スライドを使わないプレゼンを行う畠山さん
3.スライドを使ったプレゼンにこだわらない
洗練されたスライドを使うプレゼンが一般的となった昨今、あえてスライドをつかわず、身1つで、または小さな紙芝居のようなプレゼンの方が人を魅了することもあります。
2012年のTEDxTohokuで登壇された「森は海の恋人」の代表の畠山重篤さんは気仙沼でカキの養殖を生業にしていおり、また同時にスライドを使わないプレゼンテーションの達人でもあります。よい牡蠣がとれる豊かな海には水の源流となる森を育てる必要があるといったシンプルなメッセージが込められたお話。ストーリーは気仙沼にある大川の上流の森から始まり、かつてカキの名産地であったニューヨーク湾をへて、最後にはシベリアのアムール川と仙台名物の笹かまの関係について展開して行きます。
スライドを使わず観客の視線を自分に集め、「カキが摩天楼に代わっては人類の未来はない」や「シベリアのアムール川の上流の森を守らないと、仙台で笹かまが食べられなくなる」など、人々の想像力に訴えかける言葉遣いで迫力あるプレゼンを展開しました。
及川さんは「一流の心」でプレゼン
4. 一言一言、心を一流にして話す
2011年のTEDxTohoku。「及川デニム」という気仙沼市本吉町にあるデニムメーカー「及川デニム」の女性社長、及川秀子さんのプレゼンテーションは、見事なまでに丁寧で、一言一言に想いが込められていました。「及川デニム」は、100%メイド・イン・ジャパンの高級デニムを製造する東北のものづくりの企業です。プレゼンは、大津波による被災後、地域住民と支え合った日々から本業の再開に至るまで、優しく語られました。その中で、及川氏は製品を買ってくれる人のことを想い、被災地において一流のデニム製品を作ろうと「ひと針ひと針、心を一流にして縫う」ことの大切さを強調します。スピーチを終えると会場は大きな拍手で包まれました。
イベント後も、「私達日本人は、そして東北人は、この様な時はいつもお互いに声を掛け、励まし合い、助け合って生きてきました。(…)あの日(2011.3.11)から私たちは日本中から、世界中から多くの暖かい心、優しさをいただきました。犠牲となり亡くなられた方々の分迄も強くしっかりと生きていく私達東北人の夢や希望、暖かな思いやり、感謝、絆、願い、祈り、そして心。全てが熱い一つの大きな魂となり、私達みんなに力を与えてくれたと思います。」と想いを伝える及川さん。一流の心から発せられた言葉だからこそ、私達の心を強く打つのでしょう。
プレゼンテーターの方たちは、海外で話題になるようなカリスマ性は持ち合わせてないかもしれませんが、それでもご自身の経験によって培った言葉やホスピタリティで、来場者にそれぞれのテーマを伝えていました。親近感を与える方言、完成されたスライドなどを排除した進行や、想いに忠実な心に響く言葉遣いが、ある意味、斬新だったのではないでしょうか?