橘玲の世界投資見聞録 2013年8月8日

遠くシベリアの地に眠る
国家に見捨てられたひとびとの墓
[橘玲の世界投資見聞録]

 シベリア抑留の犠牲者は5万5000人とされているが、『スターリンの捕虜たち』でヴィクトル・カルポフは、新たに公開された公文書をもとに、ソ連領外の満州、北朝鮮、遼東半島の収容所を加えれば死者の総数は9万2000人を超えると述べている。

 極限状況の抑留生活についてはすでに多くの手記が書かれているから、ここであらためて述べることはしない。その一方で、歌手の三波春夫や元読売ジャイアンツ監督の水原茂のように、自身の抑留体験をほとんど語らなかったひともいた。

 1953年にスターリンが死ぬと、ソ連政府は少数の埋葬地にかぎって墓参を認めるようになった。ソ連崩壊でようやく遺骨の収集が本格化し、元抑留者や厚生労働省による日本人墓地の整備や慰霊碑の建立も進められた。だが抑留者の大半が鬼籍に入りつつあるいま、その多くは墓参に訪れる者もなく寂しく佇んでいる。

瀬島龍三氏とシベリア抑留

 ハバロフスクには日本人墓地のほか、1995年に日本政府が建立した「日本人死亡者慰霊碑」があり、2003年には小泉純一郎総理大臣が供花・黙祷している。

1995年に日本政府が建立した「日本人死亡者慰霊碑」  (Photo:©Alt Invest Com)
慰霊文。「さきの大戦の後、1945年から1956年の間に祖国への帰還を希みながら、この大地で亡くなられた日本人の方々を偲び、平和への思いをこめてこの碑を建設する。日本国政府」 (Photo:©Alt Invest Com)

 慰霊碑は赤レンガづくりのモニュメントで、アーチのなかに柱を建て、その内側を球形にくり抜いたつくりになっている。ふだんは訪れるひととてなく、日陰のベンチに警備の兵士が座っているだけだ。ここもかつては抑留者の墓地で、周囲はなにもない原野が広がっていたというが、いまでは郊外の新興住宅地になり瀟洒な家が建ち並んでいる。

平和慰霊公苑の周囲は高級住宅街に様変わりした  (Photo:©Alt Invest Com)


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<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。

 

 

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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