強いと思ったことはない。でも、どこよりも我慢強い。
いすゞ自動車が優勝した年は、荒井が前橋育英の監督に就任した年でもある。いすゞ自動車は優勝を花道に休部が決まっていた。そこで荒井は「いすゞ自動車の意志を継ぎたい」と前橋育英のユニフォームをいすゞ自動車とまったく同じデザインのものに変更した。
「ラインの太さも、帽子のマークの角度が5ミリぐらい上がっているのも、そっくりなんです」
そんな荒井の思いが反映したのだろう、前橋育英も、時間はかかったが当たり前のことを辛抱強く継続できるチームに成長した。
「強いと思ったことは一度もないんです。相手をねじ伏せるような力があるわけじゃない。でも、どこよりも我慢強い。そういうチームになったとは思います」
それを象徴していたのが準々決勝の常総学院(茨城)戦だった。
0-2と2点リードされ、9回2死走者なしまで追い込まれた。しかし、そこから同点に追いつき、延長戦でサヨナラ勝ちを収めた。
決勝戦も4-3と1点リードで迎えた最終回、無死一、二塁のピンチを招いたが踏ん張った。
「バックネット裏の人たちまで向こう(延岡学園)を応援してましたからね。これはピッチャーも大変だろうなと思いながら見てましたけど」
「たとえ負けても自分のやり方を変えることはなかったと思います」
前橋育英の監督就任から11年間、周囲の人間に「甘い」と言われながらも自分のスタイルを貫いた。
「僕の中で当然と思えることをやってきただけ。怒ることが指導ではない。勝ったことでそれを証明できたと思う。でも、それをあえて言うつもりもないし、たとえ負けていても自分のやり方を変えるということはなかったと思います」
荒井はあくまで穏やかな口調でそう語った。
誰にでもできるようなことを誰にもできないくらい長い時間、積み上げた。それが荒井の指導者としての最高の才能であり、前橋育英の強さだった。
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