在日コリアンが多く住むＪＲ京都駅南の東九条地域（京都市南区）で、戦前・戦後を生き抜いてきた在日１世や日本人のそれぞれの歩みをたどる冊子「東九条の語り部たち−１４人の聞き取り報告」が刊行された。地域で高齢者福祉や日本語の読み書きを教える４団体が「調査部会」を作り、７０〜９０代の１４人に、出身地▽仕事や商売の略歴−−などをインタビューし書き上げた。団体側は「差別や貧困の時代をたくましく生きた個人史を通し、東九条の歴史も知ってほしい」と期待している。【松井豊】

　◇聞き取り調査し冊子に

　京都市の委託事業「京都市地域・多文化交流ネットワークサロン」の２０１２年度の活動として冊子にまとめた。戦争前後の東九条を知る人が高齢化で次々と亡くなり、今聞いておかなければ記録として残せないとの危機感がきっかけになった。

　趙〓日（チョヨンイル）さん（８３）は冊子の中で戦後の食糧難の中、闇米を自転車に載せて京都市内の西陣や岡崎へ売りに行った体験を語っている。趙さんは「苦労したことは鮮明に頭に残っているけど、恥ずかしいし子どもにも話していない。私の体験は書いてある通り」と話す。

　ネットワークサロンの前川修センター長（５６）は「炭鉱労働に従事してきた男性や、男社会の中、子育てと仕事に奮闘した女性の経験を記録することで、年表だけでは分からない生の歴史を知る一冊になった。ぜひ手にとってほしい」と話している。

　Ａ５判、２１０ページ。１０００部発行。問い合わせはネットワークサロン（０７５・６７１・０１０８）。