uuさんへの質問の回答と、個人メディアにおける編集と経営の分離問題について

2013/08/21


umekiさんの騒動に関連して、質問をいただいたので回答しておきます。

著者は金銭の授受を明示するべきではないか?

話の流れを整理すると、この人はUmekiさんがクラウドワークスから対価をもらって仕事をしている(と思われる)のに、競合のランサーズを貶め、クラウドワークスを絶賛する記事を書いていることについて、疑問を抱いているようです。

ここだけ切り出すとよくわからないのですが、質問は別のツイートで投稿されている「<あなたが金銭を受け取っている企業のことを明示せずに絶賛記事を書くこと>をやりますか?やりませんか?」というものだと解釈します。


A. 金銭の受け取り方によります

この人は要するに、「お金をもらっているのに、それを隠して賞賛する記事を書くのはいかがなものか。イケダハヤトはそういうことをするのか、否か」という問いを投げかけているのだと思います。

そうした意見に対するぼくの答えはシンプルで、「お金の受け取り方によります」。


明確に記事執筆の対価を頂く場合は、その旨を明示した上で、記事を公開します。いわゆるスポンサー記事ですね。そういうことはあまりやらないのですが、昔IS03のレビュー記事を有料で書かせていただきました。

マイクロソフトさんからお仕事を頂き、Windows Phoneこと「IS12T」のモニターをさせて頂きました。

[レビュー] Windows Phone「IS12T」が優れている3つの点


難しいのは、直接的に記事執筆の対価はもらっていないけれど、それでも面白いから記事にする場合。

たとえばぼくは、様々な企業で研修をしたり、彼らが主催するイベントに登壇することも、仕事の一環にしています。研修・イベント出演においては、数千円〜10万円程度の対価を頂くのが一般的です。

そういった仕事を通して、しばしばその会社と事業に強い魅力を感じることがあります。そういうときは、その会社を紹介する記事を書きます。イベント直後に書くこともあれば、新サービスのリリース時などに、期間を空けて(たとえば半年後)に紹介することもあります。


さて、このときぼくは、紹介記事のなかで「以前この会社で研修をして報酬をもらいました」ということを明示するべきなのでしょうか?

ぼくはこのケースにおいては、わざわざ書くことはしません。余分な情報であると判断しますし、何より、紹介する会社に余計な迷惑が掛かる可能性があるからです。

ぼくもアンチが多いので、「イケダハヤトを使っている」というだけで、「こんな人間を使うなんて何事か」とクレームを飛ばす人がいるんです。誇張じゃなくて、これマジですよ。


金銭の授受を伴わない場合は?

さらに難しいのは、ランチやディナーをおごってもらったなど、金銭を伴わない対価をもらった場合です。こうした時に、ぼくはその関係性について書くべきなのでしょうか。

企業やサービスを紹介するとき「半年前に、プロントのランチを奢ってもらいました」「昨日、今半のすき焼きをおごってもらいました」「毎月、取材でスタバのコーヒーを奢ってもらっています」「先日、一日だけオフィスを無料で貸していただきました」と、書くべきなのか否か。

対価性の問題はエンドレスで、たとえば経営者がたまたま遠い親戚だった場合、そのことも開示すべきなのか。どこまでの親戚関係なら、明示することが望ましいのかetc…


対価性、関係性を疑いはじめたら、キリがないことも事実です。ということは、どこかで疑いを止めるポイントを決断しなければならない。しかし、そのポイントは曖昧で、不明瞭なものです。

市民が決断することなくしては、著者・メディアは無限の説明責任を負うことになってしまいます。無限である以上、その責任を果たすことは不可能です。

さらにいえば、そうした疑問を晴らすのは原理的に不可能です。陰謀論と同じですね。たとえばこの記事も「実はumekiからカネを貰っているんじゃないか」と疑うこともできてしまいます(もちろん事実としてカネなど貰ってませんが、それを説明しても、「いや、それはウソだ!」と無限に疑うことが可能です)。


結局は市場に評価される

話を戻しましょう。ぼくは企業から何らかの対価をもらうことがあります。そして、そういう関係性にある人たちのことを、対価の授受があったことを明示せずに、プラスのイメージで記事にすることがあります。

明文化できるポリシーとしては「記事執筆を依頼され、その対価を直接的にいただいた場合は、その関係性を明示する」というものに留まります。ただし、これもまた、将来的にはアップデートしていくのでしょう。また、例外も出てくると思います。これは絶対的な基準にはなりえません。


では、メディアはどのようなポリシーを持てばよいのでしょうか。誰かがそのポリシーの正しさを、評価するのでしょうか。

この種の問題に関しては、なんとも実用的な考え方ですが、結局、「モラルから逸脱したと判断された場合は、そういう存在として市場に評価される」という結論に、当座は甘んじるしかないんじゃないかと思います。

つまり、ぼくがモラルを逸脱しているとみなさんに判断されたら、ぼくのブログは「そういうもの」として捉えられるのです。アクセスも下がるでしょうし、真面目に読んでくれる人も減るでしょう。逸脱行為の罰は、市場が自動的に与えてくれる、という話です。


…が、市場は万能ではない

しかし!自分で書いておいてなんですが、必ずしも逸脱者に対して、市場が罰を下すとはかぎりません

たとえばメディア運営でいえば、どれだけモラルに反していても、PVを稼げれば、それで正義なわけです。一部の2chまとめなんかは、明らかにモラルに反していますが、あれは十分すぎるほど儲かっていますからね。多少の逸脱はあれど、結局、市場が支持しているのです。


逸脱者は市場に罰せられるのが原則とはいえ、市場もまた完ぺきではない。だとすると、モラルの逸脱を行いながら、のうのうと生きる人たちも残り続けることになる。それは社会的な正義に悖る状況である。

…さて、ではどうするか。ここは極北に近い場所です。

だから、私たち市民がこの手で罰を与えなければいけない」という私刑主義・自警主義に転ずるか、「だから、私たちが対話をし、倫理観を涵養していかなければならない。それは自由の対価である」というリベラル・コミュニタリアン的、理想主義的立場に立つか。概ね、この二極にわかれるでしょう。


ぼくはもちろん、後者の立場です。モラルの逸脱が問題になっているのなら、人々が、モラルを自律的に守れるようになる必要があります。

ここにおいて、罰則はむしろ逆効果になることも付け加えておきましょう。モラルというのは、自律的な判断にもとづくものです。罰則は、自律的ではなく他律的なものです。

罰に頼る限り、人がほんとうのモラルを身に付けることはできないでしょう。むしろ、「バレなければいい」という悪徳がはびこる結果となります。

関連記事:罰を与えれば、バカな若者は冷蔵庫に入らなくなるのか


さてさて、話がだいぶ長くなりました。このテーマは深淵です。とりあえずの結論としては、

・ぼくは「記事執筆を依頼され、その対価を直接的にいただいた場合は、その関係性を明示する」というポリシーです
・何らかの対価をいただいても、その関係性について明示しないこともあります。それは、①紹介した先に具体的な迷惑が掛かる可能性があるから ②伝える必要のない情報だと考えるからです
・メディアを疑いだしたらキリがない。市民はどこかで信じるという決断を行わないといけない
・モラルの逸脱は、市場が裁くという考え方もできる
・しかし、市場もまた完ぺきではない
・では、モラルの逸脱に対してどのように対処するのか。これは人によってアプローチがわかれるだろう。ぼくは罰則に頼らず、市民の手でモラルを涵養していくしかないと考える

なんてところですね。この話はかなり面白いです。何かご不明点や意見があれば、ぜひツイッターやメールでご質問ください。


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