[スポーツライター] 金子 達仁
- コメント(1)
- 2010年7月5日
【スポーツニッポン】“結果オンリー”の岡田監督は名将ではない
バルセロナでボビー・ロブソンの通訳をしていたころのジョゼ・モウリーニョは、率直に言って、何のオーラも感じさせない人物だった。現在のような、一度見たら絶対に忘れられない眼差(まな ざ )しをした人物ではなかった。何度も会場で、あるいはテレビで見ているはずなのに、あのときの若いポルトガル人通訳は、どうしても後の名監督とは結びつかなかった。
モウリーニョを変えたのは、自信である。そして、彼に自信をもたらしたのは、積み重ねてきた結果である。
では、結果をもたらした要因は何だったのか。
内容である。
素晴らしいサッカーが素晴らしい結果を伴うとは限らない。けれども、素晴らしいサッカーを展開するチームが、退屈なサッカーしかできないチームよりも少しばかり勝つ可能性が高いのも事実である。1試合平均で10回のチャンスを作るチームと、3回しか作れないチーム。長い目で見れば、どちらが白星をより多く重ねるかは明らかである。
決して巨大戦力を伴うわけではないFCポルトで、モウリーニョはなかなかに魅力的なサッカーを展開し、かつ結果にも恵まれた。ゆえに、彼は監督としてのステップを上がることができた。名将と呼ばれる地位に到達することができた。
南アフリカでの岡田監督が、どんな名将でもなしえなかったかもしれぬ難事をクリアしたことは間違いない。いまの日本の実力と経験で決勝トーナメントに進出するのは、たとえモウリーニョが監督をしていたとしても難しかったことだろう。
だが、だからといって岡田監督を名将と持ち上げることは、サッカーの監督という職業に対する日本人の概念を、大きく誤らせることにつながりかねない。急速に勢いを失った岡田監督に否定的だったファンの中からは「監督って誰がやっても同じなんですね」という声も聞こえてくるが、それは違う。優れた監督がチームを率いたからといって勝つとは限らないが、優れた監督がチームを率いた方が、勝つ可能性は間違いなく高い。
だから、レアル・マドリードはモウリーニョに1年あたり10億円を超えるサラリーを支払う。年俸1000万円の監督が率いるチームに負けることがあるのも覚悟して、大金を支払う。
サッカーにおける名将とは、内容と結果をともに残した希有(けう)な存在にのみ与えられる称号である。内容を捨て、結果だけにこだわった岡田監督を名将扱いすることは、日本人がいかにサッカーというスポーツを理解していないか、世界中に露呈することでもある。
コメント(1)
- 冬のトリトン2010年7月6日 9:58 AM
この記事って、スポーツ紙に掲載されたんですかね。だとしたら以外です。今のマスコミって、「感動をアリガトー!!」「岡ちゃん最高ー!!」という記事しか載らないと思ってましたから。「今はなぁ、感動をありがとうっていう記事しかウケねえんだよ! 監督批判の記事なんか載せたって読者は読まねえんだよ。アホが」っていう具合にね。まともな批判記事は、サッカーダイジェストのセルジオ越後さんしか書かないと思ってました。「われわれファンと違って、スポーツライターの人は大変だなあ。自分の望む方向の記事を書けず、要求されるのはヨイショ記事のみ。そうでなきゃ、雑誌に載せてもらいない」と、ひそかに同情してたくらいです(笑)。
確かに岡田監督は名将ではないですね。どちらかというとヘボ監督でしょう。結果をだしたのは評価しますが、それは多分に運の要素が大きいということは、当の本人が一番よくわかっているはず。その意味では、岡田監督はヘボではあってもバカではないですね。ただ日本国民はそうではないみたいで、岡田氏の続投を望む人の多いこと。その意味では、初出場を決めたフランスW杯から全然進歩してません。いまでも覚えていますが、ジョホールバルでの勝利の後、サッカーダイジェストが「いまこそ考えよう、監督問題を」との意味の記事を載せましたが、自分もまったく同意見でした(監督を交代させるべきという意見で)。しかし、記憶にある限り「監督交代を」という記事を載せたのはダイジェスト1紙だけだったと思います。ほとんどの日本人は「岡田監督でOK」という意見でしたから。
まあファンの意見はともかく、肝心の日本サッカー協会の幹部が、「ほーら見ろ。岡田監督を交代させなかった我々の判断は正しかったんだ」と思ってることは致命傷ですね。誰が新監督になるかはわかりませんが、頭がこれでは、今後も迷走を続ける可能性は多分にあります。
今回、自分は日本代表の試合は1試合も見ませんでした。普通にやれば負けるし、勝ったとしても、それはマグレだ(真の実力ではない)ということがわかりきっていたからです(スペイン対ポルトガル、ブラジル対オランダは録画で見ましたが)。ただ実力が劣るから見なかったんではありません。大会直前まで迷走し、チームの方向性を定められない監督、自らの地位を守ることに汲々として監督を解任しない協会に、心底嫌気がさしたからです。
残念ですが、この問題は半分以上持ち越されましたね。ボロ負けでもしていれば、一からやりなおすこともできたでしょうが、なまじ結果を出したことでそういう考えはなくなったでしょう。今は結果に酔っている状態ですが、そのうち二日酔いが始まります。いや、二日酔いならそのうち覚めますが、ヘタをすると腎不全のような重症(次期W杯の出場権を逃す)になるかも・・・。
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[スポーツライター] 金子 達仁
- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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