2013年4月21日放送
養殖の魚の常識をくつがえす 目からウロコの美味しい魚!
デフレ経済を逆手にとって急成長!の回転寿司。外食産業唯一の「勝ち組」と言われています。この大手チェーンは、全て1皿100円。この安さ、養殖の魚のおかげだと言うのです。そこで、「養殖の魚はどれだけあるのか?」調査してみることに。魚介類を使った57種類のネタを並べてみると、養殖の魚は約4割。ところがお皿の数で売り上げに占める割合を表すと~なんと7割!売り上げナンバー1のサーモンやハマチ、ブリ、エビなどは養殖モノ。「人気のある商品が養殖モノなので必然的に消費の割合としては増えますね。(回転ずしチェーン広報・辻明宏さん)」
さらにすしネタの新商品開発現場でも。こちらは、高知県で養殖されているカンパチ。でも、普通の味じゃありません。ほんのり柑橘系の風味が残るカンパチ。与えているエサに高知県の名産、ユズの皮や果肉を混ぜているからです。試食した役員たちからの評判は上々。早速、来月からこの回転寿司チェーンの新商品として売り出すことが決まりました。
「育てる漁業」養殖の魚は、私たちの身近にあるスーパーにもたくさ~ん。でも、よーく見てみると、その半数は輸入モノです。実は、さきほどの回転寿司チェーンでも、20種類ある養殖の魚のうち国産のモノは、ハマチとブリのわずか2皿。残りは全て海外からの輸入なんです。
どうして、日本の養殖モノは少ないの?その謎を探るべく訪ねたのは、養殖業が盛んな鹿児島県の垂水市。特に養殖カンパチの生産量は日本一です。ところが、今、この漁港に史上最大の危機が!「養殖業者がこのまま続けられるかどうか。下手すると1年経たないうちにみんな廃業してしまうんじゃないか。(垂水漁港営業部長・迫田洋海さん)」その原因は、価格の低迷。カンパチを1匹育てるのに必要なコストは、エサ代や人件費など、およそ850円。ところが、卸値が1匹700円まで下がっているというんです。
その原因をカンパチの価格に詳しい原口欣一さん(かごしまJF販売専務)に聞いてみると、意外な答えが。「作る方からすれば天然ブリにも左右されている。」天然のブリ!?原口さんの説によると、ブリとカンパチは市場では味が似ているとされていて、養殖のカンパチの値段はブリの売値で相場が決まるというのです。ホントですか?ということで、やってきたのはブリ漁に沸く長崎県松浦漁港。天然のブリが大量に水揚げされています。
ブリの値段を調べに、競り場を覗いてみると...なかなか買い手がつきません。それもそのはず。今年は全国的にブリの豊漁が続いているため、値段は普段の半値以下。売れ残ったブリは、市場の冷凍庫に山積み状態。養殖カンパチの価格を下げるという天然ブリの豊漁。だからといって「あまりブリを獲らないでね」とは言えません。「天然の漁は取れなかったら全然取れない。不漁ということもある。だから、魚が獲れるときは獲ろうというふうに生産者は考えると思います。(西日本魚市常務・副島徹朗さん)」
再び、カンパチ養殖の垂水市。追い打ちをかけるように、もうひとつの悩みが。それは、エサ代の高騰。輸入した魚粉などを原料にしていますが、ここ数年、価格が急激に上昇しているんです。養殖業を営んで40年の和田博巳さん。エサ代の工面に追われた和田さんの苦渋の選択...それは、出荷の前倒しでした。カンパチが十分成長しきっていなくても出荷して、少しでもエサ代を賄おうというのです。「ある程度お金を作らないといけない。だから小さくてもしかたなく出荷する。そりゃ、悔しいですよ。大きい方が美味しいですから。そうやって売りたいが残念ながら、大きくても値がつかない。」育てる漁業・日本の養殖業の大ピンチ。それは「価格の低迷」と「エサ代の高騰」。ダブルパンチだったのです。
マギー審司さん(マジシャン)
僕らも安い営業をいっぱいしていると、自分の価値がなくなるのと一緒ですね。全部自分にもう置きかえて考えちゃうんですけどね。(笑)僕らも仕事が減ってくると、やっぱり、ああ、ちょっと安い仕事でも、数やんないと生活できないしって思うんですけど、そこを我慢することも大事だっていうことなんでしょうか。(笑)
有路昌彦さん(近畿大学准教授)
