございます」
「うむ。ではな」
満足そうに頷くと颯爽と長い髪を揺らしつつ去っていくセレーネさん。
彼女が去ったのを見計らって、周囲の人達も徐々に戻ってくる。
いったい彼女は何だったのだろう、と思っているとバデラ達四人がこちらを睨み付けてくる。
「いいか下等種族! セレーネ様がお許しになられたから今回は特別に見逃してやる。だが今回のようなことは二度と起きないぞ! 魔王の娘に守られるなどな!」
そう言い残すとバデラ達は去っていった。
会場の中に入らなかったところを見ると、あいつらは参加者ではなかったみたいだな。
――――――というか、なんて言った?
『二度と起きないぞ! 魔王の娘に守られるなどな!』
『魔王の娘』
・・・・・・・・・・・・・・・!?
「あー!? セレーネって、魔界のお姫様の名前じゃん!?」
魔王、イーゼ・ヴェルズ。
現魔界の統治者であり、最強の魔族。
その娘、セレーネ・ヴェルズとの最初の出会いだった。
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