60人もの死傷者を出した福知山花火大会の屋台爆発・炎上事故発生から、22日夜で丸一週間になる。事故発生直後の現場では「一秒でも早く病院へ」と消防、医療、警察などの関係者、観客、近隣住民たちが力を合わせた。大混乱した雑踏の中で、多数の要救助者が点在するという極めて異例な事態の中で、いくつもの機転が、約1時間という早期搬送につながった。それでも助からなかった命がある。それほどに大きく、痛ましい事故だった。
■救えなかった命に悔しさ■
250人以上の死傷者を出した01年の明石花火大会歩道橋事故を教訓に、福知山市消防本部は、花火大会など特に大きなイベントが市内で開催される際に、入念な警備計画を作っている。
今回は、会場と周辺のほか、消防署内も普段より増員し、消防職員と消防団員合わせて126人態勢を組んだ。
多数の傷病者発生時に備えて、現地警備本部に救急救命士8人を重点配置し、市の大型バス2台を消防職員が運用できる状態で借り受けて、会場から1キロ以内の市役所玄関前に待機させた。
■救急救命士が大きな力に■
身動きできない重傷者1人を発見した福知山消防署警防課の高橋秀樹参事は迷った。広小路通り東詰めに、搬送や治療の優先順位を決めるためのトリアージポストを立ち上げていたが「今この人を動かしていいのか。(混雑する)ここまで救急車を入れるべきか」。そう悩む間もなく負傷者増加の情報が次々に入った。
事態は更に深刻化する。全身やけどを負っている人が音無瀬橋付近で見つかるなど、自主避難した負傷者があちこちに点在した。
トリアージポストに負傷者を集められず、雑踏で場所も不十分。それでも「早くしなければ」。やけどは初期治療にかかるまでの時間が、症状の進行や回復時間に大きく影響する。
本来なら最初に行うトリアージを断念し、搬送を優先する必要最小限のトリアージに切り替えた。負傷者を集めた3カ所それぞれに、トリアージができる救急救命士がいたことは大きかった。
「とにかく重傷者を救急車で送れ」。現地警備本部からの指示の声が飛ぶ。重傷者と軽傷者を分けて、重傷者は即時搬送。次に残る負傷者を搬送する順番を決めた。
■救急車6台フル稼働 待機バスで集団搬送■
救急隊が病院に連絡を入れて直接受け入れ可否を確認することもあるが、同時に複数台の救急車が走った今回は、消防本部通信指令室が一括した。
救急指定の福知山市民病院と京都ルネス病院、綾部市立病院にも応援を呼びかけて、救急車6台をフル稼働。それでもまだ現場に負傷者が30人近く残った。比較的軽度と見られる人たちだったが、気道熱傷が心配され、容体の急変など万が一のことがある。一刻も早く搬送する必要があった。
明石の事故を教訓にした待機バスの初めての運用が、搬送時間の大幅短縮に役立った。
1991年、野家の岡踏切で電車とトレーラーが衝突して、多数の負傷者が出た。この時に急きょ市のバスや学生送迎バスを使って一気に搬送した経験も生きて、福知山消防では「集団搬送はバスで」というイメージを共有してきたという。
市役所に待機させていたバスは、出動要請を受ける前に素早く動き出し、負傷者25人と家族らを乗せて災害拠点病院の市民病院へと向かった。現場に残った負傷者は数名で、搬送時間を大幅に短縮した。
■市民病院の医師45人に救援の市外医師加わり■
最多の負傷者計45人を受けた市民病院では医師45人に看護師らも集結し、救援を求めた市外の医師たちも駆け付けてマンパワーを発揮。京都ルネス病院、綾部市立病院でも懸命の治療が続いた。
市消防本部の芦田修司次長は「もし3病院に全員を受け入れてもらえなかったとしたら、もっと遠方を探してさまよっていたかもしれない。本当にありがたかった」と振り返った。
■消防の呼びかけに観客協力、通路を確保■
消防職員だけでできた搬送ではない。鈴木秀三警防課長は「警察、負傷者の家族、消防団員が手助けしてくれた。多くの人出で現場は混雑したが、呼びかけたら観客の方々が道を開けてくれて搬送ルートが確保できた。実行委員会の避難アナウンスも的確だった。みなさんの協力があったからこそだった」と振り返る。
病院から病院への2次搬送では、福知山での実践1例目になる京都市消防局のヘリコプターが夜間飛行したほか、市外消防や病院の救急車とドクターカーが多数協力。市民病院からの市外への転院搬送だけで福知山消防を含む車両14台、ヘリ1機が動いた。
■消防団が素早く消火■
屋台が炎上した火災は、現場の河川敷護岸の上流側に待機していた市消防団中央分団が先着して、由良川から水をポンプでくみ上げて放水。続いて消防署車両も加わり、火は覚知から約10分で消し止めた。
横山泰昭消防長は「事前準備と臨機応変に動けたことで、効果的な搬送と消火が出来た。市内外の多くの方々の協力が大きく、日々常に顔の見える関係の強さを実感した」と総括。それでも、救えなかった命、今も苦しんでいる人たちがいることを思うと「あれがベストだったとは言えない」と、表情は曇る。
事故から1週間。まだ終息はまったく見えない。亡くなった方々の冥福を祈り、負傷された全員の回復を願う。
写真上=一刻も早く病院へ。懸命の搬送活動が続いた(画像の一部を処理しています)
写真下=混乱する雑踏の中で消火活動が行われた
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