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やさしくない公共(下) 浸潤する「自粛」の圧力 自由は、国民の努力で保持

2013年8月14日

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映画館シネマ・ベティの前で「南京1937」の上映中止を求めた街宣車 =1998年6月9日、横浜市中区

映画館シネマ・ベティの前で「南京1937」の上映中止を求めた街宣車 =1998年6月9日、横浜市中区

「お断りします」。映画監督の想田和弘は、川崎市内で街頭演説していた県議、市議に撮影を拒否された。2011年4月、統一地方選の選挙運動期間のさなか。想田の元にはその日のうちに、両議員が所属する政党の代理人から、映像を使わないよう求める通知書が届いたという。

 公開中のドキュメンタリー映画「選挙2」に、両議員とのやりとりが記録されている。「公道で公的な運動をする公人を、なぜ撮影できないのか」と反論する想田の声は、少し震えていた。「正直、怖かった」。顔をのぞかせた権力を、直感的に悟ったのだ。



 想田は今も「圧力」に立ち向かっている。今月2日、東京都千代田区立日比谷図書文化館で行われた前作「選挙」(07年公開)の上映会。参加者約200人、満員の盛況だったが、一時は開催が危ぶまれた。同区が「参院選前に、選挙制度に一石を投じる映画を上映し、議論が起きるのは好ましくない」と懸念を示したためだという。

 「法的根拠もなく『自粛』を求められるケースが全国で目立っている」。横浜市で活動する弁護士・太田啓子は指摘する。最近では今年4月、福井市の公立施設での展覧会で、憲法9条の条文を記した美術作品が「政治色が強い」として撤去された例がある。

 川崎市中原区の市平和館で毎年開かれる「平和をきずく市民のつどい」の実行委員会事務局長・田辺勝義は、市の担当者からよく「お手柔らかにお願いします」とくぎを刺される。

 つどいは市の「核兵器廃絶平和都市宣言」(1982年)の趣旨に沿い、30年にわたり核廃絶や憲法の意義を伝えてきた。しかし、今はその内容に市がピリピリしている。2007年、それまで毎年認められていた市の後援が「政治的中立性を損なう」として中止に。08年以降も、年によって後援が許可されたり取り消されたりと揺れている。「行政が市民の言葉を一語一句チェックするようになった」と田辺は感じる。



 表現、言論を抑圧する力が、形に表れた事件がある。

 1998年6月6日、日中戦争の、いわゆる「南京大虐殺」を題材にした香港・中国合作映画「南京1937」の公開初日。横浜市中区の映画館シネマ・ベティで、右翼を名乗る男がスクリーンを切り裂いた。

 街宣車は日に日に台数を増し、実弾やカミソリが送りつけられた。それでも、当時経営していた中央興業の専務・福寿祁久雄は、スクリーンをテープで補修しながら上映を続けた。「映す自由がわれわれにはある」という一念だった。

 事件の数日後に同館で観賞した立教大の服部孝章教授(メディア社会学)は、隣に座った右翼団体の男性が、上映後に「いい映画だったね」と涙を流していたのを鮮明に覚えている。「見る機会があるからこそ議論が生まれるのだ」

 一方で、街宣車がうるさいという苦情が、同館に相次いだ。結局、14日間の予定だった上映は9日目で終了。その後、街宣車の男たちは近所の飲食店を借り切り、「バンザイ」と凱(がい)歌(か)を上げたという。福寿は後日、「迷惑をかけた」と近所に謝罪して回った。

 「やっぱり、負けたんだと思う」。15年後の今、福寿はそう考えている。

 「自由は自然に生まれてはこない」と田辺は言い、福寿は「民主主義は自分でつかみ取るものだ」と言う。想田は今、憲法12条を読み返している。「自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」

【〈不寛容〉の現場】「今、僕の表現を守ってくれているのは憲法21条です」と想田。表現の自由を保障した条文だ。自主規制を強いる「空気」に「不戦敗したくない」。米ニューヨークに暮らす想田は、現地で交流している中国やイランの作家にメールを送るとき、慎重に言葉を選ぶ。「彼らの国では表現の自由が制限されている。当局が検閲しているかもしれない」。決して人ごとではない、と感じている。


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