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- 2010年6月18日
【スポーツニッポン】苦く悲しい「つなぎ」なき勝利
氷雨の降りしきる国立競技場。観客の大半は在日のコリアン。水たまりで止まったボール。すくいあげた原博実の右足。1―0。終了のホイッスルが鳴った瞬間、まだ学生だったわたしは号泣した。日本が北朝鮮に勝った。押されっぱなしだった試合に勝った。試合のレベルはお粗末だったけれど、W杯メキシコ大会に少しだけ近づいた。嬉(うれ)しくて、信じられなくて、号泣した。
だから、喜ぶファンの気持ちは痛いほどにわかる。大いに喜んでいい。サッカーというスポーツにより深く興味と愛情を持ってもらえれば、この勝利は大きな意味を持っていたということにもなる。
わたしは、喜べない。
守って守って守り抜いたという点、そして試合自体のレベルが低かったという点において、今回のカメルーン戦と85年の北朝鮮戦は似た部分がある。だが、決定的に違っていたのは、北朝鮮と戦った日本はできることをすべてやって、それでも守るしかなかったのに対し、南アフリカでの日本は、やれることを排除して守りに徹したということである。
自陣にボールがこぼれる。そこからつなごうという意志を、カメルーン戦での日本選手はまるで見せなかった。ただひたすらにクリア。つなごうとすればつなげる状況で、また普段であればつないでいる選手までもが、地域リーグの選手でさえやらないような意図なきクリアを繰り返した。
つまりは、アンチ・フットボールだった。
わたしが技術を重んじる少年サッカーの指導者だったら、頭を抱えている。普段からボールを大切にしろ、つなげと教えてきたのに、自国の象徴たる日本代表が、勝つためにはただ蹴っておけというサッカーをやってしまった。しかも、勝ってしまった。勝利に感動する子供たちに、今後どうやってボールをつなぐ大切さを教え直せばいいのか。
「それしかできなかったのだ」という声もある。わたしは、違うと思う。それしかできなかったのではない。それしかできない状態にチームを貶(おとし)めてしまったのだ。日本には、日本の選手にはもっと楽しいことができるのに、自ら可能性を廃棄してしまったのだ。
皮肉ではなく、本心から思う。この勝利は、日本代表の勝利ではない。岡田監督の勝利だった。勝ち点3と引き換えに、日本サッカーは大きなものを失った。日本=退屈。日本=アンチ・フットボール。この試合で張られたレッテルを剥(は)がすには、相当な時間が必要になることだろう。
こんなにも苦く、こんなにも悲しい勝利があることを、わたしは初めて知った。
コメント(6)
- 武田 厚子2010年6月18日 3:10 PM
成績不振で世間の批判に晒され、新しい一歩を踏み出す事が出来る可能性があった「日本サッカー」は、カメルーンに勝利で、踏み出す足を引っ込めてしまったような気がします。
また、オランダに敗退したとしても「真の反省」はあるのか?という危惧も感じます。
掌を返したような報道姿勢にも驚くばかりです。
- グラスルーツ2010年6月18日 5:37 PM
金子様
はじめまして、こんにちは。
私は少年たちとサッカーをしている草の根指導者です(貴殿のひとまわりほど年寄りです(笑))。
私は頭を抱えていませんよ!
今や「蹴っとけ!」なんて指導者は絶滅危惧種です。
この試合でも良い点、見習うべき点もたくさんあったでしょ。
「悪い見本」とネガティブに捉えないで、課題は改善すべくしっかり検討し、良い点はほめ、活かしていきたいと考えます。
貴殿は世界のサッカー、とりわけスペインサッカーには精通され、高い視点をお持ちだと存じています。故に(日本)代表への期待・要求がそれなりにハイレベルであると思います。
私たち(少年サッカーの)指導者も将来のあるべき代表選手の姿を描き、日々努めているのです。私たち(指導者)の仲間はスペインはじめ各国に指導の勉強に行くものもいます。私は生活もあり、これはかないませんが世界のトップレベル、Jリーグ、ユース、Jr.ユースと様々なレベル・年代の「今」を捉えて先を考えているつもりです。
この試合が決して「日本サッカーの将来」を担う少年への悪影響という捉え方をなさらないでくださいね(比喩的な表現であったとは思いますが)。
日本にハイレベルなサッカー(プレーヤー、サポーター共)が定着するようにメディア代表としてがんばってください。
私たちもグラスルーツの位置でがんばりますので!
