秋の臨時国会に特定秘密保全法案を提出する方向で、政府が準備を進めている。
国家安全保障会議(日本版NSC)の設置とセットで検討されている。国民の「知る権利」を制約し、日本を“戦争のできる国”にするための一歩になる可能性が高い。賛成できない。
国の機密情報が国家公務員から漏れ出さないようにするのが目的だ。守るべき秘密については、(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全・秩序の維持―の3分野とする方向になっている。
これでは漠然としすぎる。運用によっては大事な情報が広く隠されることになりかねない。
秘密保全法が具体化したのは、2010年秋の中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件がきっかけだった。海上保安官が動画をネットに流出させたことから、民主党の菅直人内閣は有識者会議を設け、情報管理の見直しを検討した。「知る権利」の侵害などを心配する声が与党内にも多く、法制化をあきらめた経緯がある。
この時の報告には、秘密を漏らすよう公務員らを唆す行為を罰則付きで禁ずることもうたわれていた。この考えを安倍晋三内閣が踏襲すれば、報道機関の取材活動が制約を受ける心配も高まる。
安倍内閣は日本版NSCを設置するための関連法案を6月に国会に提出している。自民党は昨年の総選挙公約では、議員に罰則付きの機密保持を義務付けて審議する「秘密会」を、国会に設けることを盛り込んでいた。
同党が昨年夏にまとめた国家安全保障基本法案には、「秘密が適切に保護されるよう、法律上・制度上必要な措置を講ずる」との文言もある。
安倍内閣による今回の動きは民主党政権のときよりも体系立っている。日本社会が息苦しいものに変わる心配が否定しきれない。
背景には、安全保障に関わる情報の管理を厳重にして、機微にわたる情報を米国とやりとりする狙いもあるのだろう。集団的自衛権の議論と合わせ、注意して見ていく必要がある。
政府の情報管理にこれまで甘い面があったのは事実だ。漁船衝突事件のすぐ後には、国際テロ対策に関する警察のデータがネット上にもれる事件が起きている。管理の見直しは必要だ。
だからといって秘密保全法を定め、罰則付きで監視を強めるのは行きすぎだ。職員の意識改革や適性チェック、漏出防止技術の向上など、やれることは他にも多い。