先ほどのVTRで出ていた、ブリとカンパチが競合してという話がありましたが、実際のところを言うと、ブリとカンパチ、別段競合していなくて...っていう爆弾発言をすると悪いと思うんですが。なんで価格が下がったかというと、一言で言うと「つくりすぎ」です。養殖カンパチのつくりすぎ。だから天然の漁獲量をコントロールしましょうというのと同じように、養殖業もちゃんと計画生産をして、マーケットにフィットした量にしないといけないんですが、マーケットが飽和してもつくり続けないといけないというふうになってしまうんですね。隣の人が何をするか(例えばたくさん養殖カンパチをつくる)というのは予想はつくので、自分だけがつくらないわけにはいかないという。
こちら東京・六本木の料理店で出している鯛のお刺身はなんと5切れで1400円。この鯛の名は、鯛一郎(たいちろう)クン。「日本一高い養殖鯛」と言われています。愛媛県にある養殖場を訪ねてみると...こちらが鯛一郎クンの生みの親、徳弘多一郎(とくひろ・たいちろう)さん。...??同じ名前でちょっと混乱。「おはよー。みんな上がっておいで。エサやりに来たよ~。」鯛一郎クンにかける多一郎さんの愛情は並々ならぬものが。毎日のエサやりで、挨拶し、すかさず食いつきをチェック。そして、水温と水中の酸素量を毎日欠かさず測定。この日は、水温16.5度、酸素量が8.52ppmと、この時期の平均的な値。水温が15度以下になったり、酸素量が減ったりすると、エサを減らして体調管理に努めています。
それにしても、どうして日本一高い養殖鯛と言われているのか?鯛一郎クンの身に含まれる成分を調べたところ、脂肪酸量が一般の鯛に比べ、およそ2倍!これは脂がのっているという証しです。どうしてこんな鯛ができるか?それにはエサに秘密が。普通、養殖のエサは、生の魚と魚粉の入った配合飼料を混ぜ合わせて作りますが、ここではエビ、オキアミ、昆布、イカスミまで混ぜているのです!さらに旨みを出すため、エビは生エビをわざわざ乾燥させ、昆布は2日かけて煮出したものなどを入れています。飼料メーカーと一緒に13年間かけて作り上げました。出荷作業にも細心の注意が。いけすから魚をすくいあげる時は、網ではなくやわらかい素材を使い、魚を傷つけないようにしています。
さらに入れ物にも工夫が。輸送中、鯛が泳いでやせてしまったり傷ついたりするのを防ぐため、縦に並べて、再び水の中へ。「きちっと届けることで、味も損なわれずに届くんではないかと僕らは思っているわけです。一番いい状態で届けたい。」今、多一郎さんが出荷する鯛一郎クンは、年間12万匹。今ではシンガポールからも注文が舞い込むようになっています。「松阪牛のようにコシヒカリのようにちゃんとした価格で取引していただけるような、そんな魚に仕上げていきたい。」
一方こちらは、長崎県のとあるスーパー。ここに、季節を問わず一年中美味しいと評判のブリがあります。2年前に販売を始めた養殖のブリです。このブリの産地は、長崎県五島列島の若松島。生産者は橋口直正さん。橋口さんの育てるブリは、そんじょそこらのブリとは全く違います。ふつう、ブリは天然モノでも養殖モノでも、産卵を迎えるのは春から夏にかけて。その後は味が急激に落ち、脂ののりは冬になるまで回復しません。そこで橋口さん「一年中、脂がのったブリができれば、売れるに違いなかバイ!」と考えました。でも一体、どうすればそんなブリに育つのか?
やはり、カギとなったのはエサ。橋口さんに協力したのは、大阪にあるバイオ関連会社の白石さん親子。ブリに、トウモロコシなどの炭水化物を与えれば、脂のノリがよくなると考えました。しかし、ふつうブリは炭水化物を消化出来ません。そこで息子の英一郎さんが思いついたのは、消化しやすいように酵素を加えること。というのも、英一郎さんはもともと内科の医師。胃や腸で分泌される消化酵素の知識が豊富だったのです。
一方、社長の俊訓(としくに)さん。実は、特別な思いがありました。俊訓さんも生まれは橋口さんと同じ五島列島の若松島。かつて、この島には70軒をこえる養殖業者があり、島の一大産業でした。しかし、価格の低迷などにより、今残っているのはわずか5軒。ふるさとのために、何か出来ないか考えていたのです。「自分の故郷がさびれていくのは、やっぱりつらい。もうちょっと応援したら何とかなるんじゃないかというのが、我々が魚の方に入り出したきっかけです。」2年間の開発の末、できあがった新しいエサ。魚に与えてみると狙いはドンピシャリ!ブリは産卵後もすぐに体力が回復。一年中、脂ののった養殖ブリを出荷出来るようになったのです。