「ヘイトスピーチ」を法律で規制する前に
沖縄大学で行われた研究発表会(沖縄外国文学会第28回大会、6日)のなかで、筑波大学の畔上泰治教授が、「メディア媒体を通して表現された社会的少数者に対する嫌悪・攻撃感情の研究-現代ドイツの事例を中心に」と題して報告しました。東京や大阪のデモなどでヘイトスピーチ(憎悪発言)が問題化し、その規制の是非が問われているとき、興味深く聴きました。
ドイツで昨年12月、1枚の無料音楽CDが規制されました。極右勢力が若者への宣伝・勧誘のため学校の前や集会で2004年から配布(19曲収録、のべ5万枚=写真左はそのジャケット)してきたもので、その後右翼政党NPDが選挙の際に利用していました。その歌詞は少数民族を攻撃して多文化共生社会を否定し、「俺たちはナチ」などとナチズムを賛美するもので、青少年保護法などに違反すると認定されたのです。問題になったのははやり「表現の自由」との関係です。畔上さんは「ドイツでももちろん現体制への批判は認められる。しかしそれに代わるビジョンがナチズムと類似する場合は取り締まりの対象になる」と説明しました。
日本ではどうでしょう。在日朝鮮人などに対し「死ね」などと叫んでデモするヘイトスピーチを規制することはできるでしょうか。ドイツでは「表現の自由」よりもナチズムの排除が優先されます。それほどナチズムへの反省が浸透し、多民族・文化共生社会が尊重されているのです。日本にそんな社会的風土はあるでしょうか。
「ヘイトスピーチ規制は世界の常識」とする前田朗さん(東京造形大教授)は、法律で規制する前に、「まずは罰則のない人種差別禁止法をつくるべきだ」と主張します(ブログなど)。人種差別撤廃条約は日本も批准しています。「表現の自由」との関係では、「ヘイトスピーチで被害が厳然と存在することをまず認めること」が必要だとし、「欧州も50年かけて社会意識を変えてきた。ネオナチ対策から始まり、試行錯誤しつつ取り組んできた。時間をかけてでも、日本は人種差別問題に取り組む必要がある」と指摘します。
ヘイトスピーチにはそれを生み出す社会的基盤(新自由主義によるストレス競争社会)があります。さらにその根底には、人種差別につながる伝統的な天皇制風土があると思います。法規制の前に、こうした社会基盤や日本の風土を捉え直すことが必要ではないでしょうか。人種差別にどう立ち向かうか。他人事ではなく、日本人一人ひとりが問われているのですから。
<今日の注目記事>(13日付沖縄タイムス1面から)※琉球新報1面にも同様記事
☆<非正規割合 沖縄が最高 12年就業調べ 44・5% 全国も上昇>
「総務省が12日発表した2012年の就業構造基本調査によると、非正規労働者の総数(推計)は2042万人と07年の前回調査から152万人増加し、初めて2千万人を超えた。雇用者全体に占める割合も38・2%と2・7㌽上昇して過去最高を更新。過去20年間で16・5㌽増え、正社員を中心とした日本の雇用形態が大きく変化している実態がより鮮明になった。非正規の割合が最も高いのは沖縄(44・5%)で23万7500人、次いで北海道(42・8%)だった」
この労働実態が日本の根源的問題です。その中で、「辺境」の沖縄と北海道が最も深刻な事態になっていることは偶然ではありません。
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