- せんにゃん2010年6月19日 2:03 AM
中村俊輔は何故スペインで輝けなかったのでしょうか?間接的に今回の岡田監督の決断のひとつのきっかけになったと僕は思ってます。Jリーグに戻ってからのケガ、そしてリーガでの出場回数の少なさからの試合感のなさ。彼のコンディションが良ければ...とまではおもいませんが、このチームのつなぐサッカーの象徴として一度彼のことを伺いたいです。彼と本田圭佑。ここに何か日本サッカーの未来があるような気がするのですが...。
- コーイチ2010年6月19日 6:56 AM
「どうやって子供につなぎを~」とか
「どうやってこの試合で張られたレッテルを~」
とか大袈裟すぎますって。
- T2010年6月20日 6:47 PM
カメルーンに勝たなければ、日本のサッカーに関する興味は息の根を断たれていた可能性があったことを考えれば、十分この勝利に意味はあったと思います。
悲観するお気持ちは分からないでもないですが、逆に将来に対して光明の見えた試合だったと思います。失いかけてた自信を少しでも取り戻すことができたのですから。
日本の特徴は何ですか?汗をかくことじゃないですか?団結する力が強いことじゃないですか?個々のタレントはその世代によって大きく変わってくると思います。10年後に黄金の中盤を作れるほどのタレントがいるとは限りません。逆に釜本さんのような素晴らしいストライカーを量産しているかもしれません。スペインも今でこそ素晴らしいサッカーをしていますが、バルサにクライフが来なかったらここまでのチームになっていたでしょうか?
それだけに根幹であるこのメンタリティだけは失って欲しくないと思います。そしてこの自信を失って欲しくないと思います。それだけにこの勝利は大きかったと思っています。
- 論理的思考男2010年6月21日 11:05 PM
全くもって同意出来ない。
まず日本の今大会の戦いぶりが退屈かどうか?
パスサッカー、攻撃サッカーに楽しさを求めているのなら退屈だろう。
しかしそれは一部のサッカー玄人(しかも理想家)がくだらないと思っているだけで一般の視聴者は大いに盛り上がり熱狂した。
日本の今大会での活躍、躍進に期待を抱いたから興奮したのである。
組織的な守備(間違いなく守備は破綻が無かった)に面白さを求める玄人(夢想家ではないサッカー通)にとっても血が騒いだと思う。
実力で劣る国が守備的に闘い強国の焦りを誘うのは極めて合理的であり、現実的である。
ボールを繋げというが、繋ぐためには技術、判断力、経験が必要であり個の力が求められる。
個の力が土台となってはじめてゲームの主導権を握れる。
では今の日本に狭いスペースでボールを扱える選手が何人いるのだろうか。
それが出来ないからセーフティファーストで闘った。
苦し紛れのクリアーではなく今までの反省を活かしたセーフティなプレーなのだ。
さらに言えば今回の日本の守備戦術は日本のサッカーの未来にマイナスであろうか。
全くそうは思えない。
この闘い方こそイタリアのような守備の文化の第一歩であり、ドイツのような勝負強さの源泉になる。
あなたの言う「良いサッカー」をしても負けたら、何も残らない。
日本が決勝トーナメントに残り子供が感動しサッカー人口が増えることにより未来に繋がるのだ。
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[スポーツライター] 金子 達仁
- Tatsuhito Kaneko
- 1966年1月26日、神奈川県横浜市生まれ。法政大学社会学部を卒業後、日本スポーツ企画出版社に入社。『スマッシュ』『サッカーダイジェスト』編集部勤務を経て、95年にフリーとなる。著書に「28年目のハーフタイム」「決戦前夜」「敗因と」「泣き虫」などがある。
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