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【社会】甲子園のラガーさん 最前列の定位置で声援2013年8月17日 14時35分
第95回全国高校野球選手権大会で、熱戦が続く甲子園球場。テレビ中継を見ていると、決まってバックネット裏の最前列に、蛍光色の派手な帽子としましまのラガーシャツの男性がいる。通称「ラガーさん」。1999年から春夏の甲子園を全試合、同じ席で観戦し続けている。(多園尚樹) ラガーさんこと、善養寺(ぜんようじ)隆一さん(47)=東京都豊島区。独身で、普段は家業の印刷業を手伝っている。 初めて甲子園を訪れたのは八五年春。当時、PL学園の桑田真澄さんと清原和博さんが大暴れしていた。以来、毎年甲子園に足を運んでいる。 現在のように仕事を休んで全試合見るまでになったきっかけは忘れたが、理由は明確。「明日なき球児の戦い。すごいしびれるじゃん」 ネット裏はすべて自由席。同じ席を確保できるのは、仲間と協力して前夜から球場の通用門前に泊まり込んでいるからだ。 グループの名は「8号門クラブ」。ネット裏席に続く通用門の番号に由来する。九〇年ごろに結成。それ以前から徹夜したり朝一番の電車で球場に駆け付ける人たちがおり、自然と仲間になった。メンバーは現在、大学生から七十代まで百人近い。 ラガーさんたちはその日の最後の試合終了を見届けると、急いでネット裏に通じる8号門の前に移動。段ボールを敷いたり寝袋の中で夜を明かす。雨の日でも熱帯夜でも変わらない。 荷物置きや入浴のためにホテルを取っている人もいるが、ラガーさんは近くのなじみの食堂に手荷物を預かってもらっている。入浴はスーパー銭湯で済ます。 派手な服装には理由がある。「生意気ですけど、おれが座ってる席は甲子園の中でも五本の指に入る。テレビにも映るし、少しでも目立つ服で、見る人にも楽しんでもらいたいから」とはにかむ。 その存在は野球ファンの間で話題に。記念写真をせがまれたり、食事の差し入れも多い。 夢は一年でも長く甲子園に足を運ぶこと。「亡くなったり、家庭の都合で来られなくなった人も何人も見てきてる。今の夢のような日々が、少しでも続けば最高だね」 ◆球場泊「8号門クラブ」 大学生から70代まで 8号門クラブの中でも、ラガーさんのように毎試合観戦しているのは一握り。大半は仕事や家庭の都合がつく試合だけ駆け付ける。 元高校球児で、愛知県清須市の公務員今井勤さん(38)は二〇〇九年から寝泊まりするようになった。春は仕事が忙しいので、夏の甲子園限定だ。 奥さんと二人の子どもがいるが、「これに関しては仕方ない、ということで理解してもらってる」。ただ、球児の夏が終われば、家族サービスと仕事に専念する。「家族と職場の信頼が必要ですから」と頭をかく。 京都府亀岡市の会社員山本健司さん(59)は十年前から欠かさず駆け付けている。中学まで野球をやっていたが、高校は強豪校のために入部を断念したという。「メンバーは野球をやっていた人が多いが、やり切ったという人は少ない。自分が途中で断念した分、その夢を球児に託す。そんな思いがあるんじゃないかな」と話す。 (東京新聞) PR情報
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