レベル3相当 国の動きはどうして鈍い
東京電力福島第1原子力発電所では原子炉建屋などに流れ込む大量の地下水との果てしない戦いが続いている。
建屋内に侵入した水は放射性物質に汚染される。処理しても放射性物質を全部除去できないから汚染水は外部に出せない。原発敷地内に貯蔵するしかない。
このため、東電が保管方法として選んだのは地下貯水槽であり、地上タンクをどんどん組み立てていくことだった。
しかし、これが思う通りに行かない。
まず、4月に地下貯水槽からの汚染水漏れが見つかった。東電は貯水槽7カ所の使用を断念し、保管中の汚染水約2万3千トンをタンクに移送することにした。
大小さまざまな貯水タンクは敷地内に400基以上あり、いまなお増設中だ。
今月19日にタンクの一つから汚染水漏れが見つかった。タンクからの漏れは6月にもあったが、そのときは東電によると約1リットルだった。ところが、今回は推定300トンに上る。貯水タンクでは最大の直径12メートル高さ約11メートルのものから漏れた。
しかも、タンクの近くには雨水などを直接外洋に流すための排水溝があった。
タンクから漏れた高濃度汚染水が、これを通って海に出た可能性が高いのだ。
事態を重く見た原子力規制委員会は、この汚染水漏れについて国際的な事故評価尺度(INES)のレベル1としていた暫定評価を、レベル3(重大な異常事態)相当に引き上げる意向を示した。
海外の報道機関も高い関心を示し、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故と並ぶ史上最悪のレベル7の事故を起こした福島第1原発で「レベル3の事故」「深刻な事態」などと報じられることになった。
東電の相沢善吾副社長は「経営の最大の危機」と言ったが、危機は東電にとどまらない。国としてもゆゆしき事態だ。
ニュースを見聞きした人は細かい内容は頭に残らなくても「とても深刻」などの言葉は記憶に残る。日本の農産物などへの風評被害が再燃する恐れがある。
日本政府への不信も高まる。なぜ、政府は事故収束を東電という企業任せにしているのか、おかしいというわけだ。
「東電任せでは駄目だ。国がもっと対応すべきだ」。4月に地下貯水槽漏れが見つかった時に地元から声が上がった。
東電を矢面に立て国がその後ろで操る二人羽織のような手法は改めるべきではないか。福島第1原発事故は巨大企業の東電といえども手に負える範囲にない。だから、国がもっと前面に出るべきだ-私たちもこれまで何回か訴えてきた。
今回汚染水漏れが見つかったタンクと同型は敷地内に約230基あり、1基で約千トンを保管できる。汚染水対策の当面の切り札ともいえる。だが、漏れの原因が分からない。他のタンクでも漏れが続けば、まさに経営の最大の危機になる。
それにしても、東電の後手後手の対応を見ながら国の動きがいまひとつ鈍いのはなぜだろう。決断力をアピールする安倍晋三政権にはそぐわないと思うが。
=2013/08/23付 西日本新聞朝刊=