[スポーツライター] 金子 達仁
【スポーツニッポン】本田に同感“日本はまだまだ途上国”
少し謙虚になってみよう。
イタリアの1次リーグ敗退には、それもグループリーグ最下位での敗退には、世界中が腰を抜かしたはずだ。では、前回覇者はニュージーランドよりも下手くそなチームだったのか。スロバキアよりも、パラグアイよりも個々の能力で劣るチームだったのか。
そうだ、と自暴自棄で答えるイタリア人は多いだろうが、そんなはずはないと見る第三者はもっと多いに違いない。これからはセリエAではなくニュージーランド・リーグを見る、などと考える人が、世界中にどれだけいるだろうか。
日本は勝った。しかし、それは日本のサッカーがデンマークよりも、全敗でグループ最下位に終わったカメルーンよりも優れていたからというわけではない。残念ながら、まだ、ない。
「嬉しいけれど、何か喜べない。目標ははるか先にある」
試合後、本田はそう言ったという。勝ったこと、決勝トーナメントに進出できたことは嬉しい。けれど、日本がデンマークよりも明らかに優れていたから勝てたわけではない。ゆえに、何か喜べないものがある。彼の心情を代弁すれば、そんなところだろうか。
わたしは、自分が死ぬまでにW杯で優勝する日本が見たいし、それは可能なことだとも思っている。本田は違う。中田英寿がそうだったように、どうやら、彼は自分が現役のうちに世界の頂点に立つことを考えている。だから、喜べない。現状を考えれば会心ではあったけれど、内容で圧倒したわけではない勝利を喜べない。
なんと頼もしいメンタリティーであることか。
日本は、E組で2番目にいいチーム、というわけではなかった。ただし、E組はおろか、他のグループすべてを見渡してみても、かくも短期間に、かくも大きな成長を遂げた国はなかった。カメルーン戦でまるでできなかったこと、やろうとさえしなかったことを、デンマーク戦での日本選手たちはやろうとし、時にやってのけた。その象徴が、相手を完全に崩しきって奪った岡崎の3点目だった。
なぜ日本はこんなにも変われたのか。大会前の準備がひどすぎたから、だとわたしは思う。まるで自信のない状態で大会に臨んだがゆえに、決して喜べる内容ではなかったカメルーン戦の勝利でも、選手たちは自信をつかむことができた。
嬉しいけれど、何か喜べない。わたしも、まったくもって同感である。
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[スポーツライター] 金子 達仁
- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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