京都府福知山市の花火大会会場で起きた爆発事故では、59人の負傷者の搬送に、市が用意した大型バスが活躍した。22年前に約310人の負傷者が出た列車事故を教訓に、市が万一に備え用意していた。大混乱の現場を見て、救急隊員は症状の軽重を判断し優先順位を決める「トリアージ」を断念。まずは一気に搬送し、病院で改めて実施する異例の対応を決めた。
爆発は、花火打ち上げ直前の午後7時半ごろに起きた。花火が特にきれいに見える場所だったため、見物客が特に密集していた。爆発と同時に、炎に包まれ逃げ惑う人、川に飛び込む人、土手上に裸足で走る人などが入り乱れた。
会場には、市消防本部と地元消防団の計128人がおり、要員としては十分だった。当初、多数が巻き込まれる事故現場での原則に従い、一部負傷者にトリアージを始めた。
だが、市消防本部の横山泰昭消防長は、大混乱に加え河川敷に十分な空間がないことから、現場でのトリアージは困難と判断。まず病院へ搬送すると決めた。
明らかな重症者は、待機していた救急車2台などでピストン輸送。一方、約40人乗りの大型バスは、軽傷者や付添人らを福知山市民病院へ一気に運んだ。バスは、1991年6月に市内で起きた大型トラックと列車の衝突事故を教訓に、大勢の負傷者の搬送を想定し市が用意していた。
事故の数分後に連絡を受けた福知山市民病院は、夜間当直体制だったが、北川昌洋地域救命救急センター長が医師や看護師を呼び出し総出で治療にあたった。患者に救急室でトリアージを施し、重傷者に赤、軽傷者に緑、その中間の症状の人に黄色のタグを付けた。
「負傷者はまだたくさんいる」。救急隊からの追報で、北川医師は周辺病院に医師の派遣を要請。午後8時半ごろまでに市民病院に運ばれたのは、重傷16人を含む45人。患者は救急室からあふれた。
京都、大阪、兵庫各府県にある9病院から災害派遣医療チーム(DMAT)が送り込まれ、医療救護や転院先の調整などにあたった。DMATは大規模な事故や災害時に緊急医療を担う専門の医師や看護師らを派遣するため、阪神大震災の教訓を得て国がつくった仕組み。夜間飛行できる京都市消防局のヘリも出動。まもなく重傷者15人が3府県の8病院に転送された。
福知山市消防本部の担当者は「とにかく早く病院へ運びたかった。いくら訓練を積んでいても現場は混乱する。各方面から応援を受け、感謝している」と話す。