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第三話 歴史の始まり
 

 
 講習会場に入った響は手慣れた様子で会場内を歩く。


 「まずは記帳、記帳っと」


 記帳は出席確認のために行われている。
 参加申請自体は事前に行われるが、当日何の連絡もなしに来ない者も少なからずいる。
 そうなると講習後にある試験に影響が出るため記帳は重要だ。


 「え~と・・・あれ? いつもの場所にないぞ」


 前回まではロビーの一番奥に長机が置かれ、そこで記帳していたのだが・・・・・・。


 「困ったな~。しかたない、職員を捜すか」


 周りに大勢いる参加者に尋ねても無駄だと分かっているので、素直に職員を捜して尋ねることにする。


 「どこにいるかな~っと」


 他の参加者にぶつからないように注意しながらキョロキョロと見渡す。
 程なくして職員の制服を着ている女性を見つけた。
 響は迷うことなく女性の元へと歩いて行く。


 「あの~すみません」
 「はい! ・・・・・・どうしましたか?」

 元気よく返事をして振り返ってくれたが、向き合ったらトーンが落ちた。

 「いやぁ、記帳する場所が見つからなくて。ロビーは全部見たはずなんですが、どこにあるんでしょうか?」
 「記帳は会場の外で行っています。入口を出て右手です」
 「あ、そうですか。どうもありがとうございました」
 「仕事ですので」


 最後にそう言って立ち去っていく女性職員。
 素っ気ない返事しか無かったが久しぶりに長く会話した。


 ちょっと嬉しくなった。


 ふと視線を先ほどの女性職員の方へ向けると・・・・・・そこには笑顔と身振り手振りでリアクションを取りながら、楽しそうに他の参加者と話している彼女がいた。


 「・・・・・・はぁ」


 やっぱり自分の時には意図的に素っ気ない返事をしてたんですね。
 人族の嫌われっぷりを嫌な形で再実感した。


 「記帳、行くか」


 上げて落とすとはこのことか。
 トボトボ会場から出て記帳しに行く。


 「うわ、結構いるな」


 職員に言われて通り会場を出て右手に進んでいくと、記帳するための列が出来ていた。
 割り込みなどのいざこざがないように、男性職員が数名で列の誘導整理をしている。


 「俺も並ばないと。え~と、あっちか」


 人界の人気ラーメン店の行列にも引けを取らない列の最後尾に並ぶ。
 響の後ろにもすぐに他の参加者が並び、あっというまに列は長くなっていく。


 「でも妙だな? 今までも参加したけど、こんなに沢山いた事なんて今まで無かったのに」
 「おい! そのこの人族!」
 「うん?」


 参加者の多さに不思議に思っていると、誰かに声をかけられた。
 こんな場所にいる人族なんて俺くらいのものだから十中八九間違いないだろう。


 「はい? 何でしょ?」


 声がした方を見ると、四人の魔族がいた。
 他の男を子分のように後ろに引き連れ、一番前にいる紫の長いコートを着ている男が話しかけてきたようだ。
 全員腰や背中に剣や槍や斧を携えている。


 「貴様! その口の利き方は何だ! 人族の分際で!」
 『そうだぞ!』
 『生意気だぞっ』
 『礼儀を知らないのか!』
 「・・・(またか)」


 響は心のなかで溜息をついた。
 人族だからと言うことで響かよく絡まれる。
 今回もそういったことだろう。


 「(面倒くさいから適当にあしらうか)すみませんでした。何かご用ですか?」
 「ふんっ。最初から敬語を使えばいいものを、言われないと出来ないのか下等種族が」
 『仕方ないですよバデラさん。こいは人族なんですから』
 『そうですよ。所詮人族ですから』
 『期待するだけ無駄ですよ』 


 バデラと呼ばれた男は、かなり大きな声で喋っているので周りにも聞こえているはずだが、他の参加者も職員も見て見ぬ振りをしている。


 (これも慣れたもんだけどね)


 街中で絡まれても一度たりとて、周りの人が止めに入ってくれたことはなかった。
 人族はそれ程までに見放されているのだ。


 「まぁそうだな。下等種族に礼儀を求めるのも無駄か。おい貴様、列に並んでいるという事は貴様も参加するつもりか。生意気に剣などぶら下げて」
 「はい、そのつもりです」
 「ならば辞退しろ。貴様のようなものが参加して良いものではない」
 『そうだそうだ!』
 『やめろやめろ!』
 『帰れ帰れ!』


 どうでも良いが、子分の三人が鬱陶しい。


 「人族でもこの講習会は参加出来るはずでは?事前申し込みもちゃんと出来ましたよ?」
 「貴様はバカか。それでも下等種族ならば分をわきまえて参加しないものだろう。とっととこの場を去れ」
 『ほら、どっかいけよ!』
 『バデラさんの手を煩わせるなよ』
 『もし帰らないというなら・・・』


 そういうと子分三人が得物に手をかけた。
 列の前後にいた人達は距離を空け、いつの間にか円を描くようにその場には響達五人しかいなかった。
 職員もさすがにこの状態はまずいと思ったのか、こちらに来ようとしているが人垣が邪魔で身動き取れずにいる。


 (どうするかな)


 さすがに武器を突きつけられるのは初めてだ。
 響も単純な剣術なら多少腕に覚えがあるが・・・・・・。


 『なんだやるのか』
 『生意気な』
 『身の程を思い知らせてやる』


 子分三人の周りに魔力が集まる。
 バデラは参加せず高みの見物と言ったところか。


 (やはり魔力がやっかいだな)


 人族には魔力は扱えない。
 魔力を使う方法もあるが、それはこの講習会の後にある試験に合格しないと使えない。


 『どうした怖じ気つたか』
 『ふん、腰抜けが』
 『その剣は唯の飾りか?』


 いい加減子分三人に我慢ならない。
 口を開こうと思った、


 その時、―――――――


 「お前達。何を騒いでいる」


 女性の声が聞こえた。
 そんなに大きな声ではなかったはずなのに、その場に居合わせた者全員に届き皆その声がした方を見る。


 そこには、長い黒髪を淡い黄色のリボンで束ね、真っ赤な瞳でこちらを見ている綺麗な一人の女性魔族がいた。



 ――――――――――――ここから歴史は動き出す。


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第四話はただいま執筆中です。
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