【脱原発で大丈夫か】原発停止で1日100億円消失 エネルギー問題3つの論点

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2013.08.20


福島第1原発の事故処理は困難が続くが、エネルギー問題は放射能以外の観点も重要だ【拡大】

 「原発ゼロ」「脱原発」。このような主張がメディアにあふれ、政治家や評論家など、さまざまな人が繰り返している。福島第1原発事故の衝撃と恐怖を経験した私たち日本人が、原発に拒否反応を示すことは当然だ。

 しかし、本当にそれで大丈夫なのだろうか。「ちょっと待って冷静に考えよう」というのが私の主張だ。今回の連載ではエネルギー、原発をめぐる話題を多角的に取り上げて、「脱原発」を考える材料を提供したい。

 事故後に原発の抱える問題に多くの人が気づいた。管理と事故制御の難しさ、放射性物質拡散の恐怖などだ。そのために誰もが安全と環境に関心を向けた。ところが、エネルギーの論点はそれだけではない。

 「3つのE」に注目することが、どの国でも問題を考える基本といわれる。「エネルギー・セキュリティー(安全・安全保障)」「エコロジー(環境)」「エコノミー(経済性)」の、Eから始まる3論点だ。置き去りにされた「経済性」の問題が、今の日本で深刻になっている。

 電気代の値上げが広がる。今年4月の東京、関西、九州の3電力に続いて、東北、北海道、四国の3社が9月から値上げする。値上げ幅は家庭用で平均8%だが、業務用では10%以上だ。負担はかなり厳しい。家庭電気代は4人家族の全国平均で月2、3万円だから、1割でも月数千円の負担増になる。電力料金が1割上昇すると、大規模工場(月240万キロワット以上)では月平均120万円以上の負担増になるとの試算がある。

 値上げの理由は全国の原発を止めて「原発ゼロ」状態になり、火力発電用の石油やLNG(液化天然ガス)の輸入を増やしたためだ。無資源国の日本は化石燃料をほぼ全量輸入している。2012年の燃料輸入額は24兆円だった。燃料費の増加分は11年には2兆円、12年には年3兆円、円安の進んだ13年には4兆円になる見込みだ。

 いわば「毎日100億円余分に燃料を燃やしている」ことになる。しかも、その巨額の資金が国内ではなく、外国に流失している。

 7月の参院選挙勝利後に安倍晋三首相は「強い経済づくりに集中する」と目標を掲げた。ところが巨額の燃料費の支出は貿易赤字をもたらした。「エネルギー負担で、アベノミクスは失速しかねない」(財界首脳)との懸念が広がっている。

 あたかもジクソーパズルのように、原発はエネルギーをめぐる諸問題と複雑に絡み合う。簡単な解決策が予想外の損害をもたらしかねない。「ちょっと待て」と、私が「原発ゼロ」を心配するのはこの点にある。

 ■石井孝明(いしい・たかあき) 経済・環境ジャーナリスト。1971年、東京都生まれ。慶応大学経済学部卒。時事通信記者、経済誌記者を経て、フリーに。エネルギー、温暖化、環境問題の取材・執筆活動を行う。アゴラ研究所運営のエネルギー情報サイト「GEPR」の編集を担当。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞)など。

 

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