なぜ武雄市立図書館はすごいのか――ツタヤ、スタバとのコラボ(上)
今、話題の武雄市立図書館に行ってきた。私はこれまで国内外、さまざまな施設を
見学してきたが、今回は参った。「市役所でもここまでできるのか」と圧倒された。長年、行政経営を提唱しながら、知らず知らずのうちに「役所の限界」を口にしていた自分が恥ずかしくなった。
それほどすごい。これはもはや革命だ。全国公共施設に与える影響は甚大だろう。今回は筆者の利用者体験を、次回は市長やスタッフにお聞きした成功の秘訣を紹介する。
●明るく、楽しい
館内に入ると、いきなりツタヤ書店とスターバックスが目に入る。ここは本当に公立図書館なのか。まるでショッピングモールの中のおしゃれなライブラリー&カフェみたいな光景で一瞬戸惑う。スタバではコーヒーや軽食を食べながら、(1)ツタヤが売る雑誌と、(2)図書館の本が自由に読める。オープンテラスでは子ども連れの女性たちが談笑。横ではビジネスマンの打ち合わせ。定期試験の準備だろうか、問題集を開く高校生もいる。明るい街のふつうのカフェの風景が、公立図書館の中で展開する。スタバのすぐ近くに図書館部分の開架棚がある。料理、旅行などニーズの高い本は手前に、利用頻度の低い専門書は奥に置いてある。
もともと、この建物はふつうの公立図書館だった。公立施設の常で事務室が広かった。それを奥に移し、いい場所を利用者向けに用途転換(開放)した。そうやって作り出した面積を市民の読書や打ち合わせのコーナー、そしてスタバに充てた。スタバはもちろん飲食、談笑オーケー。その横の読書室はおしゃべりだけオーケー。奥の読書室は静かに本を読むための部屋だが、入り口には「音のカーテン」がある。境界では一瞬、音楽が聞こえるが部屋に入ると消える。「おやっ」と思うがここは静粛にという意味なんだと一瞬にして悟る。かっこいい。すごい! かくして公立施設につきものの、あのさえない張り紙(〇〇禁止)がないので壁が美しい。
●スマート
利用者登録をすれば市外居住者でも本が借りられる。利用者カードはクレジットカードサイズのプラスチック製でかっこいい。ツタヤを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の「Tカード」を兼ねている。多くの人は自動貸し出し機で借りていく。手続きは本を置くだけでわずか数秒。機械で借りたらTポイントが3ポイントつく。本にはチップが貼ってあって、それを機械が光線で読み取るのだ。
借りた本はサービスカウンターで500円払えば着払い宅配でも返せる。着払い伝票付きの返送用バッグを貸してくれる。これはもう至れり尽くせりだ。さっそく筆者も利用者登録をして、動貸し出し機で九州の旅行や歴史の本を6冊借り、返送用バッグに入れて持ち帰った。本は帰りの飛行機で読み終わり、自宅に着く前にコンビニで返した。実にお手軽、親切だ。
(つづく)
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登録日:2013年 06月 10日 23:11:46
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- プロフィール
- 上山信一
- (男)
- 慶應大学総合政策学部教授。大阪市生まれ55歳。専門は企業・行政機関の経営戦略と組織改革。都市・地域再生も手がける。旧運輸省、マッキンゼー共同経営者等を経て現職。国交省政策評価会(座長)、大阪府と市の特別顧問、新潟市都市政策研究所長、愛知県政策顧問、日本公共政策学会理事、日本博物館協会評議員等、各種企業・行政機関の監査役、顧問、委員等を兼務。府立豊中高、京大法、米プリンストン大学修士。 ツイッター@ShinichiUeyama
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