北陸の経済ニュース 【8月21日02時40分更新】

ぎりぎり黒字で値上げ回避へ 原発なき北電
 「アベノミクス」効果が広がる北陸経済にあって、北陸電力の社内はまるで別世界のよ うだ。志賀原発1号機直下の「S−1断層」に活断層の疑いが出ている問題では、調査着 手から1年が過ぎても最終報告はいまだ提出されず、原発再稼働のめどは立たないまま。 「ぎりぎりの黒字」(幹部)を確保し、電気料金の値上げを回避する方針だが、電力小売 りの全面自由化など新たなハードルも突きつけられ、経営はまさに暗中模索といった状況 だ。

 7月30日、北電が発行した「CSRレポート2013」。例年は冊子にまとめており 、今年からはホームページでの掲載のみとなった。どうやら、コスト削減の姿勢を内外に 示す狙いのようだ。

 「原発がない中で黒字ぎりぎりを狙っているというか、たたき出しているのが実態。電 気料金をなるべく長期に維持するには黒字を確保しなければならない」

 矢野茂常務は4〜6月期決算を発表する同日の会見でこう強調し、「経営効率化を徹底 的にやる」と繰り返した。少々昔の漫才のセリフではないが、「小さなことからコツコツ と」ということらしい。

 電力他社が原発停止で赤字に陥り、値上げに動く中、北電は13年3月期に黒字を確保 。今期も黒字は「不可能ではない」(矢野常務)と見ている。水力が豊富で火力の燃料費 を抑えられることが大きく、全国最低水準の電気料金を今も維持している。

 北電関係者によると、電力会社が値上げに踏み切るシナリオはおおむねこうだ。まず経 営努力で削れる部分を削る。それでも厳しければ配当を無配にする。株主も応分の負担を するべきとの考えがあるためだ。その上で値上げを国に申請する。

 つまり、北電の配当が無配になった時点で値上げが現実味を帯びることになる。会見で 、矢野常務は今期も前期と同じ25円の中間配当が可能との見方を示した。当面は値上げ しない姿勢をあらためて示したと言えた。

 1年ほど前、南砺市役所に新電力エネット(東京)の営業マンが訪れた。市財政課の担 当者は通常の入札と同様に、約50施設で北電とエネットの2社から見積もりを取った。 すると、小中学校や文化センターなど14施設の電力供給契約をエネットとあっさり結び 、6月から供給が始まった。

 自治体と新電力との契約は北陸では初めて。市の担当者はつぶやく。「太平洋側では日 常茶飯事。これまで(北電)1社のみと随意契約を結んできたのも、問題と言えば問題だ と思う」。年間130万円のコスト削減につながるという。

 エネットが割安な料金を掲げ、北電エリアで供給を始めたのは南砺市の施設や国の出先 機関の約50カ所。家庭用も含む小売りの全面自由化が16年に予定される中、北電が競 争にさらわれるのは必至の情勢である。

 北電も全面自由化に向け、料金メニュー策定などの準備を進めているという。「電力会 社を選べるのは自然な姿。料金メニューやサービスの充実を通じて、お客さまの利益につ ながるよう積極的に取り組む」(経営企画部)。発送電分離を含めた「電力システム改革 」の荒波は、志賀原発の再稼働より先に、北電に襲い掛かってくるかもしれない。


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