[スポーツライター] 金子 達仁
- コメント(1)
- 2010年6月22日
【スポーツニッポン】日本のW杯史上、最も感動的な敗北
カメルーン戦の勝利は、日本のW杯史上、最も醜い勝利だった。あの勝利を、わたしはまるで喜べなかった。あのサッカーを肯定してしまえば、日本サッカーの未来は大きく後退する。その思いは、いまでも変わらない。
だが、あの勝利に何か意味があったとすれば、それは選手たちが自信を手にできたことだった。代表チームの4連敗は、Jのクラブにたとえれば10連敗以上に相当する。どれほど素晴らしい選手を揃(そろ)えたチームであったとしても、これだけの連敗をすれば間違いなく壊れる。できていたことができなくなり、相手の何気ないワンプレーにもおびえるようになる。
それが、カメルーン戦前の日本だった。
しかし、勝ったことで、泣きたくなるほどひどい内容ではあったものの、とりあえず勝ったことで、選手たちは自信を取り戻すことができた。できていたのにできなくなっていたことが、少しばかりはできるようになっていた。
それが、オランダ戦での日本だった。
確かに日本は勝てなかった。それでも、オランダを相手にしたこの0―1は、日本のW杯史上、最も感動的な敗北だった。
わたしが何よりうれしかったのは、0―1とされてからの戦いぶりだった。ほんの数週間前、オウンゴールを喫しただけで意気消沈してしまった選手たちは、オランダに痛恨のゴールを許してもなお、それも悔いの残る形で許してもなお、戦う姿勢を失わなかった。失点以降、最高の働きを見せたのは、誰よりも失点を強く悔いていたであろう川島だった。
こんな日本は、見たことがなかった。こんな日本が、見たかった。
4連敗を放置した日本サッカー協会の決断は、断じて許されるものではない。今大会の日本代表がどんな結果に終わろうとも、彼らに対する批判を和らげようという気にはなれない。
それでも、圧倒的戦力を誇るオランダに、もてる武器のすべてをぶつけて戦った日本選手の戦いぶりは、久しぶりに、本当に久しぶりにわたしの胸を熱くしてくれた。
これならば、デンマーク戦も期待できる。
おそらく、獅子奮迅の働きを見せた松井、大久保あたりの疲労は極致に達していることだろう。だが、彼らがオランダのDFをも切り裂いたことで、日本の選手たちはついに、自分たちの攻撃力にも自信を持つことができた。
やっと、追いついた。
本当ならばもっと早い段階で到達していなければいけなかった境地に、やっと日本もたどりついた。しかも、まだチャンスは残されている。
さあ、決戦である。
コメント(1)
- 岩﨑繁2010年6月27日 9:45 AM
そ、そうですか。。。
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[スポーツライター] 金子 達仁
- